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今もそっとポケットの中で・・・。

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「どこ行ってきたの?」真夏は二人にきいた。
「浅草~……」遥香は答えた。
「浅草かあ!」眞衣は納得する。「間違いないね」
「うん」真夏は笑う。「でも混んでたでしょう?」
「すっごい」遥香は笑って答えた。
「何を飲む、二人とも」稲見は二人に言った。
 遠藤さくらと賀喜遥香は、メニュー表を開く。賀喜遥香が開き、遠藤さくらがそれを仲良く覗き込んでいた。
「どうしよ……」さくらは思い悩む。
「コーヒーあ、コーヒー、飲みたいけど…、あんまり得意じゃないからな……」遥香は呟いた。
「ご飯は食べてきた?」眞衣は二人にきいた。
「はい」
「はい」
 二人は咄嗟に新内眞衣に頷いた。
「じゃ一緒につまもうか」眞衣は納得する。
「さくちゃん、辛いのダメだよね?」稲見はさくらを見る。
「え、あはい」さくらはメニュー表から顔を上げて、稲見に頷いた。
「メインがキムチ鍋だからね。ここのは少々辛いから、何か別に頼むといいよ」稲見は落ち着いた調子でさくらに言った。
「はぁい…」さくらはまた、つぶらな瞳でメニュー表を見つめる。
 賀喜遥香も必死にメニュー表を見つめている。
「可愛いでござるなぁ…四期」あたるは満面の笑みで言った。「この可愛らしい四期の下にでござるよ、なんと、五期が来るでござる!」
「あー」遥香はメニュー表からあたるに顔を向けて笑った。
「ねー」真夏はにっこりと微笑んだ。「肝(きも)が据(す)わってる感じだったけど……」
「え!」あたるは真夏に注目する。「もうすでに五期に会ったんでござるか!」
「あ、これ…言っちゃまずかったかな」真夏は口元に人差し指を立てた。「内緒ないしょ、無かった事にして」
「ねね、とりあえず頼んじゃお?」眞衣は会話のリアクションに忠実に忙しそうだった四期生の二人に微笑んだ。「まだ未成年だっけ?」
「はぁい」さくらは頷いた。「もう少しで、成人式です」
「今年で、二十歳です」遥香は眞衣に答えた。
「なに、五期に期待してるの?」真夏はあたるに微笑む。
「期待も何も、生まれてくる赤ちゃんを愛さない親はいないでござるよ!」あたるは満面の笑みで言った。「早く会いたいでござる!」
「その頃、まいちゅんはいないけどね」稲見は呟いた。
「あ、あぅ……」あたるは、急激に表情を暗くした。「そうでござったな……」
「何しめった顔してんの」眞衣は苦笑する。「そんなん何度もあったでしょ? 今に始まった事じゃないでしょうに」
「そうだよ」真夏もにこやかに笑った。
「ごめん、俺もそういうつもりで言ったんじゃない」稲見は眼鏡の位置を直す。「ただ活き活きと五期の誕生を喜ぶダーリンが、眼の前のまいちゅんの卒業を忘れていそうでね。イライラしただけ」
「そういうつもりで言ってるねえ、それ」真夏は笑う。
「まんまじゃん」眞衣も笑った。
「イナッチ殿は、実はファン同盟で一番怖いでござるよ……」あたるは横目で稲見を一瞥して言った。
「イーサン、みかんジュース、二つ、お願いします」遥香は空中を見上げて言った。
「さくちゃん殿、もしも、イケメンだけの高校があったら、という新ドラマにヒロイン役で出演するみたいでござるなあ?」
「はい。今撮ってます」さくらは薄い笑みで答えた。
「ふうん。どんなドラマなの?」眞衣はさくらにきく。
「どんなドラマ……。それこそ、タイトル通りの、ドラマです、ね……」さくらは思考しながら眞衣に答えた。「えどんなドラマ……、どんなドラマなんだろう……」
「ラブ・ストーリー?」稲見はさくらを見つめる。「それとも、コメディかな」
「え……、コメ、ディ?」さくらは考えながら、必死に答える。「言っちゃっていいのかな……」
「ここにカメラは回ってないよ」稲見は微笑んだ。「安心していい」
「ラブ・ストーリーです」さくらは答えた。隣で遥香が「へえ」と唸っている。「コメディ、でもあるのかな……」
「ラブ・ストーリーやっちゃうんだ?」眞衣は意味深に微笑んだ。「ファンとしてはどうよ?」
「嬉しさ半分! 悔しさ半分でござる!」あたるは立ち上がって叫んだ。
「内容は、まだ言えないんですけど」さくらは微笑んだ。「ラブ・コメディだと思います」
「ラブコメ」眞衣は囁いた。「やるじゃん、さくちゃん」
「ありがとうございます」さくらは微笑んだ。
 姫野あたるは着席する。
 フードの品が、イーサンの呼び声と共に届いた。稲見瓶はそれをキャスタの付いた移動式のキャビネットでテーブルへと運んだ。
 稲見瓶は気が付いたかのように、イーサンにラブ・ストーリーの音楽を要求した。
 流れてきたのは、ファウンテンズ・オブ・ウェインの『ステイシーズ・マム』であった。
「食べながら聴いてほしい……。この曲は、ファウンテンズ・オブ・ウェインというバンドのステイシーズ・マァムという曲なんだけどね、これが一風変わってて面白い」
「なんか、イケてる曲だね……」眞衣は空中を横目で見上げながら呟いた。
「聴いたことなぁい」遥香は囁いた。
「私も初めて聴く……」真夏も呟いた。
「私もない」さくらは音楽を聴きながら呟いた。
「中一ぐらいの男の子にね、ステイシーというガールフレンドがいてね。ステイシーは、主役の男の子は当然自分の事を好きだと思い込んでる。でもね、実はタイトルの通り、男の子は、ステイシーじゃなく、ステイシーのお母さんが好きなんだ」
 女子達は食器を並べながら感心している。姫野あたるは眼を瞑ってノリに乗っていた。
 稲見瓶は説明を続ける。
「このステイシーズ・マァムのMVでね、プールのシーンがある。そのシーンでは浮き輪に座った男の子が窓の向こうにいるステイシーのママを見てるんだけど、その視界に入ってきたステイシーは、男の子は自分を見てるものだと、また勘違いをする。男の子は炭酸のジュースを飲もうとして、窓の向こうのママが着替えを始めた事に驚いて、ジュースを零すんだけどね。それを見たステイシーがね、私に見とれすぎ、と言わんばかりにまた、くすくすと自信満々に笑うんだ。そのシーンのステイシーがね、とっても可愛いから、今度見てみるといいよ」
「ステイシー? マム?」眞衣は携帯電話をいじり始める。
「ステイシーズ、マァム。最後のシーンではね、主役の男の子がトイレで、ステイシーのママを思い出して……アレをしてるんだ」
「あれって何?」真夏は稲見に不思議そうな顔を向けた。
「アレとは、……アレだよね。トイレで興奮して、アレをしてるんだ。わかった?」
「なに?」真夏は不思議そうに、小首を傾げる。
「つまり……アレだよね。ひとりよがり、というか。わかる?」稲見は四期生達に救いを求めた。
「わからない」さくらはきょとん、としている。
「え何?」遥香は表情を険しくした。「アレ? て何……」
「アレとは……、つまり……。マスターベーションだね」稲見は気まずそうに答えた。
 理解した者から苦笑していく。
「主役の男の子が、トイレでそれをしていたら、ステイシーが知らずに入って来るんだ。そしてそれを見て、慌ててドアを閉める。閉めた後でね、マジか…そこまで私に興奮してるの? みたいな感じで、やっぱり笑うんだよ、ステイシーが。そのステイシーもかなり可愛い……。見てほしいな。女の子の勘違いは、可愛いね」