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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました2

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 お遣い物の羽根を手に入れた炭治郎は、お礼を言う前にさっさと消えてしまった風柱様に、むぅっと頬をふくらませました。礼儀知らずだったのは謝らなければいけませんが、風柱様にだって、洋服屋さんを悪く言ったことを謝ってほしかったのです。
 なのに、風柱様はすぐに消えてしまって、なんだかすっきりしません。
「お前ら、これから帰るのか? もう暗いから危ねぇぞ」
 風柱様と炭治郎たちの板挟みにさせてしまったというのに、眷属の少年は面倒見よくそんなことを聞いてきます。炭治郎はちょっと申し訳なくなりながら、今日はここに泊まらせてほしいんだけどと少年に言いました。洋服屋さんと約束していますし、走りづくめた上に崖まで下りて、みんなクタクタになっていたのです。
「それならあそこの大きな木の下で寝りゃあいい。下草がたっぷり生えてるから柔らかいし、冷たい風が吹かないようにしてやるよ」
「ありがとう! 君の名前を聞いてもいいかな。霞柱様の眷属の子には教えてもらえなかったんだ」
 少年は困ったような顔をしました。やっぱり眷属の方のお名前は、聞いてはいけないことなのでしょうか。
 無理に聞く気はないけれど、名前を呼べないのは寂しいなと炭治郎が思っていると、考え込んでいたらしい少年が、やっと口を開きました。
「不死川」
 炭治郎たちはそれを聞いて、きょとんとしてしまいました。
「風柱様のお名前と一緒? 柱様と眷属は同じ名前なのか?」
「そういやさぁ、眷属の人たちって柱様の家族かなんかなの? 音柱様のとこの眷属はお嫁さんたちだったんだぜ。ズルいよなぁ! 神様だからってお嫁さんが三人! うらやましいぃぃ!」
「蟲柱様のところの蝶々の女の子たちも、蟲柱様の妹なの? お友達になれたらいいなぁって思ってたの。眷属の人たちとお友達になることはできますか?」
「霞柱んとこのあいつも弟かよ。そんなふうには見えなかったぜぇ? それに炎柱には眷属はいねぇのか?」

「お前らうるせぇ! いっぺんに喋んなっ!」

 大きな声が谷間に木霊して、炭治郎たちはぴたりとお喋りをやめました。耳がいい善逸には大音量すぎたのか、耳当ての上から耳を抑えて「耳がっ、耳がぁぁ!!」と悶絶しています。
「柱様のお住まいで騒いじゃって、ごめんなさい」
 そう言って禰豆子がぺこりと頭を下げると、少年は途端に真っ赤になり、謝らなくてもいいとぶっきらぼうに言って、そっぽを向きました。短気そうですが、案外照れ屋さんなのかもしれません。
 よかったと笑う禰豆子に少年がますます顔を赤くするのを見て、炭治郎は、善逸が悶絶中でよかったなぁと苦笑しました。禰豆子のことが大好きな善逸が見たら、ますます大騒ぎすることでしょうから。
「べ、べつにいいけどよっ。お前ら、柱や眷属についてなんにも知らねぇんだな。しかたねぇから俺が教えてやるよ」
 そう言って笑った不死川という少年のことが、炭治郎はすっかり気に入りました。風柱様のお住まいはとても遠いから、あまり逢うことはできないかもしれませんが、お友達になれたらどんなに楽しくなるでしょう。

 大きな木の下に座って、みんなは洋服屋さんが持たせてくれた風柱様用のお弁当を広げました。もう羽根はいただいたので、今回も対価用のお弁当は必要ありません。そういうときは炭治郎たちで食べていいと言われているのです。
 一緒に食べようよと誘ったら、少年は少し戸惑ったようですが、みんなと一緒にお弁当を食べてくれました。
 風柱様用のお弁当には、炭治郎たちのお弁当と同じもののほかに、おはぎが五つも入っていました。それを見て、少年はパチクリと目をしばたかせると苦笑しました。
「これさ、とっておいてもいいか? 兄貴の好物なんだ」
「風柱様の? もちろんいいよ! だってこれは、風柱様にって洋服屋さんが用意してくれたものなんだ」
 風柱様に食べてもらうのが当然だと笑った炭治郎と違って、おいしそうなおはぎが食べられなくなって伊之助はちょっと不満そうです。それを見て、少年はおはぎを二つ取り出し半分ずつに分けると、炭治郎たちにわたしてくれました。
「いっぱいあるからお前らも食えよ。俺は兄貴に分けてもらうから」
「それそれっ! なぁなぁ、眷属ってみんな、柱様の家族だったりするの?」
 さっそくおはぎに噛りついた善逸が聞くと、少年は、そんなことはないと首を振りました。
「眷属は俺や炎柱様の弟君と同じで、もともと柱の親族だった奴がなることもあるけど、蟲柱様や霞柱様みたいに、素質がありそうだったり徳を積んで資格を得た動物や精霊を、柱が迎え入れることのほうが多いんだ。音柱様みたいに、迎え入れた眷属を神嫁にする柱もいるぜ。むしろ、嫁にしたくて気に入りの動物とかを眷属にしていた柱だって、昔は結構いたぐらいだ。柱様同士や柱様のお血筋から迎えるご伴侶様と違って、神嫁は何人だって迎え入れられるからな」
「炎柱様にも眷属がいたのか。俺たちがお住まいに行ったときには、逢えなかったんだ」
 逢ってみたかったなぁと炭治郎が言うと、不死川少年はちょっと苦笑しました。
「炎柱様の弟君は、人見知りらしいぞ。あんまりお社から出てこないんだってよ。今の水柱様は先代の弟君だけど、眷属だったころは、やっぱり人見知りで人前にはほとんど出てこなかったって話だ。眷属が全員、姿を見せるわけじゃねぇよ」
 あの方は今もお姿を見せるのを嫌ってるみたいだけどと、少年は苦笑を深めます。
 それを聞いて炭治郎は、水柱様のお姿を思い浮かべました。ぼんやりとしか思い出せないのは水柱様が人見知りで、お姿を見られるのがお嫌だからなのでしょうか。それとも、炭治郎にお顔を思い出されるのがお嫌なのでしょうか。考えたら炭治郎の胸はチクンと痛みました。

「じゃあ、俺たちも柱の眷属になることがあんのかぁ? 俺様を眷属なんてもんにしようとしやがったって、逆に柱を俺様の子分にしてやるけどなっ!」
 そう言って大きく笑う伊之助に、善逸は呆れ顔です。お前なんかを眷属にしたがる柱がいるわけないだろと、ぼそりと言ったものだから、途端に伊之助も機嫌が悪くなって、なんだとっ! と善逸を睨みつけました。
「喧嘩はやめろって言ってるだろ!」
「なんだよ、お前ら仲悪いのか?」
「いつもは二人とも仲良しなのよ? でも今日は、私が心配かけちゃったから……」
 しょんぼりと言う禰豆子に、善逸は慌ててそんなことないよと慰めましたが、それでも伊之助と目が合うと、二人はプイッとそっぽを向き合ってしまいます。
 炭治郎と禰豆子が困っていると、少年もちょっと眉を寄せて善逸たちを見ました。炭治郎の耳に口を寄せて、小さな声で言います。
「おい、もしも恋柱様のとこに行くことがあるなら、あいつらを連れて行くなよ?」
「え? なんで?」
 お手伝いは全部四人でしてきたのです。炭治郎はこれからもみんなでお手伝いするつもりでしたし、きっとみんなもそのつもりでしょう。
 なんでそんなことを言うのかわからなくて聞くと、少年は苦笑しながら首を振りました。
「それは言えねぇよ。俺が教えたらズルになるからな」
「そうか……なら聞かない。でも、恋柱様のところに行くときも、俺たちは善逸と伊之助と一緒に行くよ」