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今モ誰カガ教エテル

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 そいつはその時、そう言ってある方向を指差した。
 それは人んちの庭に植えてある、ただの木だった。
 でも、すぐには気を指差しているとは気付けなかった。
「え? どれぇ?」
「あの木」
 そこで、その木だとわかったの。
 でも、それがどうしたのか、全くわからない。
「木がどうしたの?」
「見てて……」
 何でそいつとそこでしゃべってるのか、よくわからないんだけど、その時は、あれが夢じゃなかったって、そっちの方で必死だったの。
 だから、私は何を考える事もなく、流されるように、その木を見た。
 突然、そいつが耳元で囁いてきたの……。
「葉っぱが、少しずつ、消えていくよ……。すごい、見て」
「え?」
 葉っぱなんて、消えない。
 でもそれより、私は肩を上げて恥ずかしがっていた。
「眼を逸らしちゃ駄目だよ、絶対、こんな木は、めったにないんだから……」
「え?」
 私はずっとその木を眺めていた。
「ほら……」
「……あぁ」
 信じられなかった……。
 その木から、緑色の葉っぱが、どんどん、見えなくなっていったの……。
「え!」
「ね?」
「なんでっ!」
 私は改めて、眼を凝らしてその不可思議な木を見つめた。
 でも、もう葉っぱは消えなかった。消えたまま、後は残った葉っぱが、そのままになっている。
「えっ?」
 私はもう一度、そいつの顔を見た。
 そしたら……。
「おめでとう」
「え?」
「あんたは、これで完全な二十歳。もう、普通の生活ができるよ」
「えぇっ?」
 さすがに、もうハンサムな顔は気にならなかった。ちょっとタイプってのも、あんまり気にならない。
 気になるのは、もう完全に、どうして私の疑心暗鬼を知っていたのかという、それだけだった。
「二十歳ぃ?」
「うん。まだ説明もしてないけど、俺も前に同じ事をまず言われたから」
「え……、あの、意味が……」
 私が取り乱そうとすると、そいつは本当に困った……というか、嫌そうな顔で、すぐに私よりも真剣になる。
「これには時間がかかるんだよ。ここで説明された事で、別にどうなるってわけでもないんだ。もうあんたは二十歳になったんだから……、だから、今は少しずつ、こっちの言う事を信じて、聞いてほしい」
 パニックより猛烈な、というか、表現のしようがない。そこまで取り乱してはいないから、パニックではなかった。けど、私は話にあまり集中できない。
 私はうしろを振り返って、またさっきのあの木を見ていた。
「ん……、あれぇ?」
 さっきの木は、もう元通りの形に戻っていた。消えた分の葉っぱも、またそこにくっ付いているの。
 思ったよりも複雑な気分は、そんな変な事とかが関係してる。
 眼の前に居る、そいつでさえ、私には誰だかわからないんだ。
 でもまずそれを聞けない事が、パニックよりも深刻という事なのだろう。
「葉っぱが……」
 手を小さくこっちに向けて、私に、しゃべるな、とか、まあ待て、とかの合図。
「全ての事に対して、大抵は疑いをもっただろう? 俺もはじめ疑いをもったんだ。これが、俺とあんたの始まりだった。まだ未成年だったんだ。そうやって、まずは理解して」
 私は黙ったままでしゃべらない。話もよくわからない。
「でも、……あ、話し方を変えてもいいですか?」
 わけが分からないから、私はとりあえず頷いた。
「眼に見えてる世界ってあるでしょう? 現実っていうのかな……、眼に見えてる世界。えっとぉ……、例えば、俺とか、この、地面とか、向こうの壁とかさ」
 私は愛想の頷きをする。そりゃ現実はあるさ、とか、その時は考えていた。
「それは本当なんだけど、実はね、簡単に言うと、現実には…嘘がある。誤りだな。いや、この場合は現実じゃなくて、見えてる世界って言った方がわかりやすいか」
 私の前で、真剣にそんな話をする、謎の存在。別名ハンサムな人。私は意味も分からず、ただ怖い、という不安を隠しながら、必死に救われようとそいつに耳を傾けていた。
「現実はずっと眼の前にあった。難しい話をしても、絶対に、逆に理解しがたいと思うから、簡単に話すから。
 この世界中にある、見えるもの。つまり現実は、本物だ。でも、その中には嘘が隠れてる。嘘っていうのが、例えば、さっきの木。あれは、葉っぱが消えた後の方が、本当の姿だった。でも、葉っぱの数は元々、全然多く見えていた。たぶん、世界中の未成年にはそう見えている。けどね、二十歳になった人には、あの木はちゃんと二つの姿に映るんだ。意識して見ると、本当の姿がわかる。意識なんて普通はしないけど、たまには、意識しなくても、本当の姿が見えてしまう事もある。
 でも混乱とか、全然、全くいらないから。本当に大したことじゃないから。
 もっと説明すると、カッコイイタレントが百人いるとするでしょう? その中の九十人は、そのまま、本当にカッコイイ。でも残りの十人は、それほどじゃないんだ。本当はそこそこ程度。でも現実ではカッコイイ人に見える。つまり世界中の九十%を埋め尽くしている未成年には、その嘘が本当になっているんだ。」
 詳しい納得がほしければ、人の期待がそうさせる。て、考えればいい。証明してくれる人間がこの世界にはいないから、事実はよくわからないけど、俺はそう教えてもらった。
 さっきの木は、水を与えてもらっている誰かに、そういう期待を貰って生きてる。そうやって存在している。そういう、存在なんだ。だから、本当は葉っぱの数も決まっているのに、数が増えて見える。
 今見えている、いや、今まで見えていた景色の中には、こういった本当ではない情報が、ちょっとずつ隠れていたんだ。でも、それだけ。別に事実を知ったからといって、これから何の支障もなく生きていける。
 それを知れたのが、あんただったわけです。わかった?」
 私は思いっきり、首を横に振り回した……。軽い脳震盪にくらっくらしながら、また、私は頭を振り回す。
「あぁ~……、頼むから、興奮しないでくれる?」
 言葉を振り切って、頭をぶんぶん振り回す。
 少しだけ、横によろけた。
 馬鹿にしてるよ……。てその時は考えた。
「落ち着いた?」
「あなた、誰なの?」
 この質問をした時、凄く、何だか胸が気持ち悪かった……。頭を振り回したから。
「誰でも……、いいだろ」
「よくないよっ! 勝手に授業中ひとの教室に入って来てぇ!」
「……誰も気付いてなかったって」
 口の先を尖らして、そいつは言った。少しだけ、それを人間っぽいと思えた。
 でも、人間だったら、少し話は可笑しくなる。人間が教室に私服で立っていれば、誰でも気付けるからだ。
 でも、人間じゃなければ、話にならない。ようはもっと話は可笑しくなる。
「誰なのか、名前ぐらいちゃんと言いなさいよぉ。私が誰だか知ってて、つきまとってんのぉ?」
 そいつは、ぞっとするような眼で、私を冷たく睨んだ。
「何よぉ……、だってそうじゃない。勝手に家の近くまで追いかけて来て……」
「ほっといたら、あんた、ずっと世界を疑ったままだよ? それで可笑しくなって、自殺した人だって沢山いるってさ」
「はあ?」
作品名:今モ誰カガ教エテル 作家名:タンポポ