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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました2

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 それなら身を守ってくれる柱の加護は、禰豆子や善逸や伊之助にあげてほしいと、炭治郎は思いました。
 炭治郎の望みを、洋服屋さんもきっとわかっているでしょう。だから炭治郎だけは、きっと今度も自分のものではないだろうと考えたのです。

 ずんずんと張り切って走った炭治郎たちは、お日様が空のてっぺんにかかったころ、岩山に辿り着きました。疲れた体を休めつつお弁当を食べた炭治郎たちは、岩山に向かってぺこりと頭を下げました。
「岩柱様、音柱様、こんにちは! これから岩山に登ります。騒がしくしたらごめんなさい。どうかてっぺんまで無事に辿り着けるよう見守ってください!」
 みんなで言って、炭治郎たちはこれでよしとうなずき合いました。
 蛇柱に礼儀知らずと言われたことが、炭治郎はちょっと気にかかっていたのです。そこで洋服屋さんに蛇柱様との会話を教えたところ、洋服屋さんは思慮深くうなずいて「神というのは礼儀を重んじるものも多い」と教えてくれました。
 岩柱様はたいへん温厚な方だそうですが、一番強い柱様で、お館様のご側近でもあるそうです。音柱様は礼儀を重んじる方には見えませんでしたが、それでも岩山にお住まいですし、お世話になったこともあります。だからみんなで相談して、礼儀正しくしようと決めたのでした。

 さぁ、いよいよ岩山に登ります。岩山は、小さな炭治郎たちからすればとっても高く険しくて、炭治郎たちは足を滑らせないよう気をつけながら、少しずつ岩場を登っていきました。一番体力がない禰豆子も頑張って、励まし合いながらようやくてっぺんまで登りきると、お日様はもう山の陰に沈み切る寸前でした。
「あぁ~夜になっちゃった……」
 しょんぼりと善逸が言うと、伊之助も辺りを見回して不機嫌そうに眉を寄せます。
「おい、岩柱に逢えなかったら眠れるとこなんてあんのか?」
 暗くてよく見えませんが、たしかに辺りはごつごつとした岩ばかりで、横になれそうな場所など見当たりません。
 柱様のお住まいですから、『災い』に襲われることはないでしょう。けれども眠れなければ、体力がもたずに、帰り道で怪我をするかもしれません。洋服屋さんに貰った布があるとはいえ、怪我をすれば痛いのに変わりはないのです。
 さて、どうしようとみんなで頭を悩ませていると、どこからか南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と念仏を唱える声が聞こえてきました。
「もしかして岩柱様かな」
「きっとそうだよ! 行ってみようぜ!」
 炭治郎たちは声のするほうへ歩き出しました。少し行くと、大きな男の人が座禅を組んで一心に念仏を唱えているのが見えました。音柱様も大きい方でしたが、その人は音柱様よりも大きそうです。
「あのっ、岩柱様ですか?」
 思い切って炭治郎が声をかけると、その人がゆっくりと振り返りました。

「おぉ、小さき獣がこのような岩山までやってくるとは……」

 そう言ってハラハラと涙を流す岩柱様に、炭治郎はちょっと戸惑いましたが、大きな声でいつものようにご挨拶をしました。
「初めまして、岩柱様。俺は狐の炭治郎です! 今日は洋服屋さんのお手伝いで、岩柱様のお住まいにある大岩から水晶の欠片をいただきに来ました!」
「妹の禰豆子です。岩柱様、こんばんは」
「ね、ねずみの善逸です……」
「イノシシの伊之助だ! こいつらの親分だっ!」
 禰豆子たちが順番に挨拶すると、岩柱様はこっくりとうなずいて、また南無阿弥陀仏と念仏を唱えます。そして、岩柱様は炭治郎たちに向かって言いました。
「水晶の欠片はあの大岩のなかにある。けれど、岩は固く、お前たちのように小さな子供では、きっと取り出すことは叶わないだろう。……あぁ、なんて哀れな。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
 そう言って涙を流す岩柱様を見て、炭治郎たちは困って顔を見合わせてしまいました。
「岩柱様が採ってくれるんじゃないのぉ? 岩柱様ってケチなのかな」
「そんなこと言っちゃ駄目よ、善逸さん。今までだって自分達でなんとかしなくちゃ駄目だったじゃない」
「へんっ、あんな岩ぐらい俺様なら楽勝だぜ!」
「うーん、とりあえずやってみようか」
 ひそひそと話し合って、炭治郎たちは大岩に向かいました。岩は本当に大きくて、とっても固そうでした。
「手でやってもきっと無理だぞ。怪我するのがオチだって」
「でも道具もないよね。どうする? お兄ちゃん」
「手が駄目ならこれでどうだっ!」
 言うなり岩に頭突きした伊之助は、ゴンッと岩にぶつかるなり、くらくらと目を回してしまいました。
 洋服屋さんの不思議な布でたんこぶは治りましたが、伊之助の頭突きではまったく歯が立たないようです。
「よしっ、それじゃ俺がやってみるよ!」
 今度は炭治郎がゴンッと頭突きします。炭治郎はとっても石頭なので怪我はしませんでしたが、やっぱり大岩はびくともしません。
「炭治郎でも駄目かぁ」
「いや、ずっと続ければどうにかなるかもしれない。みんなはそこの平たいところで眠るといい。朝早くには出発しないと、明日の夜までにお店に帰れないからね!」
 炭治郎は笑って言いましたが、みんなはとんでもないと首を振りました。
「炭治郎にだけやらせるわけにいかないだろぉ。でも、俺や禰豆子ちゃんは道具がないとどうにもなんないしなぁ」
「布で治るなら怪我なんて関係ねぇっ! 俺様も頭突きしてやるっ」
「駄目よ、伊之助さん。怪我は治っても痛いのは同じでしょ?」
「そうだぞ、伊之助。伊之助だけ痛い思いをするなんて絶対に駄目だ!」
「んなこと言ったって、それじゃどうすんだよっ!!」
 みんなに止められて、伊之助が不貞腐れ顔でわめきました。
 うーんとみんなで悩んでいると、禰豆子が突然「私、岩柱様にお願いしてくる」と岩柱様のところへ走って行きました。
「えっ!? おい、禰豆子! 自分達でやらないと駄目なんだぞ!?」
「そうだよ、禰豆子ちゃん! 柱に怒られたらどうすんの!? 危ないよっ!」
「子分その三っ、柱とやんのか!? 親分の俺様を差し置いて生意気なっ、やるなら俺が先だぜ!!」
 慌てて禰豆子を追いかけた炭治郎たちが止めるのも聞かず、禰豆子は岩柱様の前に進み出ると、ぺこりと頭を下げて言いました。

「岩柱様、お願いします。どうか私たちに岩を砕く道具を貸してください」

 禰豆子の言葉に、炭治郎たちは目をぱちくりとさせて顔を見合わせました。そしてうなずき合うと、揃って岩柱様の前に進み出て、禰豆子と同じように頭を下げてお願いしました。
「岩柱様、どうか道具を貸してください!」
 すると岩柱様は、泣きながらうなずいてくださいました。
「いいだろう。これを持っていくといい」
 岩柱様がゴツンッと地面を叩くと、割れた岩盤のあいだから、炭治郎たちの手にぴったりな大きさのツルハシが現れたではありませんか。岩柱様はそれを取り出して、炭治郎たちにそれぞれ渡してくれました。
「ありがとうございます!」
 お礼を言った炭治郎たちは、大岩へと急いで戻りました。朝までには水晶の欠片を手に入れなければなりません。大急ぎでツルハシを振るいます。
 ガツン、ガツンッと大きな音を響かせて、炭治郎たちは一所懸命ツルハシで固い岩を叩きました。