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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました 3

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 柱様でさえ『災い』に襲われ命を落とした方もいるのですから、ただの狐やねずみでしかない炭治郎たちなど、柱の加護を得ていても安心できるものではありません。
 もちろん、柱様方はとっても強くて、炭治郎が生まれてから今まで、亡くなられた柱様はいらっしゃいませんでした。けれど、生まれる前にならば、炭治郎はお一人、『災い』によって命を落とされた方がいらっしゃったことを知っています。水柱様の姉上様である、先代の水柱様です。

 もしも。もしも、今度の戦いで水柱様が姉上様のように、命を落とされたら……。

 考えただけで炭治郎は、悲しくて苦しくて、泣き出したくなります。じっとしていられず、どうにかしてなにかお手伝いがしたいと、胸の奥には焦りがいっぱい生まれました。でも今の炭治郎に、いったいなにができるというのでしょう。炭治郎はただの子狐でしかないのです。どんなに柱様のお力になりたくとも、『災い』と戦うことなどできやしません。
 せめて禰豆子たちの不安を払ってやらなくてはと、笑顔を作り禰豆子の頭を撫でてやったそのとき、コツコツと誰かが窓を叩く音がしました。
 こんな雪の日に誰だろうと見れば、一羽の鴉が窓辺にとまっていました。お館様のお言葉を伝えに来る鴉です。
 慌てて窓を開けると、冷たい風や雪とともに部屋に入ってきた鴉は言いました。
「オ館様ノオ達シデアルゥ! 森ノ動物タチハ須ラク明日ノ朝オ館様ノオ社二集ウベシィ!」
 鴉が声高く言った言葉に、炭治郎たちは思わず顔を見合わせました。
「……もしかして、お館様のお社でみんなを守ってくれるのかなぁ!」
「社に動物全員なんて入れねぇだろ?」
 期待を隠し切れずしっぽをピンと立てて言う善逸に対して、めずらしいことに伊之助はやけに慎重です。
 でもたしかに伊之助の言うとおりでした。お館様のお社は人間もお参りに来るぐらい立派ですが、森の動物すべてを匿えるほどの大きさはありません。
 それなのに動物たちを集めるのです。なにか直接仰りたいことがあるのかもしれません。
 鴉はお館様のお言葉を伝えると、すぐにまた外へと飛んでいってしまいました。ほかの動物たちにも伝えなければならないので忙しいのでしょう。
「とにかく、お館様のお達しなんだから、行ってみるしかないよ」
「雪がやむといいよなぁ。あんまり積もってたらお社に行くのも大変だぞ」
「でも、洋服屋さんのおかげで今年の冬はあまり寒くないから助かったね、お兄ちゃん」
「どうなってやがんのかわかんねぇけど、マフラーだけでもすげぇあったけぇからな」
 まだ雪がやむ気配はありません。もし朝まで降り続いたら、お社に行くのには時間がかかりそうです。炭治郎たちは明日に備えて早目に眠ることにしました。
 不安は消えてくれそうにありませんでしたが、それでも、四人でくっついて眠ると、互いの温もりに安心してきて、炭治郎たちはいつの間にかぐっすりと眠っていたのでした。



 雪は朝になっても降り続いていました。まだ幼い炭治郎たちは、積もった雪の上を歩くだけでも大変です。けれど、洋服屋さんの手袋やマフラーは、身に着けているだけでなぜだか体がポカポカとして、冷たい雪が降るなかを歩いても炭治郎たちは寒くありませんでした。
 お館様のお社は、大きな大きなキメツの森の、ちょうど真ん中あたりにあります。お参りに来る人間たちは大変でしょうが、それでもお館様のご利益は苦労する甲斐があるとかで、訪れる人は絶えません。
 年が替わる夜から新年にかけては、毎年多くの人間がやってくるのですが、今年は雪のせいで人はやってこれなさそうです。『災い』は人を襲うこともあるという話ですから、雪が降ったのはよかったのかもしれません。
 炭治郎たちがお社に着いたころには、もう多くの動物たちが集まっていました。思ったとおり、人間の姿はどこにも見えません。
 熊やリス、猿に山犬、ウサギなど、様々な動物がお社の前の広場にはいました。本当だったら今ごろはぐっすりと冬眠中の動物も、『災い』が襲ってくるのに眠っている場合ではないと、お社に集まってきています。

 ざわざわと不安そうなざわめきが聞こえるなか、炭治郎たちも身を寄せ合って、お館様のお社をじっと見つめました。雪はまだ降っています。禰豆子の頭や肩に積もった雪を払ってやりながら、善逸がこそこそと言いました。
「これだけいたらお社には入れないよなぁ。だとしたらなんのお話だと思う?」
「うーん、わからないけど、お館様が俺たちのためにならないことを言うわけないから、『災い』から身を守る知恵を授けてくれるとかじゃないかな」
 炭治郎が言うと、すぐ近くにいた鹿がフンと鼻を鳴らして話しかけてきました。
「そんな知恵があるなら、とっくの昔に仰ってるさ。でなきゃ俺の弟はなんで死んだんだ。身を守る方法があるのにむざむざ『災い』に殺されたなんて、俺の弟が浮かばれねぇよ」
 吐き捨てるようなシカの言葉に、伊之助の後ろにいたモモンガも同意の声を上げました。
「まったくだよ。柱様が救けに来てくれるっていったって、間に合わないことだって多いんだから。もしそんな知恵を授けてくれるためだって言うなら、お館様は死んだ奴らを見殺しにしてきたってことじゃないか。今さら過ぎるよ」
 大人たちの言葉に、炭治郎はしゅんと俯きました。
 炭治郎と禰豆子のお母さんたちが『災い』に殺されてしまったように、ここにいる動物たちのなかには、家族を『災い』に奪われた者もたくさんいるのでしょう。
 なんて考えが浅いんだろう。俺が余計なことを言ったばかりに、お館様への疑いの言葉を言わせてしまうなんて。お館様や柱様たちに申し訳なくて、炭治郎は少し落ち込んでしまいました。
「炭治郎ぉ、気にすんなよ。お館様ならなんかすごい知恵を出してくれるんじゃないかって、俺も思うもん」
「そうだよ、お兄ちゃん。あまり気に病まないで」
「あっ! 社の戸が開くぞ!」
 伊之助の声に炭治郎たちが顔を上げると、お館様のお子様たちがゆっくりとお社の戸を開いていくのが見えました。

「よく集まってくれたね、私のかわいい子供たち」

 大きく声を張り上げたわけでもないのに、お館様のお声はよく通り、途端に辺りは静まり返りました。
 動物たちは一斉に、祈るように手を組んだり頭を下げたりして、お館様への敬意を示しています。不満げだったシカやムササビも、畏まってお館様を見つめていました。
 口では文句を言っても、みなお館さまへの信頼は厚いのでしょう。炭治郎たちも気づけば頭を下げていました。
 炭治郎はお館様にお逢いするのは初めてでしたが、そのお声を聞いた瞬間に、ふわふわと頭のなかが揺れるような心地がして、なんだかとても心が浮きたってきます。
 けれどその頭も、続いたお言葉に思わず上がって、炭治郎は繋いだ禰豆子の手をギュッと握りしめました。

「もうじき『災い』の首魁、鬼舞辻無惨がこのキメツの森を襲うことは、もうみんな知っているね?」

 息を呑んだ炭治郎の胸は、不安にドキドキと音を立てました。禰豆子の手も小さく震えています。善逸や伊之助も、大人の動物たちも、炭治郎たちと同じように、不安を隠し切れずにいるようでした。