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今モ誰カガ教エテル

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 何かを、藤堂義巳がその幽霊に言うと、幽霊は急に驚愕したような反応を見せて、すぐに何処かへと走っていってしまった。
 藤堂義巳が私のところまで戻ってきた……。
「な?」
 綺麗な眉毛をちょっとだけ動かして、そいつはそう言った。
「幽霊なんて、見えないからイキがってられあるんだよ。見えちゃったら、自分が一番滑稽なんだから、あいつらは逃げたがる。元々、彼らは怖い対象じゃなくて、ただの死んでしまった人間なんだから」
 ただ、生きている人間にも色々といるように、気を付けなくてはならない幽霊も、中にはいるらしい。
 気をつけろとは、生きている人間と同じように、そんな幽霊に対しても、ちゃんとしっかりとしたモラルで扱え、という意味だった。
 でも、驚いたのは、不幸な死を迎えた人間ほど、幽霊にはなれないんだって話。聞いた話らしいのだけど、この世に未練や余韻を残すのは、常に前向きな欲求を持った人間なんだそうだ。深刻な事情や悩み、そして死を窶す都会の果てに死んでしまった深刻な人間は、この世にすがる間もなく、消えてしまうのだろうって。
 深刻な死の果てに怨念めいてくるのは、随分と後の事だから、その前に消えたい気持ちが強く働くと考えられているらしい。
 確かに、無念のうちに死んでいった自殺者達だって、消えてしまいたいから、死を選んだのだ。そんな深刻な状態で、色々とこの世に残る事を考えるのは、理屈が通らない気もする。あいつを呪いたい、と思えば、生きている間に何かをする。そうではなく、消えてしまいたい切望があるから、死んでしまったのだ。
 そんな深刻な人間は、幽霊になれないらしい。
 私は、幽霊に対する考えを、大きく変える必要があった。まだこの世で何かしている幽霊は、不幸だったのかもしれないけど、今は、幽霊という存在になって、新しい何かを見つけようと必死になっているのかもしれない。悪い、とそう決めつけていた事を、私は深く反省した。
「おおまたぁ?」
「そう、大股で、こうやって……、歩いてたの!」私はそれを大袈裟に、不気味に説明した。あれは怖かったなんてものじゃない。「フラフラぁ~ってしながら、ズン、ズン、って、すっごい大股で、道路の真ん中を歩いてたのっ」
「あっはっはっは」
 と、そいつは大笑いした。
「なにぃ?」私は、どうしてか、にやけてしまった。
「っはっは、はぁ~……。たぶん、遊んでたんだな」そいつは可笑しそうに、そう言った。「遊んでたって言うか……、家の中に誰もいない時、適当に行動する時あるでしょ? 幽霊は常に適当だよ。ずっと見えないんだから、ある意味では、楽しいんだろうな。長い時間の中で新しい楽しさを覚える奴らが多いんだよ、幽霊は本当に変わった奴らばっかりだから。幽霊同士は、お互いが見えないからさ、さっきみたいに、もうずっと昔に洋服を着る事をやめちゃった奴もいるし」
「え?」何からきけばいいのかわからない。「幽霊同士って、見えないの?」
「たぶんね。俺もばっちり霊感強いんだけどさ、どうも、そうみたいよ」軽くほっぺをかいた。ちょっと、可愛い仕草だった。「生前、俺達みたいに二十歳を迎えなかった奴らは、幽霊になっても一緒なんだろうな。二十歳になってる幽霊には、他の幽霊が見えるのかもしれないけど、見えたら、はは、そいつはたぶんまともにするだろうよ」
「そいつと神社に来たおかげで、私の幽霊事件はすぐに解決した。幽霊は、見える人間に憑りつくよりも、見えない人間をかわりばんこに相手してる確率の方が多いんだって。確かに、見える人間に、あんた、そんな事してて恥ずかしくないの? と言われれば、幽霊であっても、きっと傷ついてしまうのだろう。
 もちろん、悪戯(いたずら)好きの幽霊の話だけど。――そもそも、人に憑りつく幽霊とは、悪戯好きという、そういう存在らしいのだ。どんなに怨念めいていても、元は人間なのだという事を忘れなければ、幽霊は絶対に頭っから悪人にはされない。人に拘っているのは、出来心という事になる。だから、それを受ける人間の対応によって、それは怨念にもなり、不幸話にもなるのだ。そして、時にはただの悪戯にもなる。
 そいつの話が、要約と言っていいほど、必要なものなのだと実感した。
 気分も落ち着いて、私は、もうドキドキも最熱させている。
「定説っていうのは、二十歳になったら教えてもらえる。まあ、いちいち全部吸収する必要はないらしいから、それは考え方だよな」
 定説――。この世に存在している物事の、真実を捉えた方の考え方。それは、つまりあの錯覚の事を中心とした考え方だった。――なんでも、そんな事実を語っている本なんかも、普通に売られているらしい。そういったものは、つまり、私達と同じく、二十歳を迎えた人達が書いた本という事になる。
 そう、本当に、二十歳……。
「二十歳っていうのは、つまりは大人の仲間入り、て意味なんだ。他に名前を付ければいいのにね、ややこしいよ。そもそも、俺達みたいに、最初に真実の世界に目覚めた人は、もうずっと古い時代の人間なんだ。ミッシェル・フーコーって学者、知ってる?」
「ううん、知らない」
「考古学者か何かなんだけど、その人も、二十歳を迎えていたんじゃないかって、俺達側の人間には言われてるらしい。世界的に有名な考え方を発表した、代表的な学者なんだってさ。ようは、見えてる世界とは、もっと違う世界を見つめなさい、とか、同じものを見るにしても、今とは違う視点感覚から見てみろ、とか、そんな事を言っていたらしい。そうすると、世界には沢山色々と違う同じ物事があって、人間は反省を持ち続けられるんだって。ようは、進化していけるって事だな」
「ふ~ん」
「そんな事で言えば、世に名前を残してる天才学者こそ、実はみんな二十歳を迎えていたんじゃないかって、言われてる」
「エジソンもぉ?」
「エジソンって……、あれは哲学とは関係ないじゃないか」
「何だそれ」
「……。エジソンは違う」
 説明はどれも長かった。けど、私が一番驚いた話は、やはり幽霊の話だった。
 倫理だか原理だかは、別にどうでもいい。ただ、難しい学者さんの話の中にも、確かに驚かされたり、面白いものもあった。これは、私達じゃないと、確かにただの哲学的な論理に終わってしまうのだろう。哲学という言葉も、論理という言葉も、こいつの受け売りだけど。
「超越論的主観性。フサールという学者が説いた、現象学という論説だよ」
「現象学ぅ? 何それ」
「なんかね、人間の見ている世界っていうのは、全部が、俺達の主観によって集められた情報なんだって、確か、そんな話だったと思う」
「それってさぁ……、もしかして……、この、二十歳の世界の事?」
 そいつは頷いた。
「世界に存在する物事の全ては、情報らしい。情報を集めるのは、耳だと思うだろ? でも、耳だけでは、世界を感じる事は難しい。本当に情報を集めてるのは、人間の眼なんだ。
 眼で見るんだ。そこにある全てを、まずは眼で確認する。そして、それが神社だって事を、頭の中で纏め上げるらしい。屋根がどうなっているか、色がどうだとか、手を合わせる場所だとか、神様が居るとか。
作品名:今モ誰カガ教エテル 作家名:タンポポ