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Byakuya-the Withered Lilac-6

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 ビャクヤの意識が完全に足元の蟲に向いている隙を突いて、メルカヴァは腕を羽に変えて、羽ばたいて浮遊していた。
「ビャクヤ、上よ!」
 ツクヨミは声をあげた。それとほぼ同時にメルカヴァは羽を畳み、鋭く滑空した。
 蟲に足元を纏わり付かれ、その上空中からの奇襲が重なり、最早ビャクヤには防御は不能になってしまった。
「よっと!」
 ダメージは免れないであろう状態に陥ってしまったビャクヤであったが、真横に飛び込んで受け身を取った。
「キョア!?」
 メルカヴァの渾身の奇襲がかわされ、ビャクヤを掴もうとしていた腕は空を切った。
 攻撃をかわされたメルカヴァは、かなり大きな隙を晒してしまっていたが、蟲がいたおかげで、ビャクヤから反撃を受けずにすんだ。
 メルカヴァは、一度地に足をつくと再び、羽を広げて空を飛んだ。そして少し飛んだ先に着地し、ビャクヤへと振り向いた。
「やれやれ……」
 ビャクヤは、鉤爪を元の長さにして定位置に戻しながらため息をついた。
「ゴムみたいにびよーんと伸びるし。コウモリの羽みたいに空は飛べるし。挙げ句の果てが自分でちょん切って生き物みたいにできる。全く。いい加減にしてほしいね。その腕」
 ビャクヤは、静かな憤りを見せていた。
 これまで色々な相手と戦ってきているビャクヤであるが、今宵対峙している虚無はかなり違っていた。
 伸縮する腕を持っているため迂闊に近付けず、近付けた所で腕を羽に変えて空に逃げられてしまう。
 普段は何を考えているか、まるで掴めないビャクヤの表情が、今は誰が見ても怒りを覚えているのが分かる様子であった。
『どうした、来ぬのか? ならばこちらから行かせてもらうぞ!』
 また伸びる腕で攻撃してくるのか。そう考えるビャクヤであったが、予想は大きく外れた。
 メルカヴァは、長い腕を縮小させ、足と同じ長さにした。そして腕を地につけると、四足歩行の獣のような姿となった。
 たてがみを靡かせ走るその姿は、まさに肉食獣そのものであった。
「どこから……!」
 完全に想定外の動きをされ、ビャクヤは反応に迷ってしまった。
 メルカヴァの走る速度は自動車並みであり、ビャクヤとの間合いは一気に詰められた。
 メルカヴァは、ビャクヤの一歩手前まで詰め寄ると、首を僅かに伸ばし、その牙をビャクヤの足元に剥いた。
「させないよ!」
 ビャクヤは上から四番目、腰元にある鉤爪を一組噛ませ、メルカヴァの攻撃を防いだ。
 さしものメルカヴァでも、牙で鉤爪を噛み砕く事はできなかった。
「隙ありだね!」
 鉤爪を噛んだ事によって、メルカヴァはすぐに離れられなくなった。その隙を逃すこと無く、ビャクヤは噛ませている鉤爪以外を立ててメルカヴァをに突き立てようとした。
 ビャクヤの狙いを読んだのか、メルカヴァは噛んでいた鉤爪を離した。しかし、メルカヴァの背後には既にビャクヤの鉤爪が回っており、下がれば突き刺さる状態になっていた。
 ビャクヤは、メルカヴァが飛翔できないように、メルカヴァの頭上にも鉤爪を立てていた。これにより、もうメルカヴァには逃げ場はなくなったように思われた。
『グワアアア!』
 しかし次の瞬間、メルカヴァは口を更に開き、一息大きく吸うと、咆哮と同時に火を吹いた。
「なっ!?」
 ビャクヤは、またしても想定外の攻撃に驚愕させられてしまった。
 メルカヴァの隙をついた反撃確定の瞬間だと思い、防御に回せる鉤爪は、メルカヴァに噛ませていた一組しか残していなかった。
 当然ながらそれだけではメルカヴァの炎の息吹を抑えきれず、ビャクヤは火に包まれた。
「ぬっ! ……ぐくっ。うわ!」
 ビャクヤは、顕現の盾で攻撃をしのごうとしたが、メルカヴァの顕現のほうが力が大きく、ビャクヤの盾は割れてしまった。
 顕現の盾を割られて体勢を崩すビャクヤに向け、メルカヴァは片腕を伸ばした。
『捕らえる』
「むぐっ!?」
 伸びてくるメルカヴァの腕は、ビャクヤの顔面を鷲掴みにした。
 メルカヴァは、ビャクヤの顔を掴んだ腕を一気に縮め、ビャクヤに接近し、ビャクヤの上半身に乗りかかった。
『いただくぞ!』
 メルカヴァは、ビャクヤの肩口に噛りついた。そして肉を少し引きちぎり、ビャクヤの血に流れる顕現の一端を啜った。
『これは格別……!』
「ぐふっ……あ。ああ……」
 血と顕現を一度に吸われ、ビャクヤはふらつき、膝から崩れた。
 メルカヴァは、崩れるビャクヤから羽を広げて離れた。
「ビャクヤー!」
 ツクヨミは、思わず立ち上がって叫んだ。
 ビャクヤは、肉を大きく削がれてはいなかったが、メルカヴァの鋭く変化する牙によって深い傷を負った。
 メルカヴァの牙は、ビャクヤの鉤爪に似て生体器を突き抜ける事ができた。故にビャクヤの受けたダメージは大きくなったのだ。
「ビャクヤ、立ちなさい! ここで敗れるなど……」
 ビャクヤはこれまで、ツクヨミをからかうように、ダメージを受けたふりをしてきたが、今回ばかりはそのような事をする余裕があるようには思えなかった。
『ふむ、少しばかり牙を強く立てすぎたか? あっけない幕切れよ』
 ビャクヤはうつ伏せに倒れ、肩口から流血し、その周囲に小さな血の海を作っていた。
『小僧は死んだ。小僧の顕現は後程じっくりいただこう。まずは娘、貴様の妙な波動を前菜としよう』
 メルカヴァは、ビャクヤが死んだものと思い、ツクヨミを向いた。
「立ちなさい、ビャクヤ! まだ戦えるでしょう? 立つのよ!」
 ツクヨミは、メルカヴァが迫っていても、地に伏すビャクヤに叫び続けた。
ーー不逃……捕食……ーー
 ビャクヤの脳裏には、声にならない意思が伝わっていた。
ーー……分かっているさ。キミの鉤爪(腕)で奴を捕らえて喰らう。けど。少しばかりダメージが大きくてね。キミの力をありったけ僕にくれないかい?ーー
 ビャクヤは、心に響く意思に問いかける。
 意思の返事はなかった。しかし、ビャクヤは力の高まりを感じた。これが意思の答えだと分かった。
 ビャクヤの肩口に穿たれた傷は、謎の力によって塞がっていく。
ーーありがとう。これで好きなだけ喰らえる。あの虚無も。彼女もね……!ーー
 ビャクヤは、ゆっくりと起き上がった。
「いったいなー。肩に孔が空いちゃうところだったよ」
 立ち上がりながらビャクヤは言う。
『なんと……!?』
「ビャクヤ!」
 ツクヨミとメルカヴァは、それぞれ違った驚きを見せた。
 立ち上がるとビャクヤは、メルカヴァに噛まれた所に触れる。
「あーあ。どうしてくれるのさ。体はなんともないけど。服には穴が空いちゃったじゃないか」
 ビャクヤは、制服の内側に手を入れ、メルカヴァの牙で空いた穴から指を出し、ため息をついた。
「姉さんなら直せるかな? この穴。まあいいか。それよりもそろそろ本気で行こうかな。約束じゃあ。お互い一口だしね」
 ビャクヤは、鉤爪を顕現させた。鉤爪はこれまでと違う姿をしていた。
 常に一回りほど大きく広がり、血濡れたような赤に変色していた。
 明らかに変異しているビャクヤの顕現の武器『八裂の八脚(プレデター)』であったが、ビャクヤは、メルカヴァを喰らうこと一心であり、特に気に止めている様子はなかった。
作品名:Byakuya-the Withered Lilac-6 作家名:綾田宗