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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました2

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 恋柱様はぽかんとする炭治郎たちに照れた顔で笑いながら、こっくりとうなずきました。
「いくらでも持って帰っていいわよ。だけど蜘蛛の糸は自分達で探して、自分達で取ってこなくちゃ駄目なの」
 そうでなければ意味がないのだと、恋柱様は言います。
「蜘蛛の糸は赤くてきらきらしてるから、きっとすぐに見つかるよ。頑張ってね!」

 明るく言って恋柱様は姿を消してしまいました。しかたなく炭治郎たちは温泉のまわりを探したのですが、蜘蛛の巣なんてどこにも見つかりません。
「どうしよう、お兄ちゃん」
「うーん、ここよりもっと奥にあるのかな」
「なぁ、炭治郎。あっちから大きな水音がするんだ。もしかしたらそっちにあるんじゃないかな」
 耳を澄ませた善逸が言うので、炭治郎は善逸が指差した方に向かってふんふんと鼻をうごめかせました。けれど辺りは温泉の匂いがいっぱいで、炭治郎の自慢の鼻でも、水の匂いを嗅ぎ当てられません。
「権八郎がわかんねぇんじゃやめとこうぜ。そんな弱みその言うことなんか信じられっかよ」
「なんだとぉっ!」
「やめないかっ!! 伊之助、善逸の耳がとてもいいこと知ってるだろ? 善逸もそんなに怒るなよ」
「そうだよ、いつもみたいに仲良くしようよ」
 怒る炭治郎や泣きそうな禰豆子に、善逸と伊之助はバツが悪そうに黙りましたが、やっぱりお互い謝ったりはしませんでした。

 とにかく行ってみようと善逸が指差したほうへ進んでいくと、ドドドドドドドドドッと大きな音が響いてきて、やがて大きな滝つぼの上へと出ました。
「うわぁ、かなり深そうな滝つぼだな」
「炭治郎、あんまり身を乗り出すなよっ。こんなの落ちたら助からないぞっ!」
「善逸さんが言うとおりだよ、お兄ちゃん。ここは危ないよ」
「ふん、弱みそどもじゃ無理だろうなっ。親分の俺様が見てやるぜ!」
 そう言うと伊之助は、みんなが止めるのも聞かずに、滝の上に枝をせり出した木によじ登りはじめました。
「おいっ、伊之助! 戻ってくるんだ、危ないぞ!」
「うるせぇ! 俺様に指図すんな! ん?」
 怒鳴り返した伊之助は、不意に黙り込んだと思ったら、枝の先をじっと見つめています。
「おいっ、あったぞ! この枝の先に赤い蜘蛛の巣がかかってやがる!」
 伊之助の言葉に炭治郎たちがよく見れば、たしかに細い枝の先で、蜘蛛の巣がきらきらと赤く光っています。
「本当だ! お兄ちゃん、きっとあれだね!」
「でもあのままじゃ危ないって! だって伊之助は俺らのなかで一番重いんだぞ!? ほらっ、枝がミシミシいってるじゃん!」
「伊之助っ、一度戻ってこい! そのままじゃ枝が折れるぞっ!」
 炭治郎たちが言っても、伊之助は意地になったように枝を進んでいきます。枝はグラグラと揺れて、伊之助が先に行けば行くほど、大きな水音に紛れてミシリミシリと枝の軋みが聞こえてきました。
「俺が行ってくる! 炭治郎たちじゃ枝が折れるかもしれない。俺なら軽いからあの馬鹿止めてくるっ!!」
 そう言うと、善逸は木を登りだしました。ねずみの善逸はスイスイと進み、枝の付け根まであっという間に辿り着きました。
「伊之助っ、この馬鹿っ!! 危ないだろ、戻って来いよ!」
「うるせぇぞ、弱みそめっ! 紋逸の言うことなんか聞いてやるかよ!」
「うっわムカつくぅぅっ! あーそうですかっ! 俺だって人の名前もまともに呼ばない伊之助なんかに、返事なんてしてやんねぇからっ!!」
 グラグラ揺れる枝の上で口喧嘩するものだから、下で見ている炭治郎と禰豆子はハラハラしてしまいます。炭治郎も木に登りたいのですが、善逸が言うように、枝は伊之助だけでさえ折れそうでした。炭治郎が行けば三人もろともに滝つぼに落ちてしまうかもしれません。
 どうしよう、伊之助をどうにかして止めないと! 焦りますが、伊之助たちが登っている木のほかには、滝つぼにせり出している枝はありません。
 滝の水は激しくて、落ちたら浮かび上がることはできないでしょう。途中で受け止められる場所があればいいのですが、そんな場所も見当たりません。万が一、枝が折れて伊之助が滝つぼに落ちたら、溺れるのを覚悟で飛び込んで引き上げるよりほかなさそうです。
 しかたがないと、炭治郎と禰豆子は、急いで滝つぼに向かいました。
 枝の上ではまだ、伊之助と善逸が言い合いをしています。
「だいたいお前はいっつも乱暴なんだよっ!」
「お前はいっつも泣きべそかいてばっかりじゃねぇかっ!」 
 ギャンギャンと言い合っているうちに、伊之助の重みに耐えかねた枝が、バキリッと大きな音を立てて折れました。

「うわっ!!」
「伊之助っ!!」

 折れた場所は伊之助がいた場所よりもちょっと後ろ。伊之助は折れた枝にしがみついて、ユラユラと揺れる羽目になっています。
 枝は大きく揺れて、今にも滝つぼに落ちてしまいそうです。伊之助だっていつまでしがみついていられるかわかりません。
「伊之助っ、今行くからっ!!」
「馬鹿ッ!! 来るんじゃねぇ、紋逸! お前まで落ちるだろうがぁっ!!」
 とっても怖がりで臆病な善逸が、ためらいなく枝を進んでいくのを見上げて、滝つぼに着いた炭治郎と禰豆子は、必死に辺りから蔦を掻き集めました。蔦の端を木に結んで、反対の端を炭治郎は自分のお腹に巻きつけます。
「禰豆子、もし伊之助が落ちたら兄ちゃんが救けに行くから、蔦が解けないように見ててくれ!」
 すぐに飛び込めるよう準備する炭治郎と禰豆子の頭上では、善逸が折れた枝で顔に引っかき傷を作りながらも、必死に伊之助に手を伸ばしています。
「伊之助っ、早くっ!!」
「俺がつかまったらお前まで落ちるぞっ! 怖がりのくせに無理すんじゃねぇ!!」
「怖いよっ、怖いに決まってんだろぉぉぉっ!! でも伊之助が落ちるのはもっと怖いんだから、しょうがないじゃんかっ!!」
 グッと言葉に詰まった伊之助が、意を決したように善逸に向かって手を伸ばします。
「伊之助っ、もうちょっとだ! 善逸も頑張れっ!!」
「善逸さん、もう少し! 伊之助さん頑張って!!」
 炭治郎と禰豆子も必死に応援しました。
 あとちょっと。もう少し! 善逸と伊之助の指先が触れて、ぎゅっと手を握り合ったその瞬間。揺れていた枝がとうとう千切れて、二人の体が空中に投げ出されました。
「伊之助っ!!」
「善逸ぅっ!!」
 叫ぶように呼び合った二人は、お互いをぎゅっと抱きかかえて落ちていきます。
「善逸っ、伊之助っ!!」
 大きな水しぶきを上げて二人が滝つぼに落ちたと同時に、炭治郎も水に飛び込みます。落ちてくる大量の水に引き込まれて、炭治郎の体も滝つぼへと沈みました。
「お兄ちゃんっ!!」
 禰豆子の悲鳴ももう聞こえません。落ち込む水が立てる泡に紛れて、手を繋ぎ合ってグルグルと水に揉まれている善逸と伊之助の姿が見えました。炭治郎もまともに泳ぐことはできず、滝に引き込まれるばかりでした。
 それでも必死に二人に手を伸ばしていると、突然ふわりと体が泡に包まれました。大きな泡は炭治郎を包み込んで、ぷかりと水面に浮かんでいきます。
「だ、駄目だっ!! 伊之助と善逸がまだ……っ!」