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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました1

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 炭治郎と禰豆子には手袋が、伊之助にはマフラー、善逸には耳当てがありますから、寒いのはへっちゃらでした。けれど、雨が降ってお日様が隠れると『災い』が出てくることもあります。雨が降る前に急いでお店に戻らなくっちゃと、炭治郎たちは大急ぎで駆けて行きました。

 ほどなくして川に着くと、炭治郎たちは霞柱様のお住まいを探しました。
 川は広くて、とても深いようです。流れも早いので、落ちたら大変と気をつけながら、炭治郎たちはきょろきょろとあたりを見回しました。
「あ、あれじゃねぇか?」
 伊之助が指差す先を見ると、川の向こう岸に、白く霞が揺らめいている場所があります。きっとあそこが霞柱様のお住まいなのでしょう。
「でもどうやって川を渡る? 橋なんかないぜ?」
「お兄ちゃん、あそこに船があるみたい」
 見れば少し先に艀(はしけ)がありました。小舟が一艘、繋がれています。霞柱様にお参りするには、きっとあの小舟で川を渡るのでしょう。
 喜んで走っていったのですが、小舟はどうやら三人しか乗れないようでした。
「困ったなぁ。これじゃ全員は乗れないぞ」
「誰か一人残って、ここで待つしかないんじゃないの? 伊之助が一番重いだろ、お前が残れば?」
「はぁ!? ふざけんな! 親分の俺様が行かなくてどうすんだよ!」
「だって、禰豆子ちゃんを一人で置いてくなんて絶対に駄目だし、俺が残って禰豆子ちゃんと離れるのも嫌に決まってるだろっ。炭治郎が行かなきゃ話になんないし、伊之助が残るのが一番だろぉ!」
「喧嘩はよさないか! どうにかしてみんなで川を渡る方法を考えよう」
「そうよ、今日は雨が降りそうで暗いもの。夜じゃなくても『災い』が出てくるかもしれないし、一人じゃ危ないでしょ?」
 うーんとみんなで頭をひねって考えますが、いい案は浮かんできません。

「なにかお困りですか?」

 聞こえてきた声にビックリして炭治郎たちが振り返ると、変なお面を被った子供が立っていました。炭治郎たちよりも小さいその子は、前に出逢った蟲柱様の眷属の女の子と同じく、森の動物の匂いがしません。
「川を渡りたいんだけど、この舟じゃみんなで乗れなくて困ってるんだ」
 炭治郎が言うと、子供はなるほどとうなずいて、呆れたように首を振りました。
「そんなの誰か一人が残ればいいだけじゃないですか。全員で行く必要なんてないでしょ」
「駄目だよ! 一人でいてもしも『災い』が来たらどうするんだ、誰も一人になんてできないよ!」
「そうは言っても、その舟には三人しか乗れないでしょ。たしかに、ここら辺には霞柱様を狙う『災い』も出るから、一人で残る人が危険ですけどね。どうしても誰かを残すのが嫌なら、あなたが残ったらいいんじゃないですか?」
 お面の子供が炭治郎に向かって言い終わるより先に、禰豆子と善逸と伊之助が、一斉に駄目! と叫びました。
「子分を一人で残すくらいなら、親分の俺様が残ってやるぜ! 『災い』なんて俺様が倒してやらぁ!」
「誰か一人だけ襲われるなんて駄目に決まってるだろっ! お前馬鹿なの!? 性格悪いって言われるだろぉっ! あぁぁぁもぉぉぉっ! いいよっ、禰豆子ちゃんたちを残すぐらいなら俺が残るよ! でも早く戻ってきてねぇぇ!」
「お兄ちゃんや善逸さんたちが襲われるぐらいなら、私が残るもん!」
「なに言ってるんだ、禰豆子! 伊之助も善逸も、この子が言うのももっともだ、俺が残るよ」

「はい、合格です。みなさん舟に乗ってもいいですよ」

 ポンッと手を打ったお面の子供は、舟に近づくと、なにやらガタガタと舟の縁を動かし始めました。みるみるうちに舟はぐんと大きくなって、四人で乗っても大丈夫な大きさになっていきます。
「さぁどうぞ。一名ほど乗せたくない人もいますけど」
「えっ、まさか俺のこと!? やだっ、言葉の綾だってばぁ! お願いっ、俺も乗せてくれよぉぉぉ!!」
 子供にすがってわめく善逸をよそに、炭治郎たちはぽかんとして、大きくなった舟を眺めました。やっぱりこの子も柱様の眷属なんだなと思いながら、炭治郎は、笑って子供の手を取りお礼を言いました。
「ありがとうっ! 君のおかげでちゃんとお遣いができるよ。ねぇ、名前はなんて言うの?」
 炭治郎に満面の笑みで言われ、子供はちょっと照れたのか、コホンと咳払いしてから「名前は教えられません」と澄ました声で言いました。
「名前というのは大事なものなんですよ? とくに神様や眷属の名前は、おいそれと教えるわけにはいかないものなんです」
「そうなのか? でも今までお逢いした柱様たちは、みんなお名前を教えてくれたよ?」
 炭治郎が言うと、少し考えこんだ子供は、やがて強くうなずきました。
「なら、そのお名前を決して忘れないことです。あなたたちに名前を教えるのは、柱様たちにとってはなにか意味があるんでしょう。さぁ、早く行ってください。霞柱様は気紛れですからね、ふらっとどこかへお出かけになっちゃうかもしれませんよ」

 川岸に残ったお面の子供に手を振って、舟に乗った炭治郎たちは、ゆっくりと川を横切っていきました。櫂で漕がなくても進む不思議な舟は、濃い霞が立ち込める岸へとまっすぐに向かっていきます。
 岸に辿り着いた舟は勝手に止まると、そのままピクリとも動かなくなりました。

「あれ? 一人じゃないのは久し振りだなぁ」

 どこかぼんやりとした声がして、霞のなかから男の子が一人、長い髪を揺らしながら現れました。
 今までお逢いした柱様たちよりもずっと若いけれど、この子が霞柱様なのでしょうか。表情も声と同じくどこかぼんやりとしていて、なんだか神様らしくありません。
「あの、霞柱様ですか?」
「うん。そう呼ばれているよ」
 こくりとうなずいた男の子に向かって、炭治郎は大きな声で言いました。
「初めまして、霞柱様。俺は狐の炭治郎、こっちは妹の禰豆子で、友達の善逸と伊之助です! 今日は洋服屋さんのお手伝いで、霞柱様のお住まいの霞をいただきに来ました!」
「ふーん……いいよ、持っていきなよ」
 そう言うと、霞柱様はスイっと手を上にかざして、たなびく霞を掴みとると炭治郎に差し出しました。
「はい、これでいい?」
「えっと……これ、どうやって持って帰ればいいですか?」
 ひらひらと布のように揺れる霞は、炭治郎が持とうとしても、手をすり抜けてしまって掴めません。
「君、霞も持てないの? あの人の加護をもらってるのに、変なの。まぁいいや、ほら、これでいい?」
 霞柱様は霞をくるくると丸めると、鞠のようにして炭治郎に渡してくれました。
「ありがとうございます。あの、加護ってなんのことですか?」
「わからないならいいよ。僕には関係ないもの」
 不思議なことばかり言う霞柱様に、炭治郎は、わけがわからなくて首をかしげてしまいました。
 いろいろと聞きたいことはありましたが、伊之助や善逸のお腹の虫がぐぅっと大きな音を立てたので、とりあえず質問は後回しです。
「霞柱様、ここでお昼を食べてもかまわないですか? 伊之助はお腹が空くといつもより怒りっぽくなっちゃうんです」
「善逸さんもいつもより泣き虫になっちゃうから、お願いします」