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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました1

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 怪我をしないように気をつけながら進んでいくと、女の子が一人、茨のなかでぽつんと座り込んでいました。とても綺麗な女の子です。長い髪は結ばれて、蝶々の髪飾りをしています。人ではないのはわかるのですが、森の動物の匂いがしない子でした。
「どうしたんだ? どこか痛いの?」
 炭治郎がたずねても、女の子はなにも言いません。禰豆子が聞いても善逸が聞いても、やっぱり女の子は黙ったままです。
「面倒くせぇなぁ。もうほっといて行こうぜぇ」
 短気な伊之助が言っても、女の子は怒るでもなく座ったままでした。
「そういうわけにはいかないだろ。女の子がこんなところで一人で座ってるんだ。茨で怪我したのかもしれないじゃないか」
「そうだそうだ! こんなにきれいな女の子が困ってたら、助けてあげるのが当然だろっ!」
「んなこと言ったって、これから蟲柱ってやつのとこ行くんだぞ! 遅くなったら夜までに帰れねぇじゃねぇか!」
 伊之助が怒鳴ると、女の子はやっと顔を上げ、炭治郎たちを見まわしました。
「あ、お兄ちゃん、見て! 服の裾に茨が絡んでる。だから動けなかったのよ」
 禰豆子が言うと、女の子は少しだけ困り顔になり、コクンとうなずきました。
「本当だ。よし! それじゃ俺がとってあげるよ!」
 さっそく炭治郎は手袋を外すと、女の子の服の裾に手を伸ばしました。手袋をしたままでは絡んだ茨は取れなさそうでしたし、大事な手袋もほつれてしまいそうだったのです。
 とてもきれいで柔らかな布でできた服は、少しでも乱暴に引っ張ればすぐに破れてしまいそうでした。
 服を破かないようにそっと外しても、茨の棘は、炭治郎の指を何度も刺します。禰豆子と善逸も手伝ったのですが、二人の指にも棘は刺さって、そのたび善逸は大袈裟に痛がりました。細かいことが苦手な伊之助は、せっかく外した棘が服に絡まないように茨を払っていたので、やっぱり棘に刺されて傷まみれです。
 どうにか服を破ることなく全部の棘を外し終えたときには、みんなの手は小さな傷がいっぱいできていました。時間もかなり経っていて、朝早くに出たのに、お日様はもうお空のてっぺんに昇っています。
「やったぁ! 大丈夫、これでもう動けるよ!」
「よかったね。お洋服も破けてないから、安心してね」
「これぐらいで動けねぇなんて弱みそだな、お前」
「女の子にそういうこと言うんじゃないよっ! ね、お腹空いてない? 俺たちと一緒にお弁当食べようよぉ」
 善逸の言葉に女の子はふるふると首を振ると、みんなの顔をゆっくりと見回して、静かに立ち上がりました。
「……ありがとう」
 小さい声で言うと、跳ねるように二歩三歩と歩いた女の子は、ふわりと手を広げました。とたんにきれいな蝶へと女の子の姿は変化して、茨のトンネルをひらひらと飛んでいきます。
「蝶々さんだったんだね……」
 あっという間に見えなくなった蝶々を見送った四人は、伊之助のお腹がぐぅっと鳴るまで、その場でぽかんと立っていました。


 茨を抜けたところでお弁当を食べて、四人はまた、どんどんと進んでいきました。
 高い木立に囲まれた道を進んでいくと、ようやく開けた場所に出ました。目の前にはきれいなお花畑が広がっています。
 赤や黄色、白に桃色、薄紫。お花畑には、いろんな色のお花が、数えきれないほど咲いていました。
 でも不思議です。だって今は冬の初め、こんなにたくさんのお花なんて、咲いているわけがありません。

「あらあら、かわいいお客様ですこと」

 どこからか鈴を転がすような声がして、ビックリする四人の前に、きれいな女の人がふわりと舞い降りました。
「この人、さっきの女の子とおんなじ髪飾りをしてるよ、お兄ちゃん」
 禰豆子に言われて見れば、たしかに女の人の髪には、蝶々の髪飾りがきらきらと光っていました。
「あ、あの、もしかして蟲柱様ですか?」
「はい。私になにかご用ですか? かわいい子狐さん」
 にこにこと女の人は笑っています。とてもやさしそうな人です。
「初めまして、蟲柱様。俺は狐の炭治郎、こっちは妹の禰豆子で、友達の善逸と伊之助です! 今日は洋服屋さんのお手伝いで、蟲柱様の花畑の蜜をいただきに来ました!」
 元気に言った炭治郎は、残しておいたお弁当を蟲柱様に差し出しました。
「蜜の対価にお弁当も持ってきました。蜜を分けてもらえませんか?」
「小さいのにお手伝いなんて感心ですねぇ。でも、残念ですがお弁当はいりません」
 蟲柱様はうふふと笑って首を振ります。炭治郎たちはすっかり困ってしまいました。
「どうしようお兄ちゃん、ほかになにも持ってないよ?」
「お、俺のマフラーは駄目だからなっ!」
「えー、そしたら炭治郎と禰豆子ちゃんの手袋しかないんだぜ? 俺はなんにも持ってないんだぞ? どうすりゃいいんだよぉ」
 困り切って言いあう禰豆子たちの声を聞きながら、炭治郎はじっと自分の手を見ました。手には洋服屋さんが売ってくれた市松模様の手袋。とてもぬくぬくとして、炭治郎の手を温めてくれる手袋です。
 とっても大事な炭治郎の宝物。だけど、蜜がもらえなければ、洋服屋さんが困るかもしれません。
 うんっ、と一つうなずいて、炭治郎は手袋を外すと、蟲柱様に差し出しました。
「蟲柱様、これじゃ駄目ですか?」
「うーん、それをいただいてしまっては、ちょっと困ることになりそうなんですよねぇ。あの人が文句を言うことはないと思いますが、じとぉっと物言いたげに見られるのって、鬱陶しいと言いますか、正直迷惑と言いますか……」
 苦笑する蟲柱様に、炭治郎も、きょとんとしつつも困ってしまいます。蟲柱様が言うことはよくわかりませんが、手袋が駄目なら、もう差し上げられるものはなにもないのですから。
「でも、ほかにはなんにもないんです」
「いえいえ、なにもいりませんよ。だって私はもう、あなたたちから対価を受け取ってますから。というよりも、先にいただいたのは私のほうなので、蜜はその対価ってところでしょうか」
 笑って言った蟲柱様の後ろから、ひょこりと女の子が顔を出しました。蟲柱様の背に隠れるようにして、少し頬を赤くしているのは、さっきの蝶々の女の子です。
「先ほどは私の眷属が世話になったようで。この子を助けてくれてありがとうございます」
 微笑み言った蟲柱様の後ろで、女の子もぺこりと頭を下げました。
 ひらりと蟲柱様が袖を振ると、花畑の花たちが一斉にさわさわと揺れて、きらきらとした光の粒が舞い上がりました。その粒を、いつの間にやら現れた女の子たちが一つひとつ掴まえては、小さな瓶に集めていきます。
 ぽかんと炭治郎たちが眺めているうちに、光の粒を集め終えた女の子たちは、瓶を蟲柱様に差し出すと、蟲柱様の後ろにずらりと並び一斉に頭を下げました。
「仲間を助けていただきありがとうございました」
 キリっとした顔の女の子が言うと、その子や最初の女の子よりも小さな三人の女の子も、ありがとうございますと口々に言います。この子たちも蟲柱様の眷属なのでしょう。みんな蟲柱様と同じ蝶々の髪飾りをしていました。