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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました1

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 銀の鈴を持って、炭治郎たちは帰り道を急ぎます。残ったお弁当を途中で食べたので、帰り道でもみんなは元気いっぱいです。
「ほらな、昼に食べちゃわなくて正解だった。考えなしの食いしん坊は困るよなぁ」
「なんだとぉっ!」
「あぁ、もうっ。お前たち、やめないか! 喧嘩なんかしたってお腹がへるだけだろ?」
 いつもながら、善逸と伊之助はちょっぴり喧嘩になりそうでしたが、どうやら今日はお日様が沈む前にお店に辿り着けそうです。
 みんなと一緒に駆けながら、炭治郎は音柱様の言葉を思い出していました。そうして考えるのは水柱様のことです。

 水柱様にも眷属の方はいるのかな。その眷属の方は、水柱様のお嫁さんなのかなぁ。

 なんだかちょっぴり胸の奥がちくんと痛くなって、炭治郎は首をかしげながら走りました。
 寂しくて悲しい匂いがしていた水柱様。もしもお嫁さんがいるのなら、きっと悲しくて寂しい匂いも消えるでしょう。それはとても素敵なことのはずなのに、炭治郎は、なんで自分が悲しくなるのかわかりません。

 早く洋服屋さんに逢いたいな。

 なんだかシクシクと胸の奥が痛むのを感じながらも、炭治郎のしっぽは、洋服屋さんの無愛想なお顔を思い浮かべると勝手にフリフリと揺れます。まるで、洋服屋さん大好きと、しっぽが大きな声で言っているようでした。


 トントントン。炭治郎がお店の戸を叩いたときには、まだお日様は赤く染まる前でした。でもいつものようにお店でご馳走になっていたら、すぐに夜になってしまうでしょう。そうしたら今日も、洋服屋さんは泊っていけと言ってくれるでしょうか。
「洋服屋さん、お遣いしてきました! はい、音柱様の銀の鈴です!」
 ちょっとだけドキドキそわそわとしながら、炭治郎が銀の鈴をわたすと、洋服屋さんはいつものようにやさしく炭治郎の頭を撫でてくれました。
「夕飯を用意してある。持って帰って食べるといい」
 言われてテーブルを見れば、小さな包みが四つ乗っています。
 善逸と伊之助は大喜びでしたが、炭治郎はなんだかまた、胸が痛くなってしまいました。
 きっと洋服屋さんは、お店でご飯を食べれば夜になってしまうからと、お弁当を準備してくれたのでしょう。だけど炭治郎は、もっと洋服屋さんと一緒にいたいのです。
「ありがとう、洋服屋さん! お兄ちゃん、よかったね」
「権八郎、早く帰って飯食おうぜ!」
「暗くなると『災い』に見つかるかもしれないぜ。急いで帰ろうよ、炭治郎」
 禰豆子たちが口々に言っても、炭治郎は返事ができませんでした。もじもじと洋服屋さんを見ていると、洋服屋さんは、銀の鈴を手にお仕事机に向かってしまいました。
「あのっ! 俺はもうちょっといてもいいですか? 洋服屋さんのお仕事を見たいです!」
 とうとう炭治郎が言うと、禰豆子たちはちょっとビックリしたようでした。洋服屋さんも少し目を見開いて、炭治郎をまじまじと見つめています。
「駄目ですか……?」
 しょんぼりとしっぽを下げた炭治郎に、洋服屋さんは少しだけ困った顔をしましたが、駄目だとは言いませんでした。それどころかしゃがみ込み、ポンっと炭治郎の頭に手を置いて言ってくれたのです。
「……泊っていくか?」
「はいっ! お泊りしたいです!」
 炭治郎の返事を聞いて、禰豆子たちも顔を見合わせました。
「洋服屋さん、私もお兄ちゃんと一緒にお泊りしてもいいですか?」
 禰豆子言うと、善逸と伊之助も俺たちも泊まると口々に言い始めました。洋服屋さんはやっぱり叱ることなく、みんなにホットミルクを入れてくれました。
 今日の晩ご飯は、包みに入っていたパンやクッキーです。禰豆子たちが食べているあいだ、炭治郎はお仕事机に向かう洋服屋さんの隣に立って、洋服屋さんのお仕事を見せてもらいました。
 洋服屋さんは、黄色い耳当てを取り出すと、銀の糸で音柱様の鈴を縫いつけています。そうしてしっかりと鈴を縫い留めると、フッと小さく息を吹きかけ、炭治郎に耳当てをわたしてくれました。
「これをあいつに」
 視線の先では、自分のクッキーを禰豆子にあげている善逸がいます。
 炭治郎が善逸に耳当てをわたすと、善逸は、ちょっとびくびくしながらも耳当てを付けてくれました。
「うわっ、これすっごくあったかい! おまけに鈴がついてるのに鈴の音がしないんだけどっ! なんかいつもより耳がよくなった気がする!」
「よかったね、善逸さん。でも、お代を払わなくちゃ」
 禰豆子の言うとおりです。もうみんな、明日もお手伝いする気満々で、洋服屋さんの言葉を待っています。
 洋服屋さんも、炭治郎たちがお代を払うと言い出すことを、承知していたのでしょう。今度もお手伝いを頼んでくれました。
「霞柱の住まいにたなびく霞をもらってきてくれ」
「わかりました、霞柱様のお住まいの霞ですね!」

「……えぇ~、霞って持って帰れるもんなの?」

 善逸の疑問は、誰にも相手にされることなく聞き流されてしまいました。だって神様の霞なのですから。不思議なことが起きたっておかしくありません。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 明日も早いからと、洋服屋さんに促されて向かった小さな部屋には、昨日と同じくベッドが並んでいました。でも今日は、昨日とはちょっと違います。ベッドの数は昨日と同じ四つ。小さなベッドが三つに、大きなベッドが一つです。
「今日も一緒に寝ていいんですね!」
 あんまりうれしくて、洋服屋さんに抱きついて笑った炭治郎を、洋服屋さんはひょいと抱っこしてくれました。このまま抱っこして眠ってくれるつもりなのでしょう。洋服屋さんに抱っこされて、炭治郎のしっぽは、どうしてもフリフリと揺れてしまいます。
 炭治郎が甘えん坊になってると伊之助や善逸にからかわれても、炭治郎はへっちゃらです。だって甘えん坊なところを見られて恥ずかしいのより、洋服屋さんに抱っこされてうれしいほうが、ずっとずっと大きかったのですから。
 いっぱい走って疲れていたみんなは、ベッドに入るとすぐに眠ってしまったようです。
「明日もお遣い頑張りますね」
 炭治郎もそれだけ言うと、すぐにうとうとしてしまいました。洋服屋さんのおやすみという声が聞こえて、おでこにそっとキスされたような気がしますが、眠くて眠くて目が開けられなかった炭治郎には、それが夢なのか本当なのかわかりませんでした。
 ただ、抱き締めてくれる洋服屋さんの手は、いつものようにひやりとしてはいなくって、ぽかぽかと温かいのがうれしいなぁ、洋服屋さんを温かくしてあげられてよかったなぁと、夢うつつに炭治郎は思ったのでした。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 霞柱様のお住まいは、森のなかを流れる川の傍にありました。今日も洋服屋さんが用意してくれた五人分のお弁当を持って、炭治郎たちは川へと急ぎます。
 今日は久し振りに天気が良くありません。川はそれほど遠くはありませんが、急がないともしかしたら雨が降ってきてしまうかもしれないのです。