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忘れないをポケットに。

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 こんな私を、大切だと、好きだと言ってくれて、ありがとうございます――。
 この九年間だけで、ああ自分の人生は本当に凄く幸せだったなと言い切れます――。
 本当に九年間、ありがとうございました――。

『最初で最後のソロ曲です。聴いて下さい。忘れないといいな……』

 北野日奈子が、自身のソロ曲である『忘れないといいな』を歌う……。
 稲見瓶は、堪えきれずに、涙する……。
 ああ、そうか。この感情が湧くという事は、これが最後なんだね。
 乃木坂として、九年間、大切に見守ってきた時間に、ピリオドがやってきたのか。
 きいちゃんは、どう? 悲しいかな。未来が楽しみかな。少し、ほっとしているのかな。
 俺はそのどれも全部だよ。今は確かに悲しみしか見えていない。けど、未来はいつも素敵なものだった。
 きいちゃんが、幸せに笑う未来がほしい。
 そしたら、俺も一緒になって笑おう。
 俺はね、実は二期を少しだけひいきしていたんだ。
 縁の下の力持ち。乃木坂を陰で支えるその役回りが、あまりにも自分にそっくりだったから。
 きいちゃんは今、幸せですか。俺は今また、宝物の時間が増えました。
 このきいちゃんのくれた、温かい気持ちを。忘れないこの気持ちをポケットにしのばせて、また明日も生きていこうと思う。
 君が、大好きです。
 これまでも。
 これからも。
 忘れるはずがない。
 それは、全てだから。
 お疲れ様でした。きいちゃん。
 これが最後の言葉です。
 おめでとう。
「卒業、おめでとう、きいちゃん……。きいちゃーーん!」
 稲見瓶は、曇った眼鏡を気にもせずに、必死になってその名を叫んだ。また必ず来る明日を信じる子供の様に、永久の夢を見ながら――。

 彼女の過ごしてきたこの九年間は、決して平らなものではなかっただろう。しかし、彼女はいつの時も胸を張り続け、その坂道を上り続けてきた。
 彼女の歌声の一つ一つに、そんな歴史が詰まり、感動が溢れていた。
 誰もが北野日奈子の存在を、忘れはしないだろう。
 『君は僕と会わない方がよかったのかな』が北野日奈子のセンターで歌われる。次々に、メンバー達が、北野日奈子の両脇に立ち、別れを惜しむようにして、入れ替わっていく。
 間奏のなか、北野日奈子は乃木坂46に「危なっかしい後輩でしたが、頼りない先輩でしたが、仲良くしてくれてありがとうございました」と言葉を贈り、涙をふいた。そして、乃木坂46に深く頭を下げた。そして「みんなの事が大好きで、離れがたくてたまらないんだけど、私が大好きな乃木坂を、どうかよろしくお願いします――」と託した。
 紙吹雪が舞う……。
 北野日奈子以外のメンバー達は、ライブTシャツに紺のスカート姿であった。
 林瑠奈は、泣きながら、乃木坂46を好きになったきっかけが二期生であった事を語ってくれた。北野日奈子がもしいなかったのなら、私もここにいなかっただろうなと。今日一日、一緒にパフォーマンス出来て光栄であったと。これからもよろしくお願いしますと。
 阪口珠美は、泣きながら、このラストライブを、アンダーメンバーとやると決めてくれて、ありがとうございますと語ってくれた。本当に沢山沢山、近くにいたいと。本当は、卒業して欲しくないと、彼女は泣き崩れていた。
 和田まあやがマイクを継いで、MCを務めた。和田まあやは「太陽みたいな人って、きいちゃんの事だなって思ってて。私達をあったかく照らしてくれて。これからもずっといてほしいよ。
卒業して笑顔でいられるように、もっと自分の事を大切に、考えてほしい。甘やかしてね。きいちゃんは自分に凄く厳しいから」と心配すると、会場の北野日奈子の家族へ向けて、「きいちゃんのお母さんたち、聞いてますか? きいちゃんの事本当によろしけお願いします! ファンの皆さんもよろしくお願いします! 強がりなんです~」と深い愛情をせつに表現してみせてくれた。
 生地から作られたという漆黒のロングドレスには、北野日奈子の愛犬チップを思わせるような、犬の模様が形どられていた。
 最後に歌うのは、乃木坂46が歌う『乃木坂の詩』であった。

「本当に本当に大切な曲で、グループの最初から一緒に歩み続けている曲です」

 会場のサイリュウムは、壮大な紫一色になる――……。
 本日は本当に、ありがとうございました――。
 最後、「笑顔で歌いきろうと思って、それは出来たと思うので、120点です! 思い残す事はもうありませんと!」語った北野日奈子は、太陽のような、誰の記憶にも焼き付くような忘れられない笑顔であった。
 会場中のオーディエンスが、『ありがおー』と書かれ、愛犬チップの絵が描かれたプラカードを掲げていた。
北野日奈子は、会場を見つめ、「こんなにも沢山の方が会場に来て下さって、配信も沢山の人に見ていただけて……。九年間アイドルをしてきた上で、得た物が沢山あります。その大きな一つが、皆さんです。自分を大事に、大切な人を大事に、元気に楽しく過ごしてほしいです!」と呼びかけた。
そして、北野日奈子は「幸せな九年間でした。乃木坂46は十周年目を走っています。五期生が新たに加入して、みんな一生懸命乃木坂46になろうとしています。これからもどうか、乃木坂46の応援を、私の大好きな、大切な乃木坂46の事をどうか皆さん、よろしくお願いします。九年間本当にお世話になりました」と挨拶した。
 最後の時、手を繋いだ乃木坂46は、マイクを使わずに『本日は本当に、ありがとうございました!』と叫んだ……。
 鳴りやまぬ盛大な拍手の中、北野日奈子は迷いのない笑顔で、その栄光のステージを降りて行った。

 鳴りやまぬ拍手の中……。

 終焉を告げるアナウンスが流れ、規制退場の案内が続けられても、オーディエンスの拍手は一向に鳴りやまない……。
 北野日奈子が再登場すると、彼女は苦笑しながら「これは想定外でして、何て言っていいことやら……。皆さん、アナウンスに負けずにすごく大きな……。幸せすぎてどうしましょう」と感動した。
北野日奈子は改めて、「本当にこの九年間、沢山いろんな事があって、長い休業もあってどんなに心配をかけた事か……。どんなに皆さんの希望をかなえる事ができなかった事か、数えきれないと思いますが、最後のステージで確かに眼の前に、この九年間で自分の大事な物が沢山増えて、今こうやって眼の前にある事が幸せに思います」と思いの詰まった言葉を噛み締めた。

 北野日奈子は、幸せ過ぎた九年間であり、未熟であった時間であり、大事な物が沢山増えた九年間であったと、笑顔で語ってくれた。卒業後の事も「この先の事も一生懸命頑張っていきたいなと思います」と伝え、「何より本当に皆さんのやさしさや温かさの愛情をどうかこれからも乃木坂46に注いでくれたらなと思います」と、最後の最後まで、自身の事よりも乃木坂46への愛を呼び掛けた。
 北野日奈子は、盛大な拍手の中、会場に向けて大きく手を振る……。
 九年間、本当に、本当に、本当に、ありがとうございました――と、深く頭を下げた。