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大好きのチョコ

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 なんだかドキドキする。改めてよく見れば、義勇はとってもかわいらしい顔をした子だった。紺のコートに映える白い肌と、長いまつ毛に縁取られた大きな青い目。ツヤツヤした口はちょっと小さくて、ほっぺはふわんと丸い。もしかしたらクラスの女の子たちよりもかわいいかもしれない。なぜだか笑顔がキラキラと光っているように見える。義勇の笑顔は、アーケードに飾られているピンクや赤のバルーンみたいにピカピカだ。寒さで赤く染まったほっぺのせいだろうか。
 少し照れくさくなって、杏寿郎は、義勇の手を握ったままちょっとぎくしゃくとしつつ歩きだした。義勇は素直についてくる。杏寿郎の手を離そうとはしない。それがなんだかたまらなくうれしい。
 さっきのドキドキはなんだったんだろう。少し不思議だけれども妙な緊張はすぐに消えた。それよりもうれしい気持ちのほうがずっと大きくなって、杏寿郎はまた義勇に話しかけた。もっと義勇のことが知りたいと思ったし、もっともっと仲良くなれたらきっととても楽しいだろう。

「義勇はここへ来るのは初めてなのか? 学校では逢ったことがないな。駅の向こうにも大きな学校があるが、そっちに通っているのか?」

 それならちょっと遠いけれども、休みの日には一緒に遊べるかもしれない。杏寿郎はもう自転車にだって乗れる。義勇が遊びに来るのが大変なら、自分が義勇の家まで行ってもいい。
 ワクワクとして聞いた杏寿郎に、義勇は小さく首を振った。
「ううん。電車に乗ってきた。でも、駅の向こうのおっきな学校には、錆兎が通ってるよ」
「え? 義勇の家は電車に乗らなくちゃいけないのか?」
「うん。父さんが、この近くにある病院で働いてるんだ。それでね、そこに伯父さんが入院したから、お姉ちゃんと電車でお見舞いに来たんだ。お姉ちゃんはもうひとりでも電車に乗れるから。そしたら、伯母さんにお買い物してきてって頼まれたから、錆兎とお姉ちゃんと一緒に来た」
 義勇の言葉に杏寿郎は思わず眉を下げた。それじゃ友だちになっても遊ぶのはむずかしい。
 きっと義勇の家は、杏寿郎がひとりで行けるところよりも、ずっと遠いのだ。杏寿郎はまだひとりで電車に乗ったことがない。仲良くなって一緒に遊びたくても、すぐに逢えるわけじゃないだろう。
 思った瞬間、なんだか胸がキュッと痛くなって、杏寿郎はちょっぴりうつむきたくなった。けれども、どうしたの? と言うように義勇が小首をかしげるのを見てしまえば、遠くに住んでるのが寂しいなんてわがままを言って、困らせるわけにもいかない。
 悲しい気持ちを振り払うように、杏寿郎は精一杯元気に笑ってみせた。
「そうか。俺の母上も今日は病院に行っているぞっ。もしかしたら義勇の伯父上と同じ病院かもしれないな!」
「お母さん、病気なの……?」
 義勇の顔がたちまち曇った。きっととてもやさしい子なのだろう。心配そうに見つめてくる義勇の瞳は、澄んだ瑠璃色をしている。去年父と母と行った海みたいな目だ。
 その目を見ていると、悲しい気持ちは潮が引くみたいにすうっと晴れていって、杏寿郎はなんだかうれしくなってきた。

 海の色をした目の義勇は、澄んだ瞳そのままに、きっときれいでやさしい心の持ち主に違いない。毎日のように遊べるほど、近くに住んでいるわけではなくとも、仲良くなれたらどんなに楽しいことだろう。

「いや、弟ができるのだ! 病院にはお腹にいる弟が元気でいるか、お医者さんに診てもらいに行っている」
「そうなの? いいなぁ。俺も弟がいたらいいのに」
「なら、七夕になったらまたこの商店街に来るといい! 俺もここに来たのは去年の七夕だったのだが、ここで短冊に弟がほしいですと書いたら、本当に弟ができた。だからきっと、義勇のお願いも叶えてもらえると思う!」
「すごいっ。七夕のお願い、織姫さまたちちゃんと叶えてくれたんだね」
「うむ! だから俺もここまで来たのだ。チョコを買ってきた!」
 杏寿郎が胸を張って言うと、義勇はまたキョトンと首をかしげた。
「チョコ? 杏寿郎はチョコを買いに来たの?」
 義勇の疑問ももっともだ。チョコはどこでだって買える。でも、今年のチョコはどうしても、ここで買いたかった。
「バレンタインが近いからな。父上と母上と、お腹のなかの弟にあげるのだ! いつもは近くのスーパーで買い物をするんだが、ここで買ったチョコのほうがきっと弟も喜ぶと思う!」
 だって弟は、ここでお願いをしたから来てくれることになったのだ。きっとスーパーやコンビニのチョコよりも喜んでくれるだろう。そう思ったから、母にも内緒でここまで来た。
 義勇もきっと、俺もそう思うと笑ってくれると、杏寿郎は思ったし、それを疑いもしなかった。けれども義勇は、ますます不思議そうな顔をしている。ちょっぴり拍子抜けした気分だ。
 もしかして、どこで買っても同じなのにとでも思われたんだろうか。わかってもらえなかったかと、ちょっと悲しくなった杏寿郎だったが、義勇の疑問は杏寿郎が想像したものとは違っていたらしい。

「バレンタインは女の子が男の子にチョコをあげるんじゃないの? お姉ちゃんやお母さんは、男の子にチョコをあげる日だからって言ってた。それで俺にもチョコをくれたんだよ?」
「そうなのか? だが、母上や姉上が義勇のことを好きなのも間違いじゃないだろう? 大好きのチョコだ! だったら男から女の子にあげても同じだと思う!」
「そっか。そうだね。じゃあ俺も、お姉ちゃんたちにチョコあげることにする。教えてくれてありがとう。きっと弟も、杏寿郎がここでチョコを買ってくれてうれしいと思ってくれるね」

 にっこりと笑う義勇の顔は、花のようにかわいらしい。なんだか杏寿郎の胸はまたドキドキとして、顔が熱くなってくる。
「そ、それよりも義勇の伯父上は大丈夫だったのか? ご病気なのだろうか」
「病気じゃないよ。ドジったって笑ってた。あのね、錆兎のお父さんで俺の伯父さんなんだけど、雨漏り直そうとしたら梯子から落ちて、足の骨折っちゃったんだって。それで病院にお見舞いに行ったら、どうせなら一緒にお祝いしちゃおうって言われたんだ。だからお祝いのケーキとかジュースとか買いにきた。明日は俺の誕生日だから」
 なるほどとうなずこうとして、杏寿郎は、気づいたそれに目をパチリとまばたかせた。

 杏寿郎と同じ七歳の義勇は、明日、誕生日を迎える。ということは……。

「よもや! もしかして、義勇は八歳になるのか!?」
「え? うん。杏寿郎もじゃないの? 二年生でしょ?」
「……俺は、五月になったら八歳だ。今は一年生だ」
 驚く杏寿郎に、義勇の頬が見る間に赤く染まった。恥ずかしそうにうつむいてしまうから、杏寿郎は、ちょっぴり焦る。
「そっか……そうだよね、クラスの子もみんなもう八歳だもん。杏寿郎が二年生だったら七歳じゃないよね。錆兎もまだ七歳だから間違えた……ごめん」
「気にすることはない! 俺も義勇は一年生だと思っていた。おあいこだ! 俺も間違えてすまなかった。ごめん、義勇」
作品名:大好きのチョコ 作家名:オバ/OBA