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今モ誰カガ教エテル

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 そして、今度は耳も活躍できる。最初から活躍してるけど、眼の役割は思ったよりも大きい。情報のイメージを一つの『神社』だと確立するには、眼で見た映像というものが一番役に立つんだ。だからね、視覚障がい者の人達は、そういう理由で、俺達には想像もつかない苦労をしているし、そして、素晴らしい頭脳を持っている事になる。想像ではなく、イメージを情報で確立し続ける事は、おそらく、眼が見える限りはどんな天才にもできないからな。
 眼で見て、耳で聞いた事を、つまりは頭の中で『神社』という一つの情報にするんだ。だから、俺達は本当の神社を知らない。いや……、違うな。だからこそ、神社という存在を詳しく説明できる。実際にさ、あんたはこの神社の中や、この神社が普段何をやっているのかとか、そんな事を確かめた事ってある?」
 そいつが神社を指差してきたので、私は慌ててそいつの顔から眼を逸らして、夢中で首を横に振った。
 くらくらする……。
「な? だから、本当は知らないんだよ。でも、神社っていう情報は、つまりそんな細かいものを集合させたイメージ体だから、絶対に説明できてしまう。もう俺達の頭の中には、『神社』という名前に、決まったイメージが結び付いてるんだ」
「は~ん……。な~るほど……」
 感心するしかなかった。説明されれば、それがよく理解できる。難しいと思っていた学者さんの話も、ちゃんと聞けば、意外にもわかりやすかった。
「そのフサールも、やっぱり二十歳になっている説がある。フサールはそれに拘っていた。それを学界で発表し、多くの学者達に強い影響を与えたんだってさ。ようは、二十歳の話に、よく似ているんだよ。
 人間のイメージが、この世の全てを創っている。フサールはそう言っている。俺達、個人個人の主観が、その世界を見せている。見ているのは自分で、自分が見ているものの正確な映像は、自分でしか計れない。テレビの映像を観てみんなで照らし合わせても、結局それを見ているのは自分の眼で、それを表現するのは、情報なんだ。
 赤い、と思っている物が、もしかしたら、隣の人には青く見えているかもしれない。そうであれば、赤を夕焼けの色だと説明しても、隣の人には夕焼けも『赤い』という名前の青に見えているのだから、これはもう、同じ形をした情報の、いたちごっこにしかならない。
 面白く話し過ぎたけど、俺も全く同じ説明を受けたんだ。要は、こっちの世界でいう『二十歳』を迎えると、その『赤』か『青』か、真実のわからない世界を、精確に見れるようになるっていう話なんだ。だから、嘘か本当かの区別が、確実に、そして、俺達だけができる。
 ちなみに、赤は実際にもちゃんと赤い。この世の全てはそのままだ。幽霊の話だって、この世ではちゃんと『想像』の段階でしか取り扱われていない。もちろん、それは俺達だって、幽霊が存在する、という事しか知らないで、後は想像だけで取り扱ってるだけなんだろうし、何も変化って変化はないんだ。世界はいたって、前と変わらない、退屈な世界のまんまだよ」

       10

 神社を出て、そのまま、私達はラインを教え合って、別れた。
 夕焼けがすぐに夜になってしまったので、凄く時間を気にしたけど、スマートフォンで時間を確認してみると、たった二時間しか経っていなかった。
 あいつは、これからバンドの合同練習があるとかで、隣の街に行くらしい。そこで待ち合わせしている他の学校の友達は、二十歳じゃないとの事だった。
 本当に、別に何も変わらないみたいだった。今日の時間で、本当に、私はそれを理解する事ができたのだろう。
 不思議な事はあるものだ。この世は不思議の塊だと、昔漫画本に書いてあったけど、本当にその通りだった。
 脳の何%かで、私達はいつも行動してる。それは複雑な作業なのだ。どれぐらい複雑かというと……、実は、その頭の中に、全ての世界が存在している、それが論理的だか倫理的だかでいう本当で、つまりはそれぐらい、いちいち複雑に行動しているんだって言っていた。
 あいつが初めてE組の教室に来た時、みんなはそんな複雑な行動をしていたらしい。授業を受けている、誰に、授業を進めている、誰が、教わっている、誰に、教えている、誰が、ノートを取る、誰が、誰の為に、黒板を見る、黒板に書く、誰が、誰に。話をする、聞く。授業の内容を考える。――などなど、簡単に幾つか表したそれらが中心的な意識だとして、他に考えられない程の意識が一緒にあるのが普通なんだって。――お腹が減った。教室の中には、いっぱい生徒が居て、そこに自分も居る。この後の行動、時間。ここは学校、今は退屈な授業中。疲れた、眠い。わかった、わからない。言えば一日が終わると、あいつは言っていた。それが、普通なんだって。
 その複雑な中で、あいつは教室に入って来た。なんでも、最初は注目を浴びたらしい。だけど、あいつは気にしないで、半年前に教えられた通りに、無視して、私に歩み寄ったらしい。――すぐに、教室の中は元に戻ったって、言っていた。説明では、みんなあいつが教室内に居る事を、頭のどこかではちゃんとずっと理解していたんだって。でも、二十歳になれる瞬間を迎えた人の主観の中にいる人達は、誰かが強く、気にしない、自然だよ、という情報を教えると、不思議とその情報を受け取るらしい。普通はもっと大変になるから、人がいない場所でそれを伝えるみたいなんだけど、家にいたら、私に対するイメージを、もう強く、どうしようもないくらいに強く感じたらしいの。だから、そのまま言われた通りに、イメージが伝える通りにそのまま学校に向かったんだって。私が眠っていた事も、何かそれに大きく関係しているみたい。
 この世界は、全ての生物の、こうなんだ、という強い思いに創られている。もちろん、それは物体としてそこに存在しているけど、二十歳を迎えるまでは、『こうであってほしい』もしくは、すでに『こうなんだ』という情報なんかで、よく見る映像に『尾ひれ』が付いてしまうらしい。そういう強い思いで、世界は創られているのだそうだ。
 二十歳を間近にすると、その人の身体がピッカピカに光る。これは表現で言われたけど、ようはそんな感じがするのだそうだ。しかも、その光を受け取れるのは、二十歳を迎えてから、約一年以内に留まっている人間だけらしい。それを過ぎてしまうと、二十一歳になった人達は、その二十歳になれる人達が放っている感覚が、もうわからなくなってしまうんだって。
 一生気付かれないまま、そのまま生涯を終える人もいると言っていた。これは本当に、偶然で迎える事のできる、本物の精神年齢で、発見してしまった人は、人間の使命として絶対にそれを伝えてあげる事が約束なのだそうだ。
 そんな説明を受けなければ、確かに、一生あの疑心暗鬼に憑りつかれたままだった。運が悪ければ、精神病院で意味のない治療を受ける羽目にもなる。

「俺が教室に入っていった時、教室の奴らは、事実上、奇跡の瞬間を垣間見てたんだ」

 そうあいつが言っていた。
作品名:今モ誰カガ教エテル 作家名:タンポポ