ポケットいっぱいの可愛い。
「あじゃあ、それにしよ」祐希は天井を見上げる。「イーサンいるぅ? カクテルのミラージュ一杯ちょうだい」
電脳執事のイーサンが応答した。
「あー夕君眼ぇ反らしたぁ、私の勝ちぃ~」美月は楽しそうにはしゃぐ。「はい、脱いで」
「おうよ」磯野はアラジンの衣装を上着だけ脱ぎ始める。「命令されたら、なあ……」
「ちょっと!」飛鳥は迷惑そうに顔をしかめた。
磯野波平は整った筋肉美を、様々なポーズをとる事で、注目する皆に見せびらかす。
「すっごいね……」みなみは眼を見開いて、手で口元を隠して驚愕している。
「こわ」飛鳥は嫌そうに磯野を一瞥して苦笑した。
「強そう……」祐希は呆然と呟いた。
「夕君だよ、脱ぐの」美月は可笑しそうに苦笑した。
「こいつはしょべえから」磯野はにやける。
「あぁ?」夕はネクタイを外す。「本当に鍛え抜かれた身体ってのをお前に教えてやる……」
「ちょっとお!」飛鳥は迷惑そうに怒る。
磯野波平の隣にて立ち上がった風秋夕は、上着を脱ぎ棄てて、上半身の鍛え抜かれた細身の筋肉を注目する皆に見せた。
「格闘家の、身体だね、夕君の方は……」みなみは眼をぱちくりとさせて夕を見つめた。
「強そうだな……」祐希は呆然と囁いた。
「わかったから、お前ら、もう着ろ」飛鳥は溜息を吐いた。
「うわあ、すっごい身体してんねー!」美波は己のグラスを運びながらそのテーブルに来た。祐希の隣に着席する。「なに、戦うの?」
「やるまでもねえ」磯野は鼻で笑う。
「まだ勝敗ついてないだろ」夕は磯野に座視を向けて言った。
「あんなあ、いつまであの頃の俺だと思ってんだてめえは……」磯野は大きく鼻から溜息をついた。「こっちゃ何年も何年も、鍛えぬいてきてんだよ! てめえなんざワン・ラウンドKOだ馬鹿たれ」
「その馬鹿力でワン・ラウンドで俺を仕留められなかったら、もう俺の勝ちだぞ」夕は笑みを浮かべて磯野に言う。「筋肉からいって燃費の良さと、スタミナが違うからな」
「わかったから、はいはい、強い強い、だからもう着てくださいよ」飛鳥は呆れた表情で呟いた。
「イーサン、いるぅ?」祐希は天井を見上げて言う。「お寿司を一人前と、馬刺しの、美味しいやつ。ちょうだい」
畏まりました――と、電脳執事のイーサンが応えた。
「えー、私も頼もう~」美波はメニュー表を開いた。「飛鳥さんとみなみさんは、何か頼まれますか? ついでに頼んじゃいますけど……」
「肉食ったからなあ……」飛鳥は考える。「てきとーに、デザート的なの頼んどいてよ」
「了解しました」美波はみなみを見る。「みなみさんは?」
「みなみいらなーい」みなみは笑顔で言った。
一方、風秋夕と磯野波平は服を着直して、別の空いているテーブルで腕相撲を始めていた。
「飛鳥さん、にらめっこしましょうよ」美月は笑顔で飛鳥に言った。
「はあ?」飛鳥は顔をしかめる。「しないよ」
「あ、イナッチとにらめっこしたいな……。イナッチどこだろう?」美月は両手で頬を触る。「ふ~、酔いが落ち着いてきた……」
「イナッチなら地下二階のあの場所にいるって」祐希は〈レストラン・エレベーター〉からカクテルのミラージュを受け取りながら美月に言った。「行くう?」
「あうん、じゃあ行こうよ」美月はゆっくりと、立ち上がる。「あ……。腕相撲してる、はっはうける!」
「くっそぉ馬鹿力があ!」夕は右腕に集中させた全力を振り絞る。
「ふふん蟻(あり)んこの力はこんなもんかね」磯野は右腕を少しだけ力ませていた。
「イーサン、さっき頼んだ馬刺しの美味しいのと、お寿司一人前を、やっぱり地下二階の、東のラウンジに届けて」祐希はイーサンの応答を確認すると、天井から視線を下げ、美月の後に続いて歩いて行く。
姫野あたるは〈BRAノギー〉の入り口に入り、すぐに発見した星野みなみと齋藤飛鳥と梅澤美波の姿に笑みを浮かべて近づいた。
「だい~ぶ数が減ったでござるなあ?」あたるは空いている席に座った。「飛鳥殿、みなみ殿、梅ちゃん殿、メリクリでござる」
「何回言うの」飛鳥は苦笑した。「今日ずっと言ってる気がすんだけど……」
「メリークリスマス」美波はあたるに笑顔を返す。「何か、呑みます?」
「メリクリ~」みなみもあたるに笑みを浮かべた。
「では、梅ちゃん殿おススメの、辛い何か、腹の膨れるものをお願いするでござるよ」あたるは満面の笑みで美波に言った。「あとは、スーパードライでござろうか」
梅澤美波は電脳執事のイーサンを召喚して注文を済ませた。
「姫野氏って、一般人で好きだった人って、いるの?」飛鳥は唐突につぶらな瞳であたるを見つめてきいた。
「いやいないでござる」あたるは少しだけ驚いた調子で答えた。「言ってもわからないようなアニキャラに恋していたでござるよ」
「ふーん。今は、そのアニメの人? には恋してないのう?」みなみは眼を輝かせてあたるを見つめてきいた。「あ、声優さんとか、それこそ好きだったんじゃないの?」
「好きでござった」あたるは頭の後ろに手を置き、まいったように照れ笑いを浮かべた。
「例えば?」みなみは興味深そうに言った。「誰とか? みなわかるかなあ?」
「例えばぁ……、上坂すみれさんとか、でござるな」あたるは照れながら答えた。
「どんなアニメに出てる人?」飛鳥はきく。
「例えばぁ、中二病でも恋がしたい、とかぁ、パパのいうことを聞きなさい、とかぁ後は、アイドルマスターシンデレラガールズ、ガールズ&パァンツァー、などなど。でござるな」
「わかる?」飛鳥はみなみと美波を見る。
「わっかんない」みなみは驚いていた。
「あー、たぶん、わかるのありました」美波は頷く。「なんとなく、ですけど」
「後は?」飛鳥はあたるを見る。「好きな声優さん? は?」
「竹達彩奈(たけたつあやな)さん、とかでござるかな」あたるは照れて答える。
「何に出てる人?」みなみはあたるを見つめてきいた。「アニメ?」
「けいおん、という小生が一番好きな有名なアニメに始まり、俺の妹がこんなに可愛いわけがない、ソードアート・オンライン、と、色々な作品に出ている人でござる」
「後は~?」美波は更に深堀する。
「芽野愛衣(かやのあい)さん、好きでござる。あの日見た花を僕たちはまだ知らない、知らぬでござるか? 泣けるアニメ、で有名でござるよ」
「知ってます知ってます」美波はにやけて頷いた。「泣けます、確かに」
「あと、宝石の国、とかガールズ&パンツァーとかに出てるでござるな」あたるは届いたスーパードライを〈レストラン・エレベーター〉で受け取った。
「あとは?」飛鳥はつまみを小さくそしゃくしながら、真顔できく。「他にいないの?」
「高橋李依(たかはしりえ)さん。この素晴らしい世界に祝福を、とか、リ・ゼロから始める異世界生活、とかに出てる人でござるな」
「もういないの?」飛鳥は真顔できいた。
「花澤香菜(はなざわかな)さんでござろうな。ニセコイ、<物語>シリーズとか、それこそ設楽さんが全話見たと言っていた宇宙よりも遠い場所、にも出てるでござる。後は、夜は短し歩けよ乙女、などなど、幅広く出てるでござる。明日試写会をやる呪術廻戦の映画版でも、リカちゃんというキーワードの役を務めているでござる」
作品名:ポケットいっぱいの可愛い。 作家名:タンポポ