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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました2

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 ゆっくり温まっていってねと恋柱様に言われた炭治郎たちが、温泉に入っているあいだに、濡れた服を恋柱様が乾かしてくれました。おまけに甘いお菓子まで頑張ったご褒美にとくださったのです。炭治郎たちは、すっかり恋柱様が大好きになりました。
 なにかお返しをしたかったのですが、残念ながら洋服屋さんが持たせてくれた恋柱様へのお弁当は、炭治郎が背負っていたのを忘れて水に飛び込んでしまったので、水浸しです。これでは食べていただくわけにはいきません。
「どうしよう……。ごめんなさい、恋柱様」
「気にしなくていいのよ。次に来たときに食べさせてねっ」
 恋柱様が笑ってくれたので、炭治郎たちも、きっとまたお弁当を持ってお参りに来ますとお約束したのでした。


 温泉に入って、美味しいお菓子もいただいて。傷だらけになってしまっていた手や顔も、善逸が持っていた洋服屋さんの不思議な布で拭ったらきれいに治せました。炭治郎たちは元気に帰り道を急ぎます。
 行きと違って帰り道は、いつもと同じようにおしゃべりしながら楽しく走りました。善逸と伊之助はすっかり仲直りしたようです。炭治郎もすごくうれしくなって、弾むように走ります。



 トントントン。いつものように炭治郎が戸を開くと、洋服屋さんのホッとした顔が見えました。
「洋服屋さん、お遣いしてきました! はい、蜘蛛の糸です!」
 炭治郎が糸玉をわたすと、洋服屋さんは頭を撫でるのではなく、ギュッと炭治郎を抱きしめてくれました。
「洋服屋さん?」
「すまなかった」
「なにがですか?」
 抱きしめられて顔を真っ赤にした炭治郎が聞くと、洋服屋さんは炭治郎のおでこに自分のおでこをこつりと当てて、そっと囁くように言いました。
「危ない目に遭わせた。もうお遣いはしなくていい」
 その言葉にビックリしたのは炭治郎だけじゃありません。禰豆子や善逸、伊之助も、みんな驚いて口々に言いました。
「子分たちが危ない目に遭ったのは、俺様が不甲斐なかったからだっ! てめぇは関係ねぇ!」
「お前、口の利き方っ! でも本当に洋服屋さんのせいじゃないですから! 俺と伊之助が喧嘩してたのが悪いんだから謝んないでぇ! 不思議なことができる人に謝られるのってなんか怖いからぁ!」
「洋服屋さん、心配かけてごめんなさい。でも私たち、洋服屋さんのお手伝いがしたいの」
 禰豆子の言葉に、洋服屋さんはそれでも、ふるふると首を振ります。
「風柱のところでも危ない目に遭っただろう? 柱の住まいで命を落とすことはないだろうが、万が一ということもある。お前たちはただの子供だ。これ以上危険な目に遭う必要はない」
 だからもうおしまいにしようと言う洋服屋さんをじっと見て、炭治郎は言いました。
「でも、お遣いをしなくても、年が替わる夜にはきっと危険な目に遇いますよ?」
 目を見開く洋服屋さんに、炭治郎はにっこりと笑いかけました。
 もう何回か眠ったら年が替わります。『災い』の首魁がキメツの森を襲う夜がくるのです。
 今までお逢いした柱様たちは、懸命に炭治郎たち森の動物を守ってくださるでしょう。けれど、森にはたくさんの動物がいるのです。炭治郎たちばかりを守るわけにはいきません。『災い』はきっと炭治郎たちのところにもやってきて、炭治郎たちを襲うに違いありませんでした。
「洋服屋さん、俺はただの狐だけど、できることがあるなら精一杯やりたいです。洋服屋さんのお手伝いをして、柱様たちとお逢いしたら、できることが見つかるかもしれません。それに、洋服屋さんが俺たちにいろんなものをくれるのには、なにかわけがあるんだろうなってことぐらいわかります。だから、やめろなんて言わないでください」
 まっすぐに洋服屋さんの目を見て言う炭治郎に、洋服屋さんは少し悲しそうに眉を寄せましたが、やがて小さく溜息をつくと、炭治郎の頭を撫でてくれました。
「……わかった」
 やったぁと喜ぶ禰豆子たちの声を聞きながら、炭治郎も、うれしくて思わず洋服屋さんの首に腕を回すと、キュッと抱きつきました。
「洋服屋さん、今日はなにを作るんですか? 今日も見ていていいですか?」
 洋服屋さんはちょっと苦笑しましたが、いつものようにうなずいてくれました。



 今日もテーブルに用意されていたご飯をみんなが食べているあいだ、急いで自分の分を食べた炭治郎は、洋服屋さんの隣に立ってお仕事机を覗き込みます。
 洋服屋さんは、糸紡ぎを取り出して机の上に置くと、蜘蛛の糸を仕掛けてくるくると回し始めました。細い細い赤い蜘蛛の糸はきらきら光りながら、撚り合わさってしっかりとした糸になっていきます。炭治郎がほぅっと感心しながら見ていると、洋服屋さんはその糸をさらに組んでゆき、赤い組紐を作り上げました。

 その組紐にフッと息を吹きかけると、洋服屋さんは禰豆子を手招きました。
「なぁに? 洋服屋さん」
 洋服屋さんは禰豆子に後ろを向かせ、禰豆子の長い髪に組紐を結んでくれました。
 ちょうちょ結びされた組紐は、禰豆子によく似合います。善逸や伊之助も似合う似合うと言ってくれたので、禰豆子はとてもうれしそうです。
「ありがとう、洋服屋さん!」
 笑う禰豆子の頭を撫でる洋服屋さんに、炭治郎たちは顔を見合わせると、大きな声で言いました。
「洋服屋さん、次のお手伝いはなんですか?」
「……蛇柱の住まいにいる金の蛇の鱗をもらってきてくれ」
「わかりました! でも洋服屋さん? なんでそんなに困ったような顔をしてるんですか?」
 風柱様のときと同じような顔をしている洋服屋さんに、炭治郎が首をかしげると、洋服屋さんは少し口ごもりながら言いました。
「……蛇柱にはよく嫌味を言われる」
「なんだ、嫌われてんのか」
「俺は嫌われてない」
 やっぱり即答した洋服屋さんに、炭治郎たちもやっぱり笑ってしまったのでした。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 キメツの森はすっかり真冬です。もう少ししたら雪が降ってくるかもしれません。
 今日も洋服屋さんの用意してくれた朝ご飯をたっぷりと食べて、洋服屋さんの手製のお弁当を持って、炭治郎たちは森を駆けます。
 蛇柱様のお社があるのは、恋柱様のお住まいの近くにある沼なのだそうです。恋柱様と蛇柱様は仲良しで、もしかしたらご結婚もありえると、お二人の元へお参りに行く動物たちが噂しているんだよと善逸が教えてくれました。
「素敵! 恋柱様がお嫁入するところ、私も見たいなぁ。きっとすごくきれいだと思うの」
「ね、禰豆子ちゃんの花嫁さん姿だって、きっときれいだよぉ。あ、あのさあのさっ、いつか俺とけっこ「柱が柱の眷属になんのかっ!? すげぇな!」」
 善逸の言葉をさえぎって言った伊之助に、善逸がお前なぁぁぁっっ! とわめきましたが、伊之助はなんで善逸が怒りだしたのか、さっぱりわからないみたいでした。
 ギャアギャアと騒がしく言い合いながら走る善逸と伊之助は、それでも楽しそうで、もう昨日までのように険悪な空気はありません。
 それをうれしく思いながらも、炭治郎は、チクンと痛んだ胸に首をひねりました。