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ポケットいっぱいの可愛い。

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「ああ、はは。顔ね」夏男は微笑んだ。「別に、昔家が火事になったとかじゃないんだよ。これはね、先天性の、遺伝子の異常なんだって。さんざんウパやかつおにもゾンビゾンビって言われたよ~あっは」
「そう、でござったか……」
「おほん。夏男さん、コーヒー、淹れるの上手ですね」稲見は夏男に微笑んだ。
「昔ね、コーヒー淹れるの、もっとうまくなってね、て……。女の親友に言われてね。それから練習したんだよ。大丈夫だよイナッチ、急に話題変えなくても」
「……」稲見は黙っている。
「顔はね、確かに心の窓だ。でもね、決して人は見た目だけじゃないよう。心だって重要だ。その心を、病んで痛めている人だっている。でもその心を、ちゃんと大きく見つめて、純粋な部分を見てあげるといい。心だって顔だって、傷跡は残る。だけど、それを癒してしまう光のような栄養が、何かを真剣に好きになる事なのさ」
 姫野あたるは、己の発言を恥じて、涙していた。
 稲見瓶は、黙って夏男を見つめている。
「俺の心も、この顔とおんなじでただれてた……。そんな時、モーニング娘。に出会ったんだ。こんなに純粋な子達が、必死になって頑張ってるんだ、と思ったらね、自分の犯している全ての罪が恥ずかしくなったんだ。それからは、モー娘。に相応しいファンになろう、てね。んもう必死だったよ」
「小生も……、今も、必死でござる……。乃木坂に相応しいファンになる為に、必死でござる……。近年、少しずつでござるが、自分を受け入れてこれたでござる……。しかし、やはり小生は、自分自身が一番嫌いでござる……」
「純粋な愛情を持った心が整数だとして、環境の与える変数なんてそこらじゅうに溢れてる。誰もがいつも自分自身を上手に愛せるわけじゃないよ」稲見はあたるに言った。
「生まれ落ちたその時から、もう人生は始まってる。この世はフェアじゃないんだよ、ダーリン。生まれたその時から、たぶん、俺やダーリンは、人にはないリスクを抱えて生まれてきたんだ。俺は顔。ダーリンは前半の人生だね。でもね、それが現実ってやつなんだ。生まれたその日に亡くなる人だって事実いるんだよ。与えられたフィールドで、与えられた条件の中で、自分自身の光を見つけるんだ。誰だってきっと出会うよ、その大切な何かに。そして、きっと必死になれる。自分の闇にどんなに呑まれそうになっても、かたくなに大切な、それを想う気持ちは絶対に折れない。折っちゃいけない。それが、好きということだ。永遠を誓うということだよ」
「永遠を誓う……」稲見は囁いた。
「見つけた光に対して、絶対に、感謝を忘れてはいけないよ」
「乃木坂は、光でござる……。みなみちゃんにも、小生はずいぶんと、助けられてきたでござるよ……。この暗闇に落っこちていた小生を、乃木坂のみんなが……。永遠は、確かに誓ったでござる……」
「人はなぜ、落ちるんだろう。バットマンビギンズっていう映画でね、こういうセリフがある」夏男はあたるを見つめて、微笑んだ。「人はなぜ、落ちるんだと思う? それは、這い上がる為だ」
「這い上がる為……」あたるは深く、眼を瞑る。
「俺のこの顔も、ダーリンの心の傷も、変わらない……。残るものだ。けどね、そればっかりを見つめて生きていくのは、馬鹿馬鹿しいじゃない?」夏男は微笑んだ。「そんな生き方、しちゃいけないよ。光合成だよ。心に光を照らしてもらって、浄化するんだ。そしたら、毎日が真新しい真っ白な心でいられるじゃない」
「そうか」稲見は、囁いた。「そんな大きな存在を、失う事が、卒業なんですね……」
「そうだよ」夏男は強く、二人を交互に見つめた。「ダーリン、君の涙は、間違ってない」
「っうぅ……」
「卒業は、確かな別れだったよ」夏男は真剣に言う。「その人が消えて無くなるわけじゃないよ。だけどね、だけど、それは今まで通りのそれとは、確かに違うものになる……。それはアイドルにおいて、最初にくる確かな別れだったよ。それが、卒業だ」
「はい」稲見は頷いた。
「笑顔で、見送りたいでござる……。どんなに、どんなに小生がみなみちゃんを好きだったか! 神様仏様、見ていて下され!」あたるは、涙したままで叫んだ。「もしそれができたなら……、みなみちゃんに、永遠の安息と、幸せを、贈って下され……」
「乃木坂で十年も頑張った人が、幸せになれないわけがないよ」夏男は微笑んだ。
「みなみちゃんが好きなシチューとカレーを、十年近く作ってきたけど、けっきょく一口も食べてもらうチャンスが無かったな……」稲見は囁いた。
「それは、NGでござるよイナッチ殿……」あたるは、涙をふいて微笑んだ。「イナッチ殿の手料理は、いささか、味が個性的でござるゆえ」
「うん。料理は想像力だからね。レシピを見ないで作るのが楽しいんだ」
「それじゃお父さんとそっくりじゃない……」夏男は苦笑した。
「そうなんですか?」
「まあ、ね……」
「では、みなみちゃんの卒業を祝して……、昼間っから、夏男カレー、いっちゃいますかでござる!」
「いっちゃおいっちゃおう!」
「手伝いましょうか?」
「いいよ!」
「ダメでござる!」
「そう……」
「みなみちゃんも、カレーを食べてるでござるかな?」
姫野あたるはそう言って、コーヒーをすすった。コーヒーはもう、冷めてしまっていたが、姫野あたるの心は、ほかほかと湯気ののぼるコーヒーのように温まっていた。

       6

 二千二十二年二月三日。この日の夜に〈リリィ・アース〉で催されているのは一月と二月生まれの生誕祭であった。生誕祭のパーティー会場となっているのは地下六階の〈無人・レストラン〉二号店である。
 本日の主役である印の光り輝くティアラをしているメンバーは、乃木坂46四期生の松尾美佑、三期生の梅澤美波、四期生の黒見明香、二期生の新内眞衣、一期生の樋口日奈、四期生の弓木奈於、一期生の星野みなみ、OGの高山一実、乃木坂46ファン同盟の駅前木葉であった。
 地下六階の〈無人・レストラン〉二号店は、立食パーティー会場として尊い働きをしている。壁面に度々見える装飾は煌々としており、床一面に敷き詰められた幾何学模様のからし色の絨毯は美しく、フィールドに色を添えるように設置されたテーブルはどれも高品質なもので、飾られた料理たちは腕自慢のシェフ達がこぞって制作した味自慢の御馳走ばかりであった。
 弓木奈於と松尾美佑と黒見明香が出入り口から最も近いテーブルで談笑していた。姫野あたるはそれを確認して、近くに歩み寄った。
「しばらくぶりでござるな、みんな。元気でござったか?」あたるは足を止めて、微笑んだ。「弓木ちゃん殿、ミュウちゃん殿、くろみん殿、ハッピー・ハッピー・バースデイでござる!」
「あーダーリン」奈於はあたるに笑みを見せる。「ダーリンの歌、乃木坂スター誕生で歌ったんだよ。誰だっけ? 歌ったのって」
「ダーリンの歌?」美佑は小首を傾げる。
「ふんふんアイラ―ビューダーアリ~ン、イーイー、イーイ~」奈於は歌ってみせる。
「あー広末涼子さんの歌だ」明香は笑窪を作って笑った。「誰だっけ、歌ったの……」
「あ私だあ」奈於は驚く。「私とぉ、掛橋紗耶香ちゃんと、璃果ちゃんだ。とで歌ったんだ。そだ、大好きって曲」