天空天河 二
「、、、、紅い龍。」
飛流という少年は、この扉の近くに居るのだろう。
はっきりと、飛流の声が聞こえた。
「アハハハ、、、、ムカデカ、ヤスデデモイルノカ。
ドクガアル、、、、ヒリュウ、、サワルナヨ。」
「ヒ─リュ─、コチラヘオイデ。
、、、、ヒリュウ─?。」
長蘇の声に、靖王はほっとした。
━━思ったよりも、大丈夫な様子だ。
良かった、、本当に、、。━━
靖王は、扉に額を付け、林殊を想う。
━━どうか、天の神よ、、
小殊の運命を哀れに思い、
私の小殊を守り給え。
願いを聞いてくれたならば、
私の余命を、幾らでも捧げよう。━━
扉一枚を隔てた空間に、林殊が居る、、。
これ程近くに、大切な者が居るのだと、、。
長蘇を愛おしく思い、目の前の扉をそっと撫でた。
━━この先も会えるのならば、蘇哲でも、梅長蘇でも良いのだ。
私は、これ程、小殊の側にいるのだから。
苦しい時には、私が助けてやれる。━━
靖王は心が、安らぐのを感じた。
『小殊は生きている』と信じてはいたが。
赤焔事案から、常にずっと、林殊の生存を案じていたのだ。
━━長い、長い旅路から、漸く戻ったのだ。
そして家路の終わりに、私に会った。━━
「、、、おかえり、小殊、、
今日は、お前を探って悪かった。
疲れただろう?、ゆっくりとお休み。」
口の中で静かに囁(ささや)いた。
いつまでもここに居て、林殊の存在を感じていたかったのだが、どうやら飛流もまた、この扉の向こう側に張り付いている気配だ。
━━小殊の声を聞くに、体の様子を診る者が、屋敷に居るのだろう。飛流の様に、側で小殊を世話する者も居るようだし。
私がここで悶々と案じてどうなると。
いざとなったら、この扉を打ち破って、中に入れば良いだけの事。
あの冷たい身体、、、並の病では無い筈。
私が、小殊の休養の妨げに、なってはならぬ。━━
ふっ、、と、静かに吐息を漏らすと、
靖王はゆっくりと、扉に背中を向ける。
そして靖王府の書房へと、戻って行った。
靖王の心は、軽くなり。
今夜は深く眠れそうだと、思った。