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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました2

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 驚く少年に炭治郎はニコニコと笑います。炭治郎が視線を向けた先には、そっぽを向き合う善逸や伊之助と、困り顔で二人を宥めている禰豆子がいました。
「いつも四人で頑張ってきたんだ。これからもみんなで頑張るよ!」
「……そっか。お前があの人の加護を貰ってるの、わかる気がするな」
「あの人?」
 いったい誰のことでしょう。炭治郎は柱様のお力を使った物など、一つも身に着けてはいません。炭治郎には柱のご加護はないはずです。
 でも、もしかしたら。頭に浮かんだその人の顔に、炭治郎がドキドキとしていたら、少年はいずれわかるだろうと笑ったのでした。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 風柱様のお住まいで、お日様が顔を覗かせるまでぐっすりと眠らせてもらった炭治郎たちは、鳥に変化した少年に崖の上まで運んでもらいました。
 今度はお参りに来るよと手を振ってお別れしたら、炭治郎たちはまた一所懸命走ります。夜までにお店に戻らなくてはいけません。いつもは走りながらもお喋りするのですが、今日はお喋りはなしです。
 急いでいたからだけじゃありません。善逸と伊之助が、今日になってもそっぽを向き合って、口をきこうとしなかったからです。
 走ってるあいだも、お弁当を食べているときも、二人は絶対に互いを見ようとしませんでした。炭治郎と禰豆子がなだめたり叱ったりしても、二人はすっかりへそを曲げてしまって、お店に着くまで一言も口を利かなかったのです。



 トントントン。いつものように戸を叩いたら、洋服屋さんがすぐに戸を開けてくれました。炭治郎たちが帰るのを待っていてくれたのでしょう。
 いつもだったらとてもうれしくなってしまったでしょうが、今日の炭治郎は善逸と伊之助が気になって、ちょっぴり元気がありませんでした。
 洋服屋さんは、炭治郎や禰豆子たちの様子を見てもなにも言わず、みんなにご飯を食べさせてくれました。
 いつもはワイワイと楽しく食べるご飯も、善逸と伊之助が喧嘩中では、いつものようにおいしいと思えません。せっかく洋服屋さんが用意してくれたのに、こんな気持ちで食べるのは申し訳なくて、炭治郎はストンと椅子を下りると、お仕事机に向かった洋服屋さんの隣に並びました。
「今日もお仕事を見ていてもいいですか?」
 洋服屋さんはうなずいて、風柱様からもらってきた羽根を黄色いブーツに縫い付けています。しっかりと縫い留めると、洋服屋さんは、フッと羽根に息を吹きかけました。
「これをあいつに」
 洋服屋さんの視線の先には、うつむいてクッキーをもそもそと食べている善逸がいます。
 ブーツをわたすと、善逸は大喜びでブーツを履いてくれました。けれど、それを見ていた伊之助は、フンと鼻を鳴らして言いました。
「こいつがもらったもんなんだから、俺は手伝いにはいかねぇからなっ! お代はこいつが払えばいいだろっ!」
 なんてこと言うんだと炭治郎が叱る前に、洋服屋さんが強い声で言いました。
「四人で行け。恋柱の住まいにかかる蜘蛛の糸を、四人全員で行ってもらってこい」
 みんなで行かなければお代は受け取らないと、洋服屋さんは言います。ムッとして言い返そうとした伊之助も、洋服屋さんが怖い顔をして睨むので、渋々うなずきました。

 すっかり夜になってしまったので、今日もお泊りです。いつもだったら隣のベッドに並んで眠る善逸と伊之助は、今日は禰豆子を挟んで離れたベッドで眠りました。
 それを見て、炭治郎と禰豆子はすっかり悲しくなってしまいましたが、洋服屋さんが禰豆子も大きいベッドに呼んで二人まとめて抱っこしてくれたので、ようやく二人も眠ることができました。



 今日もキメツの森はいい天気。だけれども、出発した炭治郎たちの心はお空の青さとは裏腹に、どんよりと雲が立ち込めているかのようでした。
 いつものように洋服屋さんの用意したお弁当を持って行く先は、恋柱様がお住まいになる森の奥の温泉です。森の動物たちの疲れを癒してくれる温泉は、お参りのあとで温泉に入る者で、いつも賑やかなのだそうです。
 あまり遠くない場所なので、いつもの炭治郎たちであれば、お遣いを終えたら温泉に入っていこうかと、楽しく笑いながらの道行きだったことでしょう。けれど善逸と伊之助の喧嘩はまだ続いていて、今日は誰も楽しくお喋りなんてできません。
 どうすれば善逸と伊之助は仲直りしてくれるんだろう。炭治郎は走りながら考えますが、いい考えは浮かびませんでした。
 禰豆子も心配なのか、善逸と伊之助をチラチラと見ていました。いつでもニコニコと明るい禰豆子も、そもそもの原因は自分だと思ってしまっているのか、すっかり落ち込んでしまって、二人に話しかけられずにいるようです。
 沈んだ気持ちになりながらも進んでいくと、どこからか硫黄の匂いがしてきました。炭治郎の鼻がひくひくと動きます。どうやら温泉の匂いのようです。炭治郎は深い木立の合間を指差しました。
「きっとこっちだ。行こう!」
 精一杯明るく言っても、善逸たちは、いつもみたいに元気な返事を聞かせてはくれません。
 洋服屋さんに言われただけでなく、炭治郎だって四人でお遣いをする気満々でしたが、風柱様の眷属の少年の言葉が気にかかって、ちょっと不安になってきます。
 恋柱様が対価のお弁当を受け取ってくれればいいのですけれど、もしもまた試験があったら、こんな調子で合格できるのでしょうか。
 弱気を振り払うように炭治郎は、むんっと胸を張って拳を握りしめました。
 今までだってみんなで頑張ってきたんじゃないか。これからだってみんなで頑張らなきゃ!
 炭治郎はみんなに向かって明るく笑いました。
「さぁ、蜘蛛の糸をもらいに行こう!」
「うん、お兄ちゃん」
 禰豆子はやっと少し笑ってくれましたが、善逸と伊之助はまだ元気がありません。それでも二人も一緒に木立の奥へと進んでくれました。
 木立の影が切れると、ふわふわと湯気がただよう温泉が見えました。今日は誰も来てはいないようです。

「わぁっ、かわいい! ねぇ、君たちお参りに来てくれたの?」

 突然聞こえた明るい声に、炭治郎たちが湯気の向こうに目をこらすと、ぴょんと飛び跳ねるようにして桃色と緑の髪をしたとっても愛らしい女の人が現れました。きっとこの人が恋柱様なのでしょう。
「恋柱様ですか?」
「そうよ、かわいい子狐さんっ。やぁん、女の子の狐さんもいるのね、かわいいっ! ねずみさんもイノシシさんもかわいいわっ! みんな、ゆっくり温泉を楽しんでいってね!」
 キャッキャッとはしゃぐ恋柱様に、炭治郎はちょっぴり面食らってしまいました。こんな大歓迎は初めてです。
「あ、あのっ、初めまして、恋柱様。俺は狐の炭治郎、こっちは妹の禰豆子で、友達の善逸と伊之助です! 今日は洋服屋さんのお手伝いで、恋柱様のお住まいにかかる蜘蛛の糸をいただきに来ました!」
 炭治郎が言うと恋柱様はきょとんとして、まじまじと炭治郎を見つめてきました。そうしてちょっと驚いた顔で口元に手を当てると、「ヤダッ、気がつかなかった! 素敵ねぇ」とうっとりしています。
「あ、ごめんなさい。ついキュンとしちゃって」