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BUDDY 13

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 聖杯戦争のことなどアーチャーの頭にはなかった。凛は気を利かせてそっちは大丈夫だから、と背中を押してくれようとしたのだろうが、アーチャーが今足踏みするのは、士郎をどうやって誘えばいいか、ということに対してだけだ。
「平日なら士郎を連れ回しても大丈夫でしょ?」
「ま、まあ……」
「なんだよ、今さら尻込みかぁ? なっさけなぇ」
「む。そういうことでは、ない、こともない……のだが……。と、とにかく、礼を言う。行き詰まっていたのは本当だ。凛、ありがとう。そしてランサー、礼を言う必要性は感じないが、感謝する」
「けっ! 素直にありがとうって言え」
 不貞腐れるランサーは、コップに注いだ日本酒を飲み干した。
「ところで、それ……、何杯目だ……?」
 不意に思い出した高級日本酒のことが気になって訊いたが、ランサーは首を傾げている。
「さあなあ?」
 すでに一升瓶の底に僅かに残っているのが見える高級日本酒は、ほとんどをランサーが飲んでしまっていた。
「藤村のじいさんに殺されるぞ……」
「あーん? だいじょぶ、だいじょぶ! 誰が飲んだとか、わっかんねえから!」
 カラカラと陽気に笑うランサーが、後日、屍のような姿になるのをアーチャーは目撃するのだが、それはまた別の話である。



☆★☆★☆

 ————某日、またしても密談がされていた。
「最近どうよ。うまくいってんのか、あいつら?」
「うーん……、なんとも言えないわねぇ」
 衛宮邸からの帰り道、居合わせたランサーに家まで送ってもらうことになった凛は、先日アーチャーを焚きつけた成果を訊かれ、肩を竦めながら答えた。
「奥手だもの、エミヤシロウって奴らは」
「まあ、そうだな。っていうか、鈍すぎだろ、あいつら……」
「否定はできないわ……。ところで、ランサーって、面倒見がいいのね?」
「嬢ちゃんほどじゃねえぞ?」
 笑い合う二人は、少し前も協力していた。
 士郎が消えたいと言ったその日に、凛がランサーに密談を持ちかけたのだ。その後は、アーチャーも士郎も本音でぶつかり合うこともなく、ぎこちなく過ごしているので、成果があったかどうかは微妙としか言えない。
「嬢ちゃんも苦労するなぁ」
「そうねぇ。でも、仕方がないわ。乗りかかった船だし」
「はは……。んで、坊主はもう消えたいとは言わねぇのか?」
「今のところはね。だけど、アーチャーがグズグズしていたら、また士郎は、消えたいって言うわよね……」
「しっかし、消えたい、なんて、坊主が絶対に言いそうにない言葉だな……。ああ、いや、おれの比べる坊主っていやあ、セイバーのマスターやってる坊主だけどよ。そういうこと、言いそうにないだろ?」
「ええ。やっぱり貴方もそう思うのね。……だから、余計に本気なんだ、っていうか、切実なんだと思うの」
「確かにな」
 頷くランサーに、凛も頷き返す。
 あのとき、アーチャーがどうするのか、それ次第で士郎が望んだ通りに消えたいと言うか、思い留まるかのどちらかになるのは明白だった。
 士郎が現界を続けるかどうかは、凛とランサーにとって賭けのようなものだった。アーチャー次第の謀とも言え、士郎の意思はないのか、と二人が知れば憤慨されそうな謀ではある。だが、アーチャーの出す答えで、士郎がここに現界する意味を見つけられない場合は、士郎の希望を叶えるつもりではいた。全くの勝手なお節介ということではないのだ。
 当の本人たちは口を出すなと言いそうではあるが、彼らはこうでもしないと一つも先へ進まないと凛は踏んでいる。
「士郎が……、ううん、エミヤシロウが辛いって他人に漏らすなんて、大変なことだと思うの。あいつら、ほんっと馬鹿みたいに辛抱強いんだもの。こっちが引くくらいにね」
「ふーん。そんで、嬢ちゃんがひと肌脱いだってぇわけか」
「そうでもしないと、あいつら、ほんとにこのままダメになるもの」
「放っとけばいいじゃねえか。嬢ちゃんには関係ないだろ? もう、とっくに死んじまった奴らの未来なんざ」
「そうなのかもしれないわね。……これは、私の自己満足なのかもしれないってわかっているの。だけど、放っておけないのよね、あいつら。……好きなら好きって、言えばいいじゃない。そうは、思わない? なんにも我慢することなんてないでしょ?」
 中空を見上げながらランサーは息を吐いた。
「……大人になりゃ、そんな単純でいられねえよ」
 夜風が青い髪を撫でて通り過ぎた。赤い瞳が何を見つめているのかなど凛には計り知れないが、英雄と謳われた存在にはそれなりにいろいろな経験があったのだろう。
「なによぉ、大人ぶっちゃってー」
 真剣な横顔が何やら落ち着かず、凛はランサーをからかった。
「おいおい、おれは紛うことなき大人の男だぜ?」
 流し目を送ってくるランサーに、ふふ、と凛は笑う。
「私に色目使ったって、いいことないわよー。愛だの恋だの、そういうのは、心の贅肉。私には必要ないわ」
「…………嬢ちゃん、やっぱり、いい女だな」
「あら、今頃気づいたの?」
 さらりと黒髪を払う凛に、ランサーは快活に笑った。
 いまだ士郎とアーチャーは、どこへ転ぶともわからない状態で、すんなりと事は運んでいないが、二人の関係が僅かながら変化をしつつあるようだと凛は感じている。
「お互いに意識しているのは、明確なのに……」
 肩を落とした凛に、ランサーは苦笑いを浮かべる。
「そう、ガッカリすんなって。奴らもどうにかしねえと、ってことはわかってるはずだからよ」
「そうね。アーチャーが、やっと重い腰を上げたものね」
「何か言ってきたのか?」
「なんにも言ってこないんだけど、今、アーチャーは短期のバイトをしているわ。やっぱりアーチャーも現代っ子なのよね。何をするにしても資金が足りないって考えているんだもの。どんなデートのプランを立てているのかは知らないけれど、アーチャーは、いつになくやる気満々よ」
「ほー。そりゃ、楽しみだな?」
「そうね。だから、今、私は見守っているのよ」
「気遣いのできる保護者ってのは、いいねえ。あいつら幸せ者だ」
「ふふ、もっと褒めていいわよ?」
 ランサーと他愛ない会話を楽しみながら、あの二人も、自分たちのように楽しく笑い合うことができればいいと、凛は思わずにいられなかった。



***

「士郎、午後一時半に集合だ」
「は?」
 朝食の後片づけをしていた士郎は、いきなりそう言われて、当然の如く訊き返した。
「いいな。駅前に一時半、わかったな」
 士郎の応諾を聞かないまま、アーチャーはさっさとキッチンを出ていってしまう。
「…………はい?」
 わけのわからないまま、理由も目的も聞かされず、士郎はいくつもはてなマークを頭に浮かべたままだ。
「えっと……、なんか、セールとか、あったっけ……?」
 アーチャーに時間を指定されて駅前に集合など、今まで言われた試しがないため、士郎は軽く混乱している。
「集合ってことは、アーチャーも行くんだよな? だったら、一緒に出ればいいんじゃないのか?」
 食器を洗い終えて、アーチャーを探せば、テラスで洗濯物を干している。
作品名:BUDDY 13 作家名:さやけ