手袋を買いに行ったら家族が増えました
考えたらなんだかとっても悲しくて、胸がチクチク痛くなります。
炭治郎は自分がお嫁さんになるなんて、今まで一度も考えたがありません。男の子なんですから当然です。義勇にやさしくてきれいなお嫁さんがくるのを、祈ってもいました。でも、なぜでしょう。自分以外の誰かが、義勇と一緒にいるのは、なんだかとても悲しくなるのです。
義勇が許してくれるなら、ずっと義勇のそばにいて、一緒にご飯を食べたり眠ったりするのは、自分がいい。炭治郎は初めて、誰よりも自分が一番義勇の傍にいたいと思っていることに、気がつきました。
赤ちゃんだとかご伴侶様だとか、炭治郎にはまだ、よくわかりません。だけど、義勇のことが大好きな気持ちは、絶対に誰にも負けたくないと思うのです。一番大好きな人とするのが結婚なら、義勇と結婚するのは自分がいい。義勇に、一番大好きだと言ってもらえたら、どんなにうれしく幸せなことでしょう。
「冨岡さんの真名を知っていた人達は、みなさんお隠れになってしまわれましたから……知っているのは炭治郎くんだけだと思いますよ? 心配しなくても大丈夫。それよりも、恋柱様たちのご婚礼や鬼舞辻討伐の功労を称える式典に間に合うように、ちゃんと体を治さなくてはね。式典ではお館様からご褒美がいただけますよ。なんでもいいそうですから、なにが欲しいか考えておいてくださいね」
そう言って蟲柱様は部屋を出て行きました。
「ご褒美だってさ! なぁなぁ、なにもらう?」
「うーん、俺はご褒美なんていりませんって言ったんだけどなぁ」
「はぁっ!? 炭治郎、本気で言ってんのかよ! お前が一番苦労したんだぜ!?」
善逸は目をむいて驚いていますが、炭治郎はご褒美が欲しくて頑張ったわけじゃないんだしと、けろりとしていました。そんな炭治郎に、禰豆子が苦笑して言いました。
「お兄ちゃんがもらわなかったら、善逸さんや伊之助さんだってもらいにくくなっちゃうよ?」
禰豆子に言われても炭治郎はピンときません。
「そんなの気にしなくていいのに」
「お前は気にしなくても俺らが気になんのっ!!」
「子分がいらねぇって言ってるもんを、親分がもらうわけにはいかねぇからな」
怒鳴る善逸とむくれる伊之助に、炭治郎もとうとう苦笑いしてしまいました。わかったわかったと笑えば、善逸と伊之助はやったぁと大喜びです。
「禰豆子はなにをもらうんだ?」
「私は……まだ内緒」
クフンと笑う禰豆子の、なぜだかちょっぴり大人びて見える顔を、炭治郎はきょとんと見つめていました。
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作品名:手袋を買いに行ったら家族が増えました 作家名:オバ/OBA