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今もそっとポケットの中で・・・。

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「はい」奈於は得意の美しいにやけ顔で答えた。「呑んでますよー」
「何を呑むの?」稲見はきいた。
「え?」奈於は答える。「お酒」
「……そうか」稲見は納得した。美佑を見る。「ハッピー・バースデイ。みゅうちゃん」
「ありがとうございます」美佑は丁寧に挨拶をした。「イナッチ、今日は、なんか顔が優しいですね」
「そう?」稲見は、なぜだか嬉しくなった。「みゅうちゃんは、実は四期が決まった時にはすでにそのメンバーの中にいたと聞いたんだけど、本当の話?」
「遅れて入ったわけじゃない、て事ね」奈於が一言補足した。
「あー……。学業、優先で、その時は……」美佑は稲見を見上げていた視線を反らして、言葉を詰まらせる。
「自信がなかったみたい」沙耶は稲見に言った。「でしゃばりの反対、て、なに? それだから。さやと違って」
「やんちゃんは自信家という事?」稲見は頷いた。「だとしたら根拠に基づいた確固たる自信だね。やんちゃんのダンスと歌はかなり素敵だし、正直容姿も素敵すぎる。みゅうちゃんも、弓木ちゃんもね。四期は最強すぎるぐらいだ」
「や、さやは自信があるんじゃなくて、お馬鹿だから、変にひっこめないの」沙耶は一所懸命に説明した。「美佑ちゃんは違うの。凄いのに、凄いんだぞ! て言わないの」
「凄くない」美佑は苦笑する。
「そうか。うちでいう、駅前さんと波平だね」稲見は三人の顔を見回して言う。「私は凄いですと、賞品を魅力的にプレゼンするのが波平。一方、私は大したことありません。しかし、気持ちは本物ですと、賞品ではないものを保証するのが駅前さん。どっちも一般的に、異性に好かれるし、魅力的だ」
「イナッチ、何飲んでるの?」弓木は稲見の持っているカップを覗き込んで言った。「またコーラなんとか?」
「コーヒーだね」稲見は無表情で答えた。「ブラックだよ。お酒より好きだし、飲む回数はアルコールより断然上だ」
「そうりゃそうでしょう。お酒ばっか吞んでたらただののんだくれですもん」弓木は稲見を見上げて言った。
「毎日吞んでる人に失礼じゃない?」沙耶は、笑う。「イナッチって大抵吞んでるよ、ここで」
「ただののんだくれです」稲見は無表情で言った。
 磯野波平は樋口日奈と新内眞衣のいる場所へと駆けつけた。右手にはアサヒの瓶ビールを持っている。
「よっ! ひなっちま。まいっちゅん!」磯野はにこやかに二人に微笑んだ。「誕生日同士でなに内緒話してんだよ?」
「してないよう」日奈は微笑んだ。
「内緒話なら絶対波っちのいないところでするから大丈夫。安心して」眞衣は白い歯を見せて笑った。
「まいちゅんの写真集、届いてるぜ!」磯野はどうしようもなくにやける。「へっへ。内容はなあ、まだ見てねえの! なんかよ、昔っみてえにファン同盟で一緒に見ようって事になってな」
「一緒に見るの?」眞衣は苦笑する。「個人で見てほしいような……」
「ひなちま写真集出すって情報入ってんぜ!」磯野は急いで日奈を見つめた。「この二千二十二年のひなっちまの写真集なんて、やべえもん以外のなにものでもねえなあ?」
「出たら見てね」日奈は優しく微笑んだ。
「たぶん、みんなで見るぜ」磯野はにっこりと微笑む。「まいちゅんのナイスバディとひなっちまのセクシーボディが俺様のあれを刺激するぜえ~……」
「あれって何?」眞衣は嫌そうにきく。
「魂だろうが!」磯野は真剣に答えた。「あれったら、たましいだろうが!」
「んもう、波平君うるさい……」
「声でかいわ」
 賀喜遥香と早川聖来がグラスを手に持ちながらこちら側の会話に参加してきた。
「俺の事大好きな二人がそろってなによ、告白ってかあ?」磯野は有頂天で喜びを表情に表した。「待ってくれよ、さすがに二股はできねえしよ、どっちかつっても選べねえしよ!」
「はあ?」遥香は疑問形だ。
「告白ちゃうよ~」聖来は素敵な笑みを浮かべた。「声大きいなぁと思って、ゆうただけやん」
「おっぱいが何?」磯野はきき返す。
「どういう耳しての?」眞衣は真顔で呟いた。
「お誕生日おめでとうございます!」遥香は輝かしい笑顔で日奈と眞衣に言った。
「あ、おめでとうございまぁす!」聖来も輝かしい笑顔で続く。
「ありがと~」と笑顔で日奈。
「ありがと」と眞衣。
「さっき、おっぱいが何とかって」磯野は顔をしかめる。
「言ってへん!」聖来は笑顔で磯野に怒った。「言わへんからぁ!」
「波平君のエッチ……」遥香は片方の頬を膨らませた。
 磯野波平は賀喜遥香の可愛らしい怒り顔を見て、果てしなく幸せを感じて、じわじわとにたにたと閉まらない顔をした。
「エッチなのは写真集に出てるこの人達だぜ?」磯野はあごで日奈と眞衣をさした。
「いやいやいや」眞衣は苦笑する。「どうしてそうなるわけ?」
「見たがる人がいるから、じゃない?」日奈はゆっくりと瞬きしながら、冷静に答えた。
「そうだよ!」聖来ははしゃいで言った。
「うん」遥香は磯野を見つめながら頷いた。「そうだよ」
「まあな。好きな人の見えねえ部分も、見たいもんな」磯野は深々と納得して何度も頷いた。「二人とも何呑んでんだ?」
「あ、なんかあそこにあった弱いお酒……」遥香は室内の奥の方を示して言った。
「せいらも~」聖来は爽やかな笑みで、缶タイプのお酒を見せた。
「まいちゅんは?」磯野は眞衣を見る。
「シャンパン」眞衣はグラスを見せて答えた。
「ひなちまは?」磯野は日奈を見る。
「芋焼酎」日奈はグラスを持ち上げて、うっすらと微笑んで答えた。
「んじゃあ、乾杯すっか。KP」磯野は瓶ビールを持ち上げて唱えた。
「KPって、まだ言ってる人いるの?」眞衣は少し笑う。「ひっさしぶりに聞いたよ?」
「乾杯はかんぱいか!」磯野は大きく笑った。
 風秋夕は片手にピザを持ちながら、テーブルの前で、梅澤美波と与田祐希と久保史緒里と山下美月と会話に花を咲かせていた。
「バモス! て言ったら呑まないとダメだよ」夕は女子達に言った。「はいバモス」
「それってぐらんぶるやろ?」祐希は夕を見上げてはにかんだ。「もう懐かしい」
「あー、与田が出てた映画かぁ」美波は納得した。ピザを食べる。
「あの映画面白かったよね~」史緒里はテーブルのフードを物色しながら言った。「与田がさあ、終わった後に出演者の名前、流れてくるのなんてったっけ…あれ。エンドロール! エンドロールで三番目に名前出てくんのよ……」
「んふふ」祐希は屈託なく微笑んだ。ピザを食べている。
「やま、さっきっから黙ってるけど、大丈夫?」美波はピザを食べながら、美月を心配そうに見つめた。「気分悪い?」
「ううん」美月は大きな眼を見開いて、微笑(びしょう)した。「なんか、妄想してた……」
「妄想?」夕はそうきいてから、可笑しそうに微笑む。「国民的美女が、妄想? なんの?」
「いや、ヘリコプターって、何で前に行ったり後ろに行ったり、横に行ったりするんだろうってなーって……」美月は苦笑する。「ひたすら考えてた……。ほら、ドラえもんが出すやつ」
「タケコプターね」美月はにやけて答えた。「ヘリコプターじゃ、真夏さんとおんなじじゃん。間違え方が」
「あそう、タケコプター」美月は笑う。