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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました 3

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 廊下の先は広い踊り場に続いていました。さっきの『災い』たちはもう階段を下りていってしまったようです。炭治郎たちも踊り場から続く階段を急いで駆け下りました。
 階段は長くて、途中何度か折り返しながら、ずっと下まで続いています。
「あそこで階段は終わりだ。また廊下に出るぞ」
「あいつらはどっちに行きやがったんだぁ?」
 廊下に降り立った炭治郎たちは、小さい声で話しながら、きょろきょろと周囲を見回しました。でも『災い』の姿は見えないし、匂いも音もしてきません。辺りは四方に伸びた廊下に沿って部屋がずらりと並んでいます。これでは後を追いかけられません。
 一つずつ部屋を覗いてみようか。いやいや、そのたび罠に出くわしでもしたら、すぐに『災い』に見つかっちゃうぞ。だけどのんびりしてる時間もない。こそこそと相談するのですが、なかなか話はまとまりません。
 お腹もまた空いてきて、藤の花を見てみれば三分の一ほどが枯れてきています。匂いはまだお腹いっぱいにしてくれますが、この花が全部枯れたら年の替わる夜になってしまうのです。急がなければいけません。
「しかたない。呪文を唱えてみるよ」
 炭治郎が呪文を唱えると、伊之助のマフラーの下でペンダントがふわりと浮き上がりました。
 慌てて伊之助がペンダントを手にすると、ペンダントはきらきらと金色に光っています。
「どう使やぁいいんだぁ?」
「うーん、いろいろ試してみようか」
 ペンダントを振ってみたり、洋服屋さんがするように息を吹きかけてみたりしましたが、ペンダントはきらきらと光るばかりでなにも起こりません。癇癪を起した伊之助がペンダントを床に叩きつけようと振り上げたそのときです、慌てた声で禰豆子が言いました。
「ちょっと待って、伊之助さんっ。今、ペンダントが赤くなったように見えたの」
「えっ、本当か? 禰豆子」
「うん、ちょっとだけだったけど」
 伊之助からペンダントを受け取った禰豆子が、ペンダントを透かして廊下を見ると、廊下の先にある部屋の障子が赤く光っていました。
「見えたっ。見えたよ、お兄ちゃんっ。ホラ、このペンダントを透かして見ると、赤く光ってる場所があるよっ」
 炭治郎たちもペンダントを目の前にかざしてみましたが、たしかにほかの部屋とは違って、赤く光って見える部屋が一つだけあります。
「きっとあそこだっ」
「すごいっ、よく気がついたね禰豆子ちゃんっ」
「えへへ、たまたま見えただけだけど、よかったぁ」
「よぅし、行くぞ子分どもっ」
 こそこそと小声で話しながら、マントを被った炭治郎たちは、廊下を静かに進んでいきました。
 しーっと唇に人差し指を当ててみんなを見回した炭治郎が、赤く染まって見える部屋の障子を少し開けて覗いてみると、さっきの『災い』たちがいました。たくさんの洋服にアイロンをかけて皺を伸ばしたり、畳んだりしながら、『災い』たちはああでもないこうでもないとお喋りをしています。
 どうやら無惨の服の手入れをしながら、届ける服を選んでいるようです。
 そっと障子の前から離れた炭治郎たちは、廊下を少し戻って話し合いました。
「後をつけていくにしても、部屋の前にいたら危ないよな。どこか近くの部屋で見張ったほうがいいかもしれない」
「そうしようよぉ、ずっと走ったり上ったりしっぱなしなんだぜ? ちょっと休まないと疲れて動けないよぉ」
「相変わらず弱みそだな、紋逸」
「私も少し疲れちゃった。お兄ちゃん、『災い』たちが部屋を出るまで、ほかの部屋で休もうよ」
 それじゃあそうしようかと、炭治郎たちは『災い』たちがいる部屋の斜め向かいの部屋に入っていきました。障子を少しだけ開けて外を見張れるようにして、炭治郎たちはやっと一息つきました。
 ずっと緊張しながら動き回っていたので、思ったより体は疲れていたようです。
 畳の上に座り込んだ途端に、炭治郎たちはそのままぐったりと横になってしまいました。
 もしかしたら今は夜なのかもしれません。いつもだったら眠っている時間なのか、炭治郎たちの瞼はどんどん重くなっていきます。
 眠っちゃ駄目だ、見張らなきゃ。そう思うのですが、どうしても目を開けていられなくて、いつの間にやら炭治郎たちは眠ってしまいました。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「んんっ、ん~……?」
 なにか細いもので鼻先を擽られて、炭治郎はぼんやりと目を覚ましました。見れば善逸のしっぽの先が、炭治郎の顔の近くでひょこひょこ揺れています。
 なんだ、善逸だったのかと思った次の瞬間、パチリと目が覚めた炭治郎は、慌てて飛び起きました。
 いったいいつの間に眠ってしまったのでしょう。『災い』たちを見張らなくちゃいけなかったのに。焦って藤の花を見ると、藤の花はもう半分枯れています。
「大変だっ。おい、禰豆子っ、善逸と伊之助も起きろっ。もう藤の花が半分枯れてる!」
 みんなを揺すって起こすと、禰豆子たちも大慌てで飛び起きました。
「うわっ、本当だっ。どうしよう、あいつらまだいるのかな」
「見てみるねっ」
 障子の隙間から禰豆子がペンダントを翳して斜め向かいの部屋を見ましたが、赤い光は見えませんでした。
「おい、どうすんだ? これじゃ無惨がいる場所がわからねぇぞ」
「とにかくじっとしてても時間がなくなるばっかりだ。ほかに『災い』がいないか探してみよう!」
 藤の花の匂いでお腹をいっぱいにすると、炭治郎たちはマントを被ってそっと部屋を抜け出しました。
 ペンダントを透かして見ても、赤い光は近くには見当たりません。とにかく先に行ってみようと廊下を進んでしばらく行くと、ペンダントを覗き込んでいた禰豆子が、あれ? と首をひねりました。
「禰豆子、どうしたんだ?」
「あのね、少しだけ赤くなってるところがあるんだけど、どう見ても壁なの」
 炭治郎たちも代わる代わる見てみましたが、たしかに小さな赤い光が見える場所には、頑丈そうな壁しかありません。
「あの壁の向こうに『災い』がいるってことかな」
「どっかに回り道ないかなぁ。この壁は崩せないだろ?」
「でもここは廊下の突き当りよ? 周りは部屋しかないし……」
「なら、この壁を崩すしかねぇなっ! どいてやがれ子分どもっ!」
 言うなり壁に頭突きした伊之助に、みんな慌ててしまいましたが、壁はゴンッと大きな音を響かせただけでびくともしません。それどころか、伊之助のおでこには大きなたんこぶができてしまいました。
「お前もうちょっと考えてからやれよ! 布はもう無駄遣いできないんだぞ!?」
「それにあんまり大きい音は立てないほうがいいかも。『災い』に気づかれちゃう」
 善逸と禰豆子に言われ、伊之助は唇を尖らせると、それならどうしろってんだ、時間がないんだぞと不満顔です。
 そう言われてしまえば善逸や禰豆子も、なにも言えなくなってしまいます。だって眠ってしまったせいで時間がなくなってしまったのは確かなのですから。
 お館様のお社に集まったのは、新年まであと二日という朝でした。ということは、きっと今夜が年が替わる夜でしょう。無限城にはお日様がまったく見えないので、今が朝なのかお昼なのかもわかりません。もしかしたらもう夕方なのかもしれないのです。