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忘れないをポケットに。

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「私ドライフルーツ」真佑は明香を見つめる。「くろみんは? 何飲んでるの?」
「コーヒー」明香は笑窪を作って、グラスを顔まで持ち上げた。「アイスコーヒー」
「柚菜コーヒー飲めなーい」柚菜は誰にでもなく呟いた。
 なんとなく横目で駅前木葉の白目顔を一瞥した宮間兎亜は、叫ぶ。
「いやああーー!」
「どうしゅましゅた!」駅前は邪悪な妖怪のような顔で兎亜の肩に手をやった。「どうしましゅた?」
「いやあーー!」兎亜は泣きべそをかく。「顔っ、顔がっ、怖いんですけどーー!」
 御輿咲希は、息を呑んで、なんならすぐにでも逃げ出せるように、体勢を整えている。
 乃木坂46達は毎度のことに笑っていた。
「あ、安心して下さい! とって食べたりしませんから!」駅前は修羅のような顔つきで兎亜に言った。「落ち着いて!」
「ちょと一回放してっ!」兎亜は駅前の腕を振り払った。「なに、その顔芸は……きいてないわよ」
「ええ、きいていませんですわね」咲希も恐る恐る勇気を出して言った。「悪魔でついているの?」
「ああ、落ち着きました……」駅前は、清楚だが、疲れた表情を浮かべる。「私の、個性ですね。これは。はい笑止! くっくっく笑~止!」
 御輿咲希は、顔面を硬直させて怯えている。宮間兎亜は少し、面白くなってきていた。
 風秋夕はランニング・マシンから降りると、タオルで頬の汗をぬぐいながら、ランニング・マシンからスポーツ・ドリンクを手に取った。
「何よ……」飛鳥は走りながら、眼の前に立った夕に言う。
「休憩時間」夕はにっこりと笑って、飛鳥を見つめる。「何時間でも見てたい……」
「終わったなら向こう行きなさいよ」飛鳥は息を弾ませながら、座視で言った。
「恋をしたらいけませんか」夕は飛鳥に微笑む。
「いけません」
「ねえ夕君ちょっと」真夏は焦って夕に言う。「そっちでダーリンが流血してんだけどっ」
「ほっとこうよ」夕は上品に、真夏に微笑んだ。
「ほっとくのう!」真夏は驚愕する。「ほっといていいのう?」
「ほっとこう?」夕はうん、と頷いた。「ねー、飛鳥ちゃん」
「暇なら飲み物取って来い」飛鳥は走りながらつん、と言った。
「はいただいま」夕は上品に会釈する。「何をお望みですか?」
「いやテーブルんとこに、私のバッグがあるから。そこに置いてある」飛鳥は眼線をそちらへと向けてうながした。「さっき作ってもらったプロテイン」
「あ、夕君私のも持ってきて」真夏は走りながら、笑顔で夕に言った。
「もちろんですとも、お姫様」夕はにっこりと微笑む。「まなったんのも、テーブル?」
 秋元真夏は無垢に頷いた。
「麦ちゃんずだから、サプリに小麦でも入ってんのかな?」夕は面白がって真夏を見つめた。「それとも、abbbb(エビ―)だから海老でも入ってるかな?」
「何でそれ、知ってるの?」真夏は眼をむいて驚く。
「B4(ビーフォー)だから変なものは摂取しないか。美容によくないもんね」夕は悪戯にはにかむ。「ところで、今日はYMS03にはラインしたの?」
「なに、なんの話?」飛鳥は真夏を一瞥する。
「あの、私のね、仲良い友達とのグループ名なの、全部」真夏は息を切らせながら苦笑した。
「今日は指輪、してませんねお姫様……」夕は無邪気に微笑んだ。「エンドレスラブなのに」

       10

 二千二十二年三月二十日。今宵の〈リリィ・アース〉地下二階のエントランスフロアの
東側のラウンジには、齋藤飛鳥と北野日奈子が訪れていた。乃木坂46ファン同盟からは風秋夕と稲見瓶と磯野波平と天野川雅樂と宮間兎亜と御輿咲希の六人が参加していた。
 乃木坂46の現役メンバーである齋藤飛鳥と北野日奈子は私服姿であるが、乃木坂46ファン同盟の六人は掟通り、はるやまのスーツを着用していた。
「あっしゅんとも何だかんだ言って、もう長いね」日奈子は飛鳥にはにかんで言った。
「急になに?」飛鳥は不意を突かれて驚いた仕草を取った。「なんですか……」
「きいちゃんと飛鳥ちゃんって、なんか正反対の感じすっけどな」磯野はフライドポテトをかじりながら二人に言った。
「陰と陽な」夕は面白がって言った。
「誰が陰なんだよ」飛鳥は夕を睨む。
「えへ」夕は苦笑した。
「陽気だからぁ、きいちゃんは確かに陽の雰囲気っすね」天野川はフライドポテトを食べながら、夕に言った。
「誰が陰気だって?」飛鳥は天野川を一瞥する。
「あいや……」天野川はふと見た飛鳥から、瞬間的に視線を外していた。
「なーがいあーいーだー、まーたせてごーめんんー…てあるじゃん?」夕は皆に言う。「キロロの長い間。あの歌とかが当てはまっちゃうと、もうなんか本物の関係だよな」
「何で急にキロロ?」稲見は夕に言った。
「この前、駅前さんがピアノ弾いて歌ってたんだよ、地下三階のライブ・フロアでさ…、こっそり聴いてて」夕は微笑む。「ぽわ~ってさ、きいちゃんと飛鳥ちゃんが浮かんできたんだよ……。特に二番は、きいちゃんが飛鳥ちゃんに歌ってる感じの歌詞なんだよな」
「ほお……」日奈子は大袈裟にリアクションする。
「二人を感じるという事は、あの頃の二人だね?」稲見は夕に言った。
風秋夕は頷いた。「あなたのその言葉だけを信じて、今日まで待っていた私、とか。笑顔だけは忘れないように、あなたのそばにいたいから、とか。笑ってる、あなたのそばでは素直になれるの、とか。なんとなくあの頃の二人を彷彿(ほうふつ)とさせる歌詞なんだ」
「プリンシパル時代ね!」兎亜は半眼で閃(ひらめ)いたようにハスキーな声で言った。
「だって。あっしゅん!」日奈子はにやけて飛鳥を見つめた。
「え、はい……」飛鳥は短く返事を返す。
「もーう何でテンション低いの~?」日奈子はクッションを叩いた。
「あなたが高いだけですよ」飛鳥は日奈子を一瞥する。「私は別に、これが普通ですよ」
「ひーん怒られた……」日奈子は誰にでもなく視線をやって泣きそうに笑った。
「同時期に人気を博した曲で言うと、コッコさんの強く儚い者たち、があるね」稲見は眼鏡の位置を直しながら言った。「あれは、名曲だ」
「腰ふっちゃうやつな?」磯野は横目で稲見に言った。
「言い方!」夕は磯野をたしなめる。「レディ達の前だぞ」
「お下品ですわね、あなた」咲希は磯野を一瞥して言った。
「でもね、そこが深い。正直だ。理想を語ってない」稲見は夕に言った。「財宝とお姫様、両方は手に出来ないよ、絶対にね」
「なるほど。現実的だ」天野川は納得して、夕を見る。「で、どんな曲っすか?」
「だーけーどとーびうーおのーアーアーチーをーくぐうてー、たーからじまーにーつーいーたー、こーろーあーなたのおひーめさーまーはー、だーれかーとー、こーしーをーふーうーてー、るわー……」夕は歌った。「てやつなんだけど……。俺なら両方を手に入れたい、絶対にだ」
「夕なら、可能かもね」稲見は夕を一瞥して言う。「でも言ったのは一般論だ。無理に等しいよ、時間は有限だし、人の欲望も限りがあるからね」
「欲望って限りあんのか?」磯野は稲見を見る。「欲が尽きねえって言わねえ? 普通。じゃあどんだけあんだよ、欲望ってのは」
「百八つ」稲見は答えた。