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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました1

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 とっとことっとこと来た道を急いで戻った四人が、森の外れに着いたときには、もうお日様は遠い山の端に隠れようとしていました。お店の窓からも灯りが差しています。
 トントントン。炭治郎が戸を叩くと、すぐにドアが開いて洋服屋さんが顔を出しました。洋服屋さんからはいつものやさしい匂いに混じって、心配そうな匂いがしています。
「遅くなってごめんなさい、お遣いしてきました! はい、蟲柱様の花畑の蜜です!」
 炭治郎が差し出した小瓶を受け取って、洋服屋さんはドアを開いたまま、店の奥に入っていこうとします。
「座って待っていろ」
 顔を見合わせた炭治郎たちは、昨日のようにテーブルについて洋服屋さんを待ちました。
 しばらくして出てきた洋服屋さんは、あったかいミルクとホカホカのパンをテーブルに置いて、みんなで食べろと言ったきり、今日も一人でお仕事机に向かいます。今日もカップは四つだけで、洋服屋さんの分はありません。
 お腹が空いていたみんなは、大喜びでパンを食べ始めました。でも炭治郎は、やっぱり洋服屋さんが気になってしかたがありません。
 パンを一つ食べ終えると、炭治郎はよいしょと椅子から降りて、洋服屋さんに近づいていきました。
「今日もお仕事を見ていてもいいですか?」
 洋服屋さんは、手を止めることなくうなずいてくれました。
 お仕事机の上で、洋服屋さんは器用にハサミを操って、大きな真っ白い布をスイスイと切っていきます。シーツよりも大きかった布は、あっという間に、ハンカチほどの何枚もの布切れに変わりました。
 興味津々で見ている炭治郎の前で、洋服屋さんは蟲柱様の蜜が入った小瓶を手に取ると、小さな筆で蜜をそっと布に塗り付けていきました。金色の蜜はすぅっと布に吸い込まれていき、そのたび洋服屋さんは、フッと息を吹きかけていきます。
 すべての布に蜜を塗り終えた洋服屋さんは、しゃがみ込むと、炭治郎の手をその布で拭ってくれました。
「わっ、怪我が治った!」
「あいつらの怪我も拭いてやれ」
 炭治郎は受け取った三枚の布で、禰豆子たちの傷もていねいに拭いてあげました。するとみんなの傷もあっという間に治ってしまったのです。
「洋服屋さん、ありがとうございます!」
 こっくりとうなずいて、洋服屋さんは小さな袋に入れた残りの布を、炭治郎にくれました。
「子供は怪我をすることが多い。持っておくといい」
「駄目です駄目です! もらうわけにはいきません、お代を払います!」
「金はいらない。代わりに手伝ってくれ。音柱の住まいにある、銀の鈴をもらってきてくれ」

 今度も同じようなやり取りのすえに、また四人でお手伝いをすることが決まりました。音柱様のお住まいの洞窟もやっぱり遠いので、明日も朝早くから出かけなくちゃいけません。
 ご飯を食べているうちに日はとっぷり暮れて、夜がやってきていました。暗い夜道は『災い』が出てくるかもしれません。お腹がいっぱいになった禰豆子や善逸は、疲れもあるのかうとうととしていて、急いで帰るのは無理そうでした。
 どうしようと炭治郎が困っていると、洋服屋さんが言いました。
「今日は泊っていけ」
 そう言って洋服屋さんは、店の奥へと入っていきました。
 炭治郎も伊之助も疲れていましたから、お言葉に甘えることにして洋服屋さんを待っていると、ほどなくして洋服屋さんが戻ってきました。洋服屋さんは眠ってしまった禰豆子を抱きかかえ、ついてこいと言うと、店の奥へとまた入っていきます。
 炭治郎と伊之助がぐずる善逸の手を引いてついていくと、そこは小さなお部屋でした。小さなベッドが四つ並んでいます。禰豆子はもうベッドに入れられて、すやすやと寝息を立てていました。
「明日は早い、もう寝ろ」
「洋服屋さんは寝ないんですか?」
 お泊まりなら、一緒に眠れると思っていたんだけど、駄目なのかな。炭治郎が、ちょっぴり寂しくなって言うと、洋服屋さんは少し困ったように首を振りました。
「あの、一緒に寝ちゃ駄目ですか?」
 洋服屋さんはしばらく迷っていたようでしたが、やがて炭治郎をベッドに促して、炭治郎を抱きしめると自分も窮屈そうに横になってくれました。
 伊之助も善逸もそれぞれベッドに入って、早くも寝息を立てています。
「洋服屋さん、我儘言ってごめんなさい。窮屈ですよね」
「……かまわない」
 そうは言っても、長い脚を折り曲げてどうにか小さなベッドに納まっている洋服屋さんは、とっても窮屈そうです。
 どうしよう。俺が我儘を言ったせいで、洋服屋さんがのびのびと眠れなくなっちゃったぞ。炭治郎は、なんだかとっても申し訳なくなってしまいました。
 一緒に眠りたいけれども、洋服屋さんが眠りづらいのも困ります。どうしたらいいのか悩んでしまった炭治郎でしたけれど、洋服屋さんは炭治郎を抱きかかえたまま、やさしく頭を撫でてくれたので。
 すぐに眠気はやってきて、きゅっと洋服屋さんの胸元にしがみついた炭治郎は、いつの間にやらぐっすりと眠ってしまいました。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 朝になって炭治郎が目を覚ましたとき、洋服屋さんはもう、ベッドにはいませんでした。でも、ベッドはまだぬくぬくとしていたので、きっと一晩中、炭治郎を抱きかかえていてくれたのでしょう。
 炭治郎は急いでベッドから降りると、お店に向かいました。
 お店のなかでは洋服屋さんが、テーブルに朝ご飯を並べてくれているところでした。
「おはようございます!」
 元気に挨拶すると、洋服屋さんも小さくおはようと答えて、炭治郎をテーブルに招いてくれました。
 テーブルには、ほかほかと湯気を立てるホットミルクの入ったカップが四つ。つやつやのリンゴも四つ。ふんわりとしたパンは、お皿いっぱいにありました。
「洋服屋さんの分はないんですか?」
 四つということは、今度も炭治郎たちの分だけなのでしょう。昨夜も洋服屋さんは、一緒にご飯を食べなかったのに、ご飯を食べなくて大丈夫なんでしょうか。
 心配になって聞いても、洋服屋さんは小さくうなずいただけでした。
 一緒に食べませんかと炭治郎が言う前に、禰豆子たちも起きてきて、洋服屋さんに促されテーブルに着いたので、椅子は全部埋まってしまいました。
 洋服屋さんのお店なのに、洋服屋さんが座る椅子がないのは、なんだかとっても寂しくて悲しいことだと炭治郎は思いました。
 ワイワイと楽しげにご飯を食べる禰豆子たちを見る洋服屋さんが、なにを考えているのか炭治郎にはさっぱりわかりません。それでも、洋服屋さんからはとってもやさしい匂いがします。それから、いつもよりほんの少し薄いけれど、悲しくて寂しい匂いもしました。

 椅子があったらいいのにな。みんなと一緒に座れる、洋服屋さんの椅子。そうしたら、洋服屋さんの悲しくて寂しい匂いも、もっともっと薄れるかもしれない。

 おいしい朝ご飯を食べながら、炭治郎はそんなことを考えていました。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 朝ご飯を食べ終わると、洋服屋さんが手渡してくれたお弁当を持って、炭治郎たちは元気に出発です。今日も炭治郎と禰豆子の手には手袋が、伊之助の首には藍鼠のマフラーが巻かれています。