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忘れないをポケットに。

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「熱すぎると言えば、きいちゃんの卒業ライブも熱かったね!」夕は日奈子を見つめて口元を引き上げた。「燃えた」
「感動がね、沸点を超えた。それでも蒸発する事無く、涙に変換されたね」稲見は深々と息を吸って、鼻から吐いた。「本当に、最高だった」
 磯野波平は落ち着きを取り戻して、無言でソファに着席した。
「今でも泣けてきちゃいますね~」来栖は弱い笑みを浮かべた。「ほんとに最後だったなんて、思いたくないけど。きいちゃんのステージはほーんとうに凄かったから、納得するしかないんだよね~」
「だって」飛鳥は日奈子を一瞥する。「どうなの?」
「ほんと……、思い出そうとすると、考えようとすると涙が出てきそうになって」日奈子は視線を特定せずに集中して言う。「別に我慢なんかしなくていいのに、喉がぎゅっとなって……。言葉にする事って本当に難しいなと、また実感してる」
「セトリも最高だったね」夕は緩やかな笑みで、日奈子に言った。
「乃木坂の楽曲はいつでも、寄り添っていてくれたなと」日奈子は皆をゆっくりと見回しながら、考えながら言う。「そんな楽曲と共に、言葉ではなくパフォーマンスで思いを届けられたこと……。そんな思いを受け取ってくれていた皆さんがいてくれた事。こんなに大事な事、どうしたら伝えられるんだろうなぁ…て」
「伝わってる」夕は日奈子に頷いた。
「伝わっていますとも」咲希は上品に微笑んだ。
「伝わったわ~ん」兎亜は半眼ではにかんだ。
「身体の~、隅々までね! 伝わったよきいちゃん!」来栖は無垢に微笑んだ。
「うん」稲見は日奈子に頷いてみせた。
「最っ高だっただろうが!」磯野は片方の口元を引き上げて笑った。
「ありがと~……」
北野日奈子は大きな瞳を潤ませて、気丈に微笑んだ。

       12

 二千二十二年四月二十日。今宵猫舌ショールーム【のぎおび】にゃんばー1は、乃木坂46の二期生、北野日奈子の最後の配信となっていた。
 地下六階の〈映写室〉に集まった乃木坂46ファン同盟の十人は、それぞれがそれぞれの期待と思いを込めて、その巨大スクリーンを見守っていた。

『こんばんはー。ええ、今日~は、え~ひな北野日奈子ちゃんが一人で、え~やる、予定でしたが、急遽、僕たち、三人でやる事になりました~。お願いしまーす……。ふふ、はぁ~い、こんばんは』

 北野日奈子は、黄色い小熊のぬいぐるみを三匹抱きかかえながら、この生配信をスタートさせた。

「いやいやいや、可愛いな」夕はにやける。
「きいちゃんらしいと言えばきいちゃんらしい」稲見は眼鏡の位置を直した。
「卒業回だよなあ?」磯野は嬉しそうに笑う。「あっかりぃなあ?」
「きいちゃん最後の猫舌か」天野川は囁いた。
「考えたくないね~」来栖は苦笑した。
「二時間、突っ立ったままか?」磯野は天野川に言った。
「るせえ」天野川は、着席した。
「みり愛ちゃんとのモグだー、だな」夕は口元を引き上げた。
「宇宙兄弟……」稲見は呟いた。
「きいちゃってチーズ好きなの知っていました?」駅前はあたるにきく。
「いや、知っていたでござる」あたるは頷いた。「カルボナーラをよく食べていたでござるし」
「バスクチーズケーキ、この後食べましょ?」咲希は兎亜に言った。
「ここって無料なのよねえ?」兎亜は囁く。「何食べてもかしら?」
「放送禁止用語がわからないきいちゃん、どう?」来栖は天野川に言う。「可愛すぎない?」
「オブラート、グミにたまーにくっ付いてますわね」咲希は囁いた。
「バスクチーズケーキからずいぶんと話を広げるわね、きいちゃん。腕があるわー」兎亜はにんまりと微笑んだ。
「美味しそうだね」稲見は囁いた。
「チーズケーキ苦手」夕は苦笑する。
「贅沢の表現が可愛い。クリームパンのクリームだけを食べてるよう、か」稲見は微笑んだ。
「レモンって匂いするっけか?」磯野は誰にでもなくきく。
「する、だろ?」夕は答えかねる。「忘れた」
「あーメイプルシロップ大好きー!」来栖は巨大スクリーンの北野日奈子に微笑んだ。
「好きなチーズ料理の投票?」磯野は呟いた。
「1、チーズケーキ、2、チーズドリア、3、カルボナーラ、4、ピッツァ。この四択で好きな食べ物だってみんな、投票しよ~!」来栖は笑顔でスマートフォンを取り出した。
 風秋夕達は投票を完了させた。
「俺はカルボナーラが好きだ」稲見は呟いた。
「絶対チーズドリア!」来栖は元気よく言った。
「ピザだな」夕は囁く。
「きいちゃんの父ちゃんがカルボナーラすげえうめーんだってよ! 食いてえな?」磯野は誰にでもなく言った。
「あー、きいちゃんはカルボナーラが好きなんだー。へー」来栖は納得する。「メロンソーダが好きなんだ?」
「牛乳が好きなのは知ってたけど……」稲見は囁く。「こんなに、卒業間近まで知らない事だらけとは……」
「髪伸びたよなあ?」磯野は言った。
「早いでござるなあ、髪の毛が伸びるの」あたるは巨大スクリーンに釘付けで言った。
「お、もぐもぐタイム終わった」夕は呟く。
「次は手作りキャンドルか」稲見は微笑んだ。「女の人は、なぜキャンドルが好きなんだろう。照明じゃダメなのかな」
「わかってないなー」夕はくすっと笑った。
「表情ねえなー」磯野はげすっと笑った。
「空気の色の時に、そういえばスエーデン行ったなぁ」夕は微笑んだ。「その時もキャンドルを……。ほんとに好きなんだな」
「きいちゃん、可愛いでござるよ……」あたるは囁いた。
「おま、こええよ」磯野は鼻を鳴らす。
「ドライフラワー好きですよ」駅前は言った。
「ピンセット、つうとあれだな、ガンプラ思い出すな」磯野は囁いた。
「きいちゃん、観てるだけで癒されますわ……」咲希はうっとりと呟いた。
「そうね~。ほんと可愛いわよね~」兎亜も見とれる。
「……」比鐘は北野日奈子を見つめたままで黙っている。
「絢音ちゃんも器用じゃないんだ?」夕は驚いた顔をする。「器用っぽいけどな」
「深いね」稲見は呟いた。
「きいちゃんってほーんとムードメイカーだよねー」来栖はうっとりとする。「だーい好き!」
「おめえだけのもんじゃねえからな、言っとくけどよ」天野川は来栖を一瞥して言った。
「そう! 僕のものさ!」磯野は輝かしい眼で、片手を高くかかげて言った。「僕の、ものさー!」
「馬鹿が」天野川は吐いて捨てる。
「でもきいちゃんと磯野さんって、なんか親友みたいだよねー」来栖は羨ましそうに呟いた。
「俺達はファン、いわゆる一つの、彼女達の味方だ」夕は来栖に言う。「友達にもなれるし、恋人にもなれる。こっち的にはな」
「小生の心の恋人になって下され~!」あたるはそう言った後で、笑う。「小生などがっ、恋人などとっ、草っ!」
「ジェル出した時にさ、すぐに匂いかいだじゃんか?」磯野は得意げに言う。「女子って匂いかぐよな? 一度俺様の匂いかいじゃった日にゃあ、もう」
「うるせえ」夕は言った。「焦げ臭いって、きいちゃん火傷しないでくれよ」
「うるさいとは何だね君ぃ!」磯野はとりあえず憤怒する。
「きいちゃん、歌うか迷ってますって……。歌ってくれるかもしれないですわね」咲希は期待を膨らませる。