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今もそっとポケットの中で・・・。

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 だって、これからも気持ちは一緒だからな――。
 ずっと一緒に行こうぜ。
 何処まで行けっかわっかんねえけどなぁ。行ってみようぜ。
 未来って場所によぉ。
 二人で。
「まいちゅ―――――ん! まーいちゅーーーーーん!」
 磯野波平は鼻息を荒くして、その眼に新内眞衣の姿を焼き付けていく。誇らしそうに、笑みを浮かべながら……。
 続いての曲が最後の楽曲であると告げられた。
 それは『太陽ノック』。センターは新内眞衣。この楽曲は新内眞衣の初選抜の楽曲でもあった。バックスクリーンには歴史を感じる新内眞衣の映像が流されている。
 端から端までを走り切った新内眞衣は、やがてステージの中心に戻り、大きな笑顔を浮かべていた。
 稲見瓶は眼鏡を外して、指先で涙をぬぐった。
 変わり者だとよく笑われてきた。俺は万華鏡が好きだった。くるくる回すと、ガラス細工がカチャカチャと形を変えて、様々な図形を永遠と作り続ける万華鏡が面白くて、一生見てられた。
 まいちゅんは、俺にとって、万華鏡のような人だ。見ていると、次々と色んな表情を見せてくれる。花開いたりしぼんだり、その表情と感情は様々だ。
 まいちゅんを好きでいる事は、他人に変わり者だと言われた事がない。まいちゅん、君は俺に、絶対に手の届かない場所にあった、普通というものをくれた人でもある。
 個性的。悪く言えば変わり者。そう言われる事の多い俺は、その言葉を気にしたことはない。事実だろうからね。だけど、まいちゅんを推す事に賛同や支持をもらい、他人と同じ気持ちを共有できる普通というものにも、凄く魅力を覚えた。
 まいちゅんは平常心で卒業を実行しているかな。
 俺はと言うと、正直、普通ではいられない。
 卒業を受け入れるのにも、随分と時間と苦労を重ねた。
 まいちゅんがくれた普通は心地の良いものだった。
 だけど、あえて俺はそれをポケットにしまい込んで、個性的な稲見瓶でいよう。
 そのままで、君の卒業を見送ろうと思う。
 いつか、俺が君を笑わせる為に、この変わり者を利用しようと思うんだ。君には笑顔でいてほしいから。
 その時が来るまで、俺は君を大切に想うと誓おう。
 まいちゅん、卒業、おめでとう。
 あまり笑わない、無表情の稲見より。
「まいちゅん、卒業、おめでとう……。まいちゅーーーん!」
 稲見瓶は少しだけ笑って、少しだけ、泣いていた。
 ありがとうございました――。新内眞衣をはじめとして、乃木坂46の皆が手を振り、ありがとうございましたを繰り返し、その幕は下ろされた。
 すぐさま始まるクラップの団体。
 オーディエンスが新内眞衣の再登場を願っている。
 会場中が紫一色のライティングに染まっている。
 徐々にスピードを増していくクラップ音。
 オルゴールの音で『乃木坂の詩』が奏でられ、純白のロングドレスを身に纏った新内眞衣がその美しい姿を見せてくれた。
 苦しかった学生時代。楽しかった学生時代。人生の変革期であった二十歳。乃木坂の募集を知り、人生が変わった事。辛い事、楽しい事、悔しい事、嬉しい事、沢山あった。そんな時、ANNのパーソナリティーに決まったと。
 リスナーは自分を受け入れてくれて、自分自身を、自分自身が受け入れられるようになりました。中学生の時、高校生の時、大学生の時、自分の人生を変えようとしてよかったです。
 一歩踏み出す勇気が在れば、人生は良い方向に変わる――。
 今までお世話になった皆さん、応援して下さった皆さん、ラジオを聴いて下さった皆さん、本当に、ありがとうございました。
 最後に、ソロ曲を歌うと告げた後、やっぱり、お歌は、ちょっと頑張ります、と得意の茶目っ気で涙を吹き飛ばした。
 『あなたからの卒業』が新内眞衣によって歌われる。歌いながら、思わず、込み上げた気持ちに涙を浮かべる新内眞衣……。
 震える声で、彼女は最後まで歌いきった。
 巨大スクリーンの新内眞衣を見つめる風秋夕の頬に、すっ――と一筋の涙が零れ落ちた。
 どうしてこんなにも好きなんだろう。
 まいちゅんが素敵だからだね。
 正直、器用な人じゃないと思う。ただね、俺は不器用なまいちゅんが好きだった。
 飾らないまいちゅんが、好きなんだ。
 気づくと周りを笑わせている。
 君のことを見てる全ての人達の事を、光で包み込んでいる。
 そんな素敵が詰まった九年間だった。
 最高だね。
 まいちゅんを身体の芯から好きになった日の事を、今でも昨日の事のように憶えてる。
 そんな気持ちは、今もそっとポケットの中で生きている。
 これからも、何度となくまいちゅんに惚れちゃうんだろうな。
 好きで好きで、もうどうしようもなくなった時は、君を抱きしめに行っちゃうからね。
 泣いてても笑ってても、からっとした気持ちの良い人だったまいちゅん。君に相応しく、俺も笑顔で見送ろうと思う。
 さよならなんて、言わせないからね。
 卒業おめでとう、まいちゅん。
 またね。
 大好きだ。
「まーーーいちゅーーーーーーーーーん!」
 風秋夕は笑顔で大粒の涙を零したまま、何度も叫んだであろうその尊い名を叫んだ。いつまでもその気持ちを無くしはしないと、誰にでもなく誓いながら。

『えーんちゃんと歌いたかったぁ。でもこんな大きな会場で、歌えて、幸せでした』

 『サヨナラの意味』が新内眞衣のセンターで始まる。いつの間にか、ステージ上に集まっていた乃木坂46のメンバー達が、声を揃えて盛大に歌う。始まりはいつだって、何かが終わる事だと。サヨナラに強くなれ、この出会いに意味がある――と。
 後輩の梅澤美波が、新内眞衣への手紙を読んだ。

『新内さんへ。せんえつながらお手紙を書かせていただきました。改めて、ご卒業おめでとうございます。新内さんがいない楽屋はとても寂しいです。物足りなくて、どこか静かです。でも、明日からこれに慣れなきゃ、これが当たり前にならなきゃいけないんですね』

『新内さんが乃木坂として活動した九年間、新内さんに救われたメンバー、沢山いるんじゃないかと思います。私もその一人です。私が新内さんに言われて一番心に残っている言葉は、私が加入してすぐに言ってくれた「何かあったら私を使ってイジっていいからね」という言葉です。この言葉にどんな意味が込められているのか、凄く考えました。イジられる事って簡単なことではないな、と時間を重ねるにつれて気づきました』

『すべてを受け入れてくれていた新内さんの寛大な心に、当時の私は気づけていなかった気がします。場を和ませるために、本当にありがとうございました。思い返してみれば、新内さんが泣いている時はいつも、誰かの為の涙だったなと思います。誰かの為に、いつも誰よりも涙を流してくれていましたね。副キャプテンの発表がある前に、心配して焼き鳥に連れて行ってくれたことも、会う度に抱きつくのが日課になった毎日も……』

『してもらってばかりで、私は何も返せなかったけど、これから返させて下さい。いつもごちそうしてもらってばかりだったから、次は私に払わせて下さい。だから、これからも沢山遊んでください。本当のお姉ちゃんのように思っています。出会えて、本当に良かったです』