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ポケットいっぱいの可愛い。

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「世界三大生ハムのハモン・セラーノ、や、あしゅみなが現地で食していたハモン・イベリコ、ここにもあるでござるよ。絶品のギフエロ村産の、まがいもない世界三大生ハムでござる」あたるは興奮気味に話す。「それこそ、夕君が待ちに待って、ようやく今年からここにも置く事ができた逸品との事でござった」
「え、頼もう?」飛鳥は起き上がってみなみを見る。
「え頼もう頼もう」みなみは喜んだ。「他には? ないの? スペインので」
「いやいや、スペアリブやピザ、パエリアやチーズ料理などなど、それは豊富でござるよ。スペイン料理のページに記載されているはずでござる」
「あー、普段そこまで見ないからなぁ」飛鳥は分厚い方のメニュー表を開きながら、呟いた。「なに、スペイン料理? のページ? てどこよ……」
 姫野あたるは己も別冊のメニュー表を開き、目当てのページを出してみせた。
「あー、ほんとだー」みなみははにかんだ。「じゃ飛鳥、久しぶりにって事で、なんか頼んじゃおうか?」
「頼もうぜ」飛鳥は同じページを見つけて開いた。「……ああ、結構あるじゃん。なんか知らんけど」
「あー、パエリア~」みなみは大喜びする。「これって、大きいので来るの?」
「サイズも書いてあるでござるよ」あたるはにっこりと微笑んだ。「好きなのを頼むでござるよ」
「じゃ納豆巻きくれえ!」
「っ!」飛鳥は眼を見開いて身を縮める。
「きゃああ!」みなみは眼を見開いて悲鳴を上げていた。
「おっす! あっすかちゃん、みーなみちゃん」
 それは磯野波平であった。悟られぬように、姿を隠してやってきた様子であった。
「っびくりしたぁ……」飛鳥は眼を輝かせて磯野を見つめ、呟いた。「あんたねえ……」
「んもう、心臓ヤバい」みなみは眼を輝かせて苦笑する。「波平君に、驚かされてばっかり! んもうやめて~」
「驚いたでござるよぉ……、忍者でござるか波平殿は」あたるは顔面を歪めながら言った。
「やめて下さい、健康に悪いです、きっと」駅前は悲鳴を呑み込んで、冷静に磯野に言った。
「俺なぁ、昔スパイやってたんだわ。南の方で」磯野は豪快に笑う。
 磯野波平は齋藤飛鳥の隣に、スペースを大きく開けて座った。東側のソファに星野みなみが座り、その正面となる西側のソファに齋藤飛鳥と磯野波平が座っていた。南側のソファに姫野あたるが座り、その正面となる北側のソファには駅前木葉が座っていた。
 ちょうどウェルカム・ドリンクが四人前届いたので、駅前木葉がそれをテーブルへと運んだ。
「なんだ、みんな来たばっかか」磯野は横柄な態度で足を組みながら、背もたれにふんぞり返って言った。「酒呑まねえのは、なんで?」
「いっつも酒びたりみたいに言わないで下さる?」飛鳥は座視で磯野を一瞥した。「あんたは呑めばいいでしょうよ」
「えーみなみちゃんも吞もうぜぇ?」磯野はそうみなみに言ってから、飛鳥を見る。「なあ飛鳥っちゃーん、四十六時間テレビもやる事だしよぉ、いっちょパーっとやろうぜぇ?」
「別にやれよ、パーっとぉ」飛鳥は磯野を一瞥して言った。「カプチーノ飲みたい気分なんですよ、こっちは」
「みなみちゃんそれ、カンパリオレンジ?」磯野はみなみを見つめる。
「んふ。オレンジジュースー」みなみははにかんで答えた。
「貞子と引きこもりは?」磯野は駅前とあたるを交互に見る。
「さだこ、とは?」駅前の眼光が鋭く磯野を捉えた。「まさか、あのテレビから這い出てくる貞子ではないでしょうねぇ……」
「でっへ!」磯野は笑みを浮かべる。
「引きこもりとは、酷いでござるなぁ、波平殿ぉ。元をつけて下され、元を」あたるは暗い笑顔で磯野に言った。
「何だよみんなぁ、夜だぜえ?」磯野は顔をしかめる。「ナイトだぜナイト。パーティー・ナイトしなくちゃだろーよ!」
「パリピ」みなみは可愛らしく笑った。「人種が違う」
「うざったい」飛鳥は表情を険しくして磯野に吐き捨てた。「かってにやってろ」
「へへ」磯野は飛鳥を見つめながら、期待を笑顔に浮かべる。「くんのかな~、来ちゃうのかな~……」
「あ?」飛鳥は?な顔をする。「何ですか」
「ツンの後はデレだろうがあ!」磯野は叫んだ。
「うっる、せえなぁ……」飛鳥は背を丸めて嫌がった。
「だってそうだろうが! だろうそうだろダーリン!」磯野はあたるにも叫ぶ。
「声がでかいでござるよ波平殿……、別にちゃんと聞こえているでござる」あたるは困った顔で磯野に言った。「押しつけはよくないでござる。自然発生するのを待つのもファンの醍醐味(だいごみ)でござろう?」
「自然発生か……。そっか」磯野は笑顔になる。「それもそうだな。で、なんか頼んだんか? 食いもんは」
「あ、そうだった……」飛鳥は改めてメニュー表を見つめる。
 星野みなみも、駅前木葉も、じっくりとメニュー表を見つめていく。
 電脳執事のイーサンに各々の好むメニューの注文を終えた頃になって、通称〈いつもの場所〉に山下美月と久保史緒里と和田まあやが訪れていた。新たに加わった三人も、電脳執事のイーサンに注文を済ませてから、着席した。
 東側のソファに齋藤飛鳥と磯野波平が座り、その正面となる西側のソファに星野みなみと和田まあやが座り、南側のソファに山下美月と久保史緒里が座り、その正面となる北側のソファに姫野あたると駅前木葉が座っている。
「私さ、仕事向かうまでにほぼ毎日音楽聴くんだけどさ」美月は何となく皆に言う。「最近は必ず一番最初に安室奈美恵さんのスィット!ステイ!ウェイト!ダウン!って曲を聴いてる。で二曲目はラブ・ストーリー。このルーティーンで元気出るのよ」
「安室奈美恵さんだいっ好き!」まあやは満面の笑みを浮かべて言った。「小さい頃からライブとか行ってた。ほんっとに好きなの!」
「私も安室奈美恵さんは大好きです」駅前は緊張しながら発言した。研究分野での発言は得意であったが、こうアイドルに囲まれての発言は不得意の様である。「安室奈美恵さんの、キャンユー・セレブレイトは何度か歌った事があります。難しいですね、あの曲は」
「むっずかしいよねー!」まあやはご機嫌で答えた。
「安室ちゃんで特別好きな曲は、ブライター・デイと……、スティル・ラビィン・ユーだな」磯野はまんざらでもなさそうな顔で言った。「ディア・ダイアリーもかっけーよな。ジャスト・ユー・アンド・アイもかーなりいいな~……。結構聴いてんなぁ、そういや俺も……」
「ラブ・ストーリーいいよね!」まあやは興奮して美月に言った。
「え、久保ちゃんとか何聴いてる?」美月は史緒里に言った。
「え、私? んー、ワッチとか、スキマスイッチさんとか、コブクロさんと聴いてるかも」史緒里はきょとん、とした表情で美月とまあやを見た。
「ワッチの何ぃ?」まあやはきく。
「リスタートとか、感情、とかかな」史緒里は答えた。
「コブクロさんは?」まあやは更に史緒里にきいた。
「ここにしか咲かない花とか……」史緒里は答える。
「スキマスイッチはあれか、奏(かなで)か?」磯野は大袈裟(おおげさ)な表情で史緒里に言った。
「ううん、そっちじゃなくて、雫(しずく)、の方。の方っていうか、雫」史緒里は微笑んで言った。
「乃木坂だと何?」まあやは史緒里にきいた。