忘れないをポケットに。
北野日奈子のセンターで『不等号』が歌われる。感情的に表情を作るメンバー達。彼女達は複雑な歌詞を見事にパフォーマンスしてみせた。
北野日奈子のセンターで『風船は生きている』が明るい演出で弾むように歌われる。軽快なメロディと深みのある歌詞はまがいもなくアンダー楽曲の名曲の一つであり、ダンスも観ている者を圧倒する可愛さがあった。
続いて、重い旋律で『ブランコ』が始まった。センターは北野日奈子。この曲もまたアンダー楽曲で名曲であり、そのパフォーマンスも完璧であった。
乃木坂46のアンダーが歌う本物の『アンダー』が歌い始まった。言葉には表せないこの楽曲良さは、努力を怠らない全ての人々の心に届く素晴らしい魅力を持っている。
伊藤理々杏のMCでトークが行われる。ここでは北野日奈子との思い出や、どうしても伝えたい事を話してくれた。
黒見明香は先輩としての北野日奈子の温かさに感謝していると語ってくれた。
伊藤理々杏は出演する皆が主役だよと伝えてくれたと、嬉しそうに語ってくれた。
中村麗乃は、涙を堪えながら、「頑張り方がわからなかった時期に、日奈子さんがめちゃくちゃリハーサルとかいろんな場所で全力で頑張っている姿を見て、こうやって頑張ればいいんだっていうのを見せて下さったのが大きくて。それだけ大きな力を与えて下さった」と涙声で感謝を語ってくれた。
和田まあやは、乃木坂46の「努力、笑顔、感謝」の円陣で、今日北野日奈子が指揮してくれて、気づいた事があると。北野日奈子は、努力、笑顔、感謝、その全てを持っていると思った事を語ってくれた。続けて和田まあやは、「リハーサルで誰よりも大きな声で歌うし、今回も私達一人一人にありがとうのメッセージをくれたし、あの素敵な笑顔に救われるし。本当に凄いなって思うし、私もきいちゃんみたいになりたい。尊敬できるところが沢山ある」と北野日奈子に伝えた。
サンクエトワールの『君に贈る花がない』が歌われる。メンバーは北野日奈子、阪口珠美、佐藤楓、佐藤璃果、金川紗耶の五人ユニットであった。楽曲のラストに、北野日奈子はイリュージョンのように宝石の白いドット柄の花が縫い付けられたミニスカートのドレスに早変わりしてみせた。
風秋夕のその眼は、は北野日奈子を見つめて放さない。
どうしてこんなに悲しいんだと思う?
きいちゃん……。
それは、君を好きになったから。
多くの時間を君と共有したから。
よく見ていればわかる通り、俺は孤独が怖い。子供の頃、その昔、母親が帰らなかった夜があった。
その前の日に、母親は俺に『お母さんがいなくなっちゃったら、どうする?』ときいていた。俺は『別に』と答えていた。
母親が帰らなかった夜、猛烈に後悔をした。『絶対に一緒にいたい』とプライドを捨て、伝えるべきだったと、孤独を嫌った。
それから、俺は好きなものには好きという気持ちを隠さない習性ができた。
きいちゃんが乃木坂からいなくなる事を、孤独に近しい感情にも感じられる。
それは寂しいを越えて、孤独を覚えるほどに……。
好きを実感させる。
君があの日、乃木坂に選ばれて、無邪気な笑顔を浮かべながら、土足で俺の心に入って来てくれた分、君の足跡だけが残った心が痛すぎる。
君が無邪気に笑った分、その分だけ、数えきれないほどの、恋をした――。
白いキャンバスがあったら、俺は黄色い絵筆で、一凛のひまわりを描くだろう。
それがきいちゃんのイメージだ。
太陽に咲く花――。
もう花は、乃木坂には咲かない。
だから、ひまわりの咲く環境を、これからも見守り、そして新しくも作っていく。
乃木坂として、さようならだ、きいちゃん。
ありがとう。
絶対忘れないからね。
「きいちゃーーーーーん!」
風秋夕は、素直な涙を受け入れる。また何処かで、会える事を信じて。
『ゴルゴンゾーラ』が歌われる。メンバーは北野日奈子、吉田綾乃クリスティー、向井葉月の三人ユニットである。北野日奈子が白いミニスカートのドレス。吉田綾乃クリスティーがピンクのミニスカートのドレス。向井葉月が水色のミニスカートのドレス姿であった。
『大人への近道』が歌われる。メンバーは、北野日奈子、林瑠奈がWセンターの、矢久保美緒、伊藤理々杏の四人ユニットである。とてつもなくメンバー達を強く抱きしめたくなる一曲であった。
蒼い空間で『隙間』が歌われる。メンバーは北野日奈子、和田まあや、中村麗乃、北川悠理、松尾美佑、阪口珠美、黒見明香、七人ユニットであった。しっとりと魅せてくれた。
二期生楽曲の名曲『ゆっくりと咲く花』を、北野日奈子と山崎怜奈の二人デュエットで歌る。そして、やがてはアンダーの全員で二人を囲うように立ち、そして一列に並び立ち、これを歌いきった。
ありがとうございます――。
北野日奈子と山崎怜奈の二人でトークを始めた。
「きいちゃんみたいになりたい、て……。わかる気がするな」夕は微笑んだ。
「きいちゃんは、夏みたいか。れなちはうまい事を言うね」稲見は笑みを浮かべた。
「太陽だろうが! お~い、天野川~、お前らこっち来いよ~!」磯野は後ろ席の天野川と来栖を手招いた。
「あー? 何で?」天野川は呟く。「今感動してんのによ……」
「どこでもいいけど、どこにいても、泣いちゃうね~」来栖は頬の涙を手の平でふいた。
「きいちゃん殿……、小生、涙を耐えられぬでござる……」あたるは鼻水をすすり上げた。
「どこまで綺麗な人なのでしょう、きいちゃんって」咲希は巨大なスクリーンに映る北野日奈子に見とれて言った。
「可愛い歌声なのよね……」兎亜は涙をふいて、にかっと笑った。
「ああ、どうしようもなく、わがままを言いそうになりますね」駅前は、指先で涙の粒を払った。
「……」比鐘は巨大なスクリーンに映し出される北野日奈子を、黙ったままで強く見つめていた。
VTRが流れ始める……。北野日奈子は、VTRで同期の二期生に対して「同じ星のもとに生まれた同士だなって。ただの同期とか、友達とかじゃなくて、経験していく事で、他の人がすっと通れる道をどうしてもすっと通れない人達の集まりで。誰かが苦労している姿を見ると、他人事じゃなく、自分まで悲しくなったり苦しくなったりする事も多かったですし、でも、二期生のみんなが同期だったからこそ、ここまで続けてこれたし、九年間続けてやっと、乃木坂46の二期生でよかったって心から思える人生になったなって思います」と、彼女は過去を振り返った。
続けて、「どうしても披露しておきたい曲」として、唯一、二期生がセンターを務めたシングル表題曲『バレッタ』を選曲した。
「未央奈がセンターをやっていたので、未央奈が卒業してから夏のライブとかで選びづらくなった曲になってしまったのかなぁと。そこで、私が一回やった事によって後輩の子がセンターに立ってやってくれる機会が少しでも増えればいいなと思って」と思いの深さを吐露してくれた。
二千十三年十一月二十三日発売。二期生として忘れられない一曲。そう銘打たれた『バレッタ』が北野日奈子のセンターで紫色のライティングの中、開始された。衣装も紫色のドレスである。
作品名:忘れないをポケットに。 作家名:タンポポ