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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました2

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 柱様同士のご結婚は、森の動物たちにとってもお祝い事です。炭治郎も素敵なことだと思いました。けれども、思い出してしまうのは水柱様のことです。
 水柱様もお嫁さんを迎え入れて、森の動物たちにお祝いされる日がくるのでしょうか。やさしくお嫁さんの頭を撫でて、ギュッと抱きしめてあげるのでしょうか。
 なんだか悲しい気持ちになるのが不思議で、炭治郎は黙ったまま走りました。
「だいたいさぁ、柱様同士の結婚は、眷属とは関係ないだろぉ? 俺もよく知らないけどさ、風柱様のとこの眷属が言ってたじゃん。柱様同士や柱様の血筋の人からご伴侶様を迎えるんだって」
「ご伴侶様と神嫁様はどう違うのかしら。恋柱様は蛇柱様のご伴侶様になるのかもしれないけど、音柱様のお嫁さんたちはご伴侶様にはなれないのかな?」
「うーん、神様のことはよくわかんないなぁ」
 禰豆子たちのお喋りを聞きながらどんどん駆けていくと、やがて広い沼が見えてきました。
 辺りは薄暗くて、ところどころ木漏れ日は差しているのですが、なんだか『災い』だって出てきそうです。
「蛇柱様はどこにいらっしゃるんだろう」
「呼んでみりゃいいんじゃねぇのか? おいっ、蛇柱! 出てきやがれっ!」
「うわぁぁぁっ! おま、お前っ、なに言っちゃってんのぉぉぉっ!!」
 善逸が慌てて伊之助の口をふさぎます。炭治郎と禰豆子も、蛇柱様が気を悪くされていないかハラハラしながら辺りを見回しましたが、蛇柱様が出てくる気配はありません。
「どうしよう、蛇柱様はお出かけなのかな?」
「恋柱様のところに行ってらっしゃるんじゃないかしら」
 パッと顔を輝かせて禰豆子が言いました。それなら、また道を戻って恋柱様のお住まいに行かなくちゃいけません。だけどもし、恋柱様のところにいらっしゃらなかったら、またここに戻ることになりますから、夜になる前にお店へ帰れるかわからなくなってしまいます。
「うーん、困ったなぁ」
 炭治郎たちが悩んでいると、ビュウッと冷たい木枯らしが吹き抜けて、木々がざわざわと音を立てました。炭治郎たちは洋服屋さんの手袋やマフラーでへっちゃらですが、とても冷たい風でした。
 風はビュウビュウと吹いて、炭治郎たちは思わず座り込んでしまいました。あんまり風が強くて、立っていると飛ばされてしまいそうだったのです。
 みんなでぎゅっと手を握り合って風がやむのを待っていると、バサバサッと頭の上で音がして、ボトリとなにかが落ちてきました。
 なんだろうと見てみると、大きな大きな蛇が丸まってビクビクと震えながら、地面を激しくしっぽで打ち付けています。
「ギャァァアアァァァアァァッッ!! へ、蛇っ! 蛇ぃぃいぃぃぃいいぃっ!!」
 びょんと飛び上がった善逸は、ガッシリと炭治郎に抱きつきました。ねずみの善逸にしてみれば蛇は天敵です。善逸は怯え切ってガタガタと震えていました。
「蛇柱のとこなんだから、蛇がいるのは当然じゃねぇか」
「だってだってだって、蛇柱様は神様だから俺を食べないだろうけど、普通の蛇は食べようとするだろぉぉっ!! しかもこんなに大きい蛇じゃ、禰豆子ちゃんだって危ないよっ! 食べられちゃうかもしんないだろうがぁっ!!」
「ちょ、ちょっと、善逸っ! そんなにしがみついたらなんにも見えないよっ!」
 炭治郎が言っても善逸はブルブル震えて離れようとしません。しかたなく善逸の顔をグイッと押しやって炭治郎が見てみると、蛇はなんだか苦しそうです。
「この蛇、なんだか苦しそうじゃないか? どうしたんだろう」
「蛇なんて放っておけよぉ、早く恋柱様のとこに行こうぜっ!」
「そういうわけにはいかないよ」
 善逸を引きはがした炭治郎が近づいていくと、丸まっていた蛇が、ゆっくりと鎌首をもたげました。
「うっぎゃあぁぁあぁあぁぁぁあぁぁっ!! こんなことあるぅぅうぅぅぅっっ!?」
「紋逸、うるせぇっ!」
 伊之助が怒鳴りますが、善逸の悲鳴ももっともで、その蛇は、体は蛇なのに人の顔がついていたのです。どう見たって普通の蛇ではありません。
 まさか『災い』か? 炭治郎は身構えましたが、蛇からは『災い』の恐ろしい匂いはしてきませんでした。
「あ、この蛇怪我してるぞ」
 よく見れば蛇の目の下には、ざっくりと切り裂かれたような傷がありました。先ほどの風が起こした鎌鼬にでも切られたのかもしれません。
「痛そう……」
「うん、だからこんなに苦しそうなんだな」
 禰豆子が心配そうに言うのにうなずいて、炭治郎は、ビクビクと怯えている善逸に向かって言いました。
「善逸、洋服屋さんの布だったら、この蛇の怪我も治してやれるんじゃないかな」
「俺っ!? 俺にやれっていうのっ!?」
「いや、善逸が怖いなら俺がやるけど」
「じゃあ炭治郎がやってよっ、ほらっ!」
 放り投げられた小袋を受け止めて、炭治郎は取り出した布を手に近づこうとしたのですが、蛇はグネグネとのたうち回ってじっとしてくれません。
「みんなで蛇を抑えて、誰か一人が拭いてやるしかないんじゃないかな」
「じゃあ、私だね。一番力が弱いもの。私が拭いてあげるね」
「禰豆子ちゃんにそんな危ないことさせられるわけないじゃんっ! うぅっ、いいよ、俺が拭くよぅっ!」
 泣きべそをかきながら善逸が布を手に近づいたので、伊之助と禰豆子が蛇の体を抑えました。
「よしよし、いま治してやるからな。頼むからおとなしくしてくれよ」
 炭治郎が蛇の顔を掴むと、善逸はブルブルと震える手で、蛇の傷を拭きました。
 傷は見る間に治って、大蛇の顔が途端に普通の蛇へと変わりました。驚いた炭治郎たちが手を放すと、蛇はすぐさまシュルシュルと去っていってしまいました。

「おい、貴様ら。どうしてあの蛇を助けた?」

 声は頭の上から聞こえてきました。炭治郎たちが見上げると、口を布で覆い首に白い蛇を巻きつけた男の人が一人、枝に横たわっています。この人が蛇柱様なのでしょうか。
「蛇柱様ですか?」
「だったらどうした」
「初めまして、蛇柱様。俺は狐の炭治郎、こっちは妹の禰豆子で、友達の善逸と伊之助です! 今日は洋服屋さんのお手伝いで、蛇柱様のお住まいにいる金の蛇の鱗をいただきに来ました!」
 炭治郎が元気よく言うと、蛇柱様はゆらゆら指を揺らして不機嫌そうに言いました。
「質問に答えていないぞ。そんな礼儀知らずが柱にものをねだるなんて、世も末だ。こんな奴らが俺の住まいに来るとは、頭痛を覚えるんだがな。おまけに挨拶するのは貴様だけか。まったく、あいつと同じく礼儀知らずもいいところだ」
 ネチネチとした物言いに、炭治郎は思わずぽかんとしてしまいました。この方が本当にあの恋柱様と仲がいいのでしょうか。
 炭治郎の疑問はみんなも同様だったようで、善逸も伊之助も、疑り深い目で蛇柱様を見ています。
「蛇柱様、こんにちは。失礼なことをしてごめんなさい。私は狐の禰豆子です」
 禰豆子だけは素直に蛇柱様へとご挨拶をして、ぺこりと頭を下げました。それを見て善逸も慌てて頭を下げます。
「ねずみの善逸です……えーと、ごめんなさい」
「チッ、イノシシの伊之助だ!」