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ポケットいっぱいの可愛い。

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「あしゅみなね」みなみははにかんで笑った。「飛鳥、今日はいないのかな?」
「乃木坂レーダーが使用不可だからね、わからない」稲見はみなみを一瞥して答えた。「レーダーを使用不可にしたのも飛鳥ちゃんだ」
「なに、乃木坂レーダーって……」みなみは不思議そうに、きょとん、とする。
 その天使のような星野みなみの表情に、三人の男子達は、少しだけ、緊張した。
「ああ、乃木坂がここに来てくれた時に、イーサンが教えてくれるシステムの事だね」稲見はみなみに答えた。「それをうざったいと、飛鳥ちゃんが使用不可にしたらしい」
「へー……」みなみは感心してから、美少年を一口呑み込んだ。「……はあ」
 日本酒を一口呑み込んで、苦そうに、片眼をつぶって顔を険しくしかめた星野みなみに三人の男子達は、密かに胸をときめかせた。
「みなみおなも好きだったな」磯野は笑顔で言った。「イーサン、俺もラム・コークな!」
 流れていた楽曲が、ジョマンダの『アイ・ライク・イット』に変わる。
「そういえば、みなみちゃんと飛鳥ちゃんと未央奈ちゃんの三人で、乃木中でどこかのパークにロケに行った神回があったね」稲見は淡々と言った。
「あったっけ?」みなみは稲見を見る。
「うん」稲見は頷いた。「公園の池? 湖? でみなみちゃんと未央奈ちゃんが自分達の足でパドルをこぐタイプのボートに乗って、残された飛鳥ちゃんが池の鯉に餌をまいて……。憶えてる」
「ああ、あったな」磯野は笑う。「飛鳥っちゃんが、貝食って、ぶにょぶにょ、とか言ってたっけな。どっこにも歯が通んない、とか言ってっ」
 イーサンの呼び声と共に、ラム・コークが二杯届いた。
 風秋夕はそれを己の席と、磯野波平の席へと運んだ。
「ちょっと失礼……」
 風秋夕は、一向に減らない星野みなみの呑んでいた日本酒を、一気に呑みほした。
「あああ!」磯野は騒ぎ立てる。「間接キスっ!」
「……」稲見は、無言で夕を見つめたまま、眼鏡の位置を直した。
 星野みなみは「え?」と驚いている。
「はい。こちらを……」
 風秋夕は、少し前から届いていたカンパリオレンジを、星野みなみのスペースへと移動させた。
「甘いのがいいよね」夕はみなみに微笑んだ。
「あー、ありがと」みなみは苦笑する。
「間接キスしただろてーめえっ!」
「黙れハウス!」
「あ、もう十二時だね」稲見はみなみを見て、グラスを持ち上げて微笑んだ。「十二時過ぎのシンデレラに乾杯」
「んふ。かんぱーい」星野みなみは笑顔で、稲見のグラス同様に、己のカンパリオレンジを持ち上げた。

       2

 二千二十一年十二月二十四日、クリスマス・イヴ。聖なる夜の宴は続く。ミュージックステーション・ウルトラ・スーパー・ライブ2021の生放送を終えた乃木坂46は、ここ〈リリィ・アース〉にて催されているクリスマス会に参加していた。各々の仕事を終えた卒業生達も集まっている。
 クリスマス会が深夜にさしかかったところで、徐々に明日を考慮した上で帰宅するメンバーが増える中、星野みなみは、新たに地下八階の〈BRAノギー〉に現れた乃木坂46三期生の梅澤美波と、同じく三期生の山下美月と与田祐希と、乃木坂46ファン同盟の風秋夕と磯野波平と戯(たわむ)れていた。
「みなみさん何で卒業しちゃうんですか~」祐希は悲しそうな顔でみなみに言った。
「えー、ふふん。卒業しまーす」みなみははにかんだ。
「寂しいじゃないですか~」祐希はアルコールを一滴も吞んでいないが、雰囲気に酔っていた。「残されたゆうき達はどうすればいいんですか~……」
「どうしよう……がん、ばればいいんじゃない?」みなみは天使のように微笑みを浮かべる。
「あんた酔ってんの?」飛鳥は座視で祐希を見つめた。
「酔ってませんよ」祐希は開き直った表情で答える。
「あたし、酔ってますよ~」美月は赤らんだ顔で飛鳥に微笑んだ。「呑んでますか~、飛鳥さぁ~ん」
「ダメだな、こいつは」飛鳥は呟いた。
「みなみも、そろそろ酔ってきたかもー」みなみは頬を手の平で触った。「あつーい……」
「クリスマス、って事でよ」磯野は満面の笑みを浮かべる。「王様ゲームでもしねえ?」
「それしか言えんのかお前は」夕は溜息を新しくして、頬杖をついて飛鳥を眺める。
「みなみ、結構呑んでるよねえ?」飛鳥はみなみにうっすらと微笑んで言う。「それって何呑んでんの?」
「シャンパン?」みなみは笑顔で答える。「ずっと同じの呑んでる。あでも、意外と呑んでなーいかも……。ほんと、三杯目ぐらいかな」
「ゆっくり吞んでんだ?」飛鳥は関心を抱いて言った。
「うぅんゆっくりぃ」みなみは頷く。
「?」飛鳥は夕の視線に気が付いて、眼を座視にする。「なに……」
「眼の保養」夕はにっこりと笑みを浮かべた。
「夕君、あたしの事も見てもいいよ」美月は赤らんだ笑顔で夕に言った。「眼の保養になるかなあ?」
「なるとも」夕は頬杖をやめて、美月に微笑む。「顔見ててもいいの? 有料でしょう?」
「ふふ無料」美月は夕に微笑み返した。
「なんか、危ない。この二人」みなみは飛鳥に報告する。「危険じゃない?」
「アホか」飛鳥は呟いた。「アホですよ」
「今日ははええ時間からしこったま吞んでっからなあ、俺も夕も」磯野は飛鳥とみなみに顔をしかめて笑った。「しかも乃木坂と呑める酒なんざ、昔は想像さえしなかったからなあ? こいつにとっても、俺にとっても特別なわけよ」
「ゆうきも吞もうっかな~……」祐希は磯野を見つめる。「何呑んでるん?」
「アスカ」磯野はそう答えてから、飛鳥に微笑む。「アスカに、酔っちまったぜ……」
「はい?」飛鳥は表情を険しくする。
「にっひひ、さっきはミナミ呑んでたしな!」磯野はみなみにも微笑んだ。「乃木坂色で染まってんぜ、今夜の俺様の胃袋は!」
「そんなに見つめて、後でどうなっても知らないよ」夕は弱く、笑みを浮かべて美月に言った。「病みつきになるよ、俺ばっかり見てたら」
「ふふ私一目惚れとかしないタイプだから」美月は妖艶に微笑んだ。「ふう。ほんとに、酔っぱらってきちゃった。あっつい……」
「脱がないで下さいよ、お姫様」夕はくすくすと笑った。「どうしても脱ぐなら、俺の前だけにして下さい。独り占めしたい」
「ねえこの二人ヤバくない?」みなみは飛鳥と美月達をきょろきょろと交互に見る。「ちょっと、変な事言ってるんですけど」
「ほっとけ」飛鳥は吐いて捨てた。
「じゃあゆうき何呑めばいい?」祐希は磯野を見つめる。「一杯だけ、呑むとしたら」
「コンノサン、てカクテルにしな」磯野は両方の口元を引き上げて白い歯を見せてにやけた。「カクテルなのか? ありゃ……ん~、でもまあ、酒が混ぜてあっからカクテルだな」
「コンノサン? て、今野さん?」祐希は眠たそうな眼で磯野にきいた。
「アルコールとアルコールで割ってあって、アルコールじゃねえのはレモンエキスしか入ってねえ純粋なカクテルの王よ!」磯野は楽しそうに説明した。
「与田ちゃん殺す気か」夕は磯野を一瞥してから、祐希を見つめる。「ミラージュにするといいよ。逃げ水、て意味のカクテルで、吞みやすいけど、強い方だから。一杯吞むのでも満足できる」