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彼方から 第四部 第二話 ― 祭の日・2 ―

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「ノリコ!」

 咎めるような、イザークの声――
 ノリコの姿を見止めるなり、眉を顰め、仮面を止めている紐に手を掛け外しながら踵を返し、
「寝てろと言ったのに――」
 少し焦りを含んだ声音でそう、口走っていた。

「だって――」

 途端に……
 ノリコの顔に、不満そうな表情が浮かぶ。
 歩み寄って来るイザークに少し、甘えるように、
「一人で寝ていたって寂しいし……」
 上目遣いに見やり、何とかお咎めなしにしてもらおうと、訴えている。
 だが、その程度のことで、彼女の身を第一に考え、案じているイザークが許すわけもなく――
「熱が上がったらどうする」
 心配をしているからこその、至極まっとうな応えが、即座に返って来る。
 華やかな祭の衣装を身に纏ったイザーク。
「でもでも、たいした熱じゃないし」
 その姿につい見惚れ、顔を赤らめながらも、惚れた弱みで彼の言葉に負けそうになる自分を必死に奮い立たせ、ノリコは小さな抵抗を試みようと、『大丈夫だよ』アピールをしてみるのだが……
「部屋へもどって、安静にしていろ」
 にべもない。
 抵抗空しく、イザークに一蹴されてしまう。
 
 確かに、また熱が上がってしまっては、元も子もないのだが……
 煌びやかな祭の衣装を身に纏った彼を見ていたくて……
 ほんの少しの間でも、離れているのが寂しくて…… 
 だからつい、素直に彼の言うことが聞けなくて、拗ねた子供のように口先を尖らせてしまう。
 
「まあまあ、そんな頭ごなしに……イザークさん」

 ケンカとも言えない、微笑ましい言い合いをする二人。
 そんな二人に歩み寄り、にこやかな笑みを浮かべ、町長が穏やかに声を掛けてくる。
 相手のことを思い遣る、その気持ちから出たとは言え、少し冷たく思えるイザークの態度と言葉。
 彼を宥めるかのように町長は間へ入り、眼を向ける二人を見やりながら、
「ねっ、ノリコちゃん」
 優しく……
「明日の本祭、見・た・い・で・しょおぉ?」
「あ……はい」
 ……いや、必要以上に優しい声音で、問い掛けていた。

 ――……ノリコ……
 ――『ちゃん』……?

 『ちゃん』をつけて呼ばれたことに、少し――戸惑いを見せながら返事をするノリコ。
 そんな彼女の大きな瞳を覗き込むように、町長は首を傾げながら、
「この町の産業はねー、香水とか化粧品とかを、山に咲く花から作り出してるのねー、だから、別名花祭りって、呼ばれてるのー」
 語尾を柔らかく伸ばし…………言葉を、続ける――
「ノリコちゃんはやぐらの上に、乗せてあげるわァ。イザークさんが向こうの山から滑車に乗って、花を運んできてくれるところよォ」
 町長の語り掛けはもう……本当に優しくて――
「うーんと着飾って、町の人達にその花をまきまちょーねー」
 頭までやさぁしく、やさぁしく……撫でてくれて――
「それを合図に、夜まで踊り続けるのよォ、すごいでちょお」
 仕舞いには言葉遣いまで……
「そのためにも、今日はじーと、寝ていまちょーねー」
 まるで……
「いい子でちゅね――――」
 ……そう、まるで――幼子を宥めるかのような……悪気の全くない言葉遣いと扱われ方に……

「…………」
 ――あ……
 ――あたしって……
 ――そんなに、子供っぽく見えるのかしら……?

 ノリコは返す言葉も見つからなかった――

          ***

「へ……部屋へもどります――」

 大人しく――
 宛がわれた部屋へと戻ってゆくノリコの背に、哀愁らしきものが漂っている。
「ほらね、こんなふうに、やさしく言ってあげなくちゃ」
 本当に悪気のない、町長の言葉と笑顔…

 ――…………
 ――いや、確かに……
 ――ノリコが部屋に戻ってくれて良かったのだが……

「町長はあれを『やさしい』と――思ってるみたいですね……」
「…………」
 ニーニャに呟く、老補佐役の呆れたような困ったような……そんな声が耳に入る。
 町長が、こちらのことを慮ってくれているのだと言うことが、よぉ〜く分かるだけに……ノリコが少し、不憫に思えた。

「あんたは過保護だなァ」

 小さな笑い声と共に……
 背後から聞こえる、カイザックの声。
 肩越しに振り向くイザークの頬が、少し、赤い。
 踵を返し、衣装が仕舞われていたクローゼットへと向かいながら、
「――よく、言われる…………」
 何とも言えない複雑な表情を浮かべ、正直に、そう呟いていた。
 『だろうな』と言いたそうな笑顔と共に、
「この代役も、彼女を休ませたい一心で、引き受けたって感じだもんなァ――うちのカミさんのケガも、関係あるんだろうけど」
 カイザックは言葉を続けていた。
 二人とは少し離れたところで、老補佐役が町長に、明日の本祭の段取りについて、再度確認を取っている。
 ニーニャも加わり三人で、段取りを纏めた書紙を覗き込み合う様を横目に、
「なんか、あんたにはおれと同類のものを感じるなァ」
 カイザックは年の離れた『弟』でも見るかのように優しく……
「ずっと、自由気ままにやって来たんじゃねーのかい? やっかい事から極力逃げてよ」
 温かい眼差しを向けていた。
「――――」
 ふっ……と、イザークの動きが止まる。
 衣裳部屋に置かれた、大きな荷物入れの箱に腰掛け、
「違ったか? やっ、すまん」
 カイザックは爽やかな笑い声と共に、
「自分がそうだったもんだから――」
 少し、顔色を曇らせたイザークに、過去の自分と重ね合わせたことを詫びていた。

          ***

     『ずっと、自由気ままにやって来たんじゃねーのかい? やっかい事から極力逃げてよ』

 ――……自由気ままに、とは言えん
 ――だが……
 ――確かにやっかい事からは逃げていた

 ――おれの中に眠る
 ――【天上鬼】という、やっかい事から……

 カイザックの言葉に……『一人』で過ごしてきた月日が、脳裏を過る。
 ノリコと出会うまでの――
 そして『皆』と出会うまでの、他人との関わり合いを極力避けてきた日々が、思い起こされる。

「それが、あのカミさんにつかまっちまってさ……おかげで色々、逃げられなくなっちまったなァ……」

 訥々と――
 話を続けるカイザックの表情は柔らかく、温かで……
 言葉とは裏腹にとても、満足げに見える。
 きっと、自分で選んだ今の道に、後悔などしていないのだろう……そう思える。
 ふと……
 二人の出会いはどんなものだったのだろうと思う。
 今はこうして互いに想い合えている、ノリコとの『出会い』が、脳裏に思い浮かんだからかもしれない。
 『金の寝床』に現れた時の、ノリコの姿が…………

 ――あの時は……
 ――こうなるとは思いもしなかった

 あの日から一年と経っていないはずだが、何故かとても、遠い日のように思える。
 彼女の泣き顔が瞼に浮かぶ。
 ノリコと二人旅した日々が、通り過ぎて来た地や光景が……
 今は、どこに居るのか知れない『皆』の顔が、思い浮かぶ。 
 
「しょうがねーか……あいつのために出来ることなら、何でもやんなくちゃって気持ちに、なっちゃったんだもんな……」

 彼の言葉に、ふと、動きが止まる。