忘れないをポケットに。
「え、いやいや……」遥香はおどけて小さく首を横に振る。
「なんでやねぇん!」磯野は悲痛に叫んだ。
「うる、せえな……」飛鳥は苛つく。
「かっきー言ったじゃねえか! 私は波平ですって!」
「それは、だってお仕事ですもん……」遥香はその眼だけで磯野を睨む。「また変な事言ってたんでしょう……」
「かっきーに告られた、てさ」夕は座視で呟いた。
「も~う!」遥香は眼を細めて磯野を睨む。その可愛すぎる表情に、ファン同盟の三人は心の中で歓喜した。「やぁめて下さい」
「遥香ぁ?」磯野は弱々しく言う。「何で俺じゃダメなんだよ」
「じゃ北野さんが告白して来たらどうするの?」遥香は磯野を真っ直ぐに見つめて言った。
「結婚式は、来てくれよな」磯野は照れる。
「ほらあ」遥香は言った。「波平君誰でもいいんでしょうだって……。乃木坂だ、たら」
「波平君と、ひなこが結婚?」日奈子は笑い声を上げる。「なーいない、な~いから~」
「どうしてだよ日奈子ぉー!」磯野は悲劇に叫んだ。
「うっさいわ」飛鳥は溜息をつく。
「下の名前で呼ぶな、この筋肉野郎……」夕は磯野を鋭い眼つきで睨みつけた。「癇(かん)に障(さわ)るんだよ、てめえの冗談は」
「冗談に聞こえっか?」磯野は座視で夕を見つめた。
「気分を害する、と書いて、波平のたわごと、説く。その心は」稲見は低い声で言う。「どちらも害には違いない」
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「じゃ腕づくで勝負だこんにゃろう共!」磯野はソファを立ち上がる。
「あ、イーサン。イクラ丼……」遥香は横目で宙に言う。
「二対一だからな、ぶっ殺したる!」夕はソファから立ち上がる。
「ムエタイをマスターした俺には、波平を蹴り倒すぐらいたやすい」稲見はソファを立ち上がった。
「ムエタイ?」夕は稲見を一瞥する。
「うん。昨日試合を観た」稲見は無表情で答えた。
「一夜でマスターしたってかあ?」磯野は大笑いする。
「ちょっと埃たつから、向こうでやんなさいよ」飛鳥は表情を険しくして三人に言った。
「こーんな毎日だと、飽きないねえ? んひ」日奈子は三人を観察している。
脚本・執筆・原作・タンポポ
「意外と、そんなに激変はしないかもよ?」飛鳥は日奈子を一瞥して言った。「毎日なんて、飽きたって飽きなくたって、等しく、同じく、当たり前にやってくるんだから」
「乃木坂っていう看板も、一生ついてきますからね」遥香は日奈子と飛鳥に言った。「そういう意味で言ったら、一生みんな乃木坂なのかも……」
「深いじゃん……」飛鳥は鼻を鳴らして、笑った。
「あ!」日奈子は興奮する。
「ああ~イナッチ~っ!」夕は膝立ちをしたままで叫んだ。
「ぎ、ギブアップ」稲見は磯野に羽交い絞めにされて、白目をむいた。
「ほほほ、私の戦闘力は五十三万です。これはほんの力試しですよ~っほっほ!」磯野は稲見を雑に床に捨て、高笑いを上げた。「まさかザーボンさんとドドリアさんがはむかって来るとは思いませんでしたよ」
「誰がザーボンだ!」夕は膝立ちのままで吐き捨てる。
「ど、ドドリアは、嫌、だ……」稲見は眼を閉じた。
「イナ~~っチ!」
「があ~っはっは!」
「あ、イーサン、いいですか? フライドポテトも、下さい」
「案外、楽しいままなんじゃない? 卒業後の、これからの毎日なんて……」
「かもね! んっふ!」
二千二十二年四月三十日 完
エピローグ
ここはその日仕事を完了とした乃木坂46とそのOGが頻繁に出没する都会の絶対に見つけられない憩いの場、巨大地下建造物〈リリィ・アース〉。今宵もその地下二階の東側のラウンジには、乃木坂46とそのOGがいつもの場所と呼ばれるソファ・スペースで寛いでいるのであった。
齋藤飛鳥が着用しているパーカーはダイレマであった。生田絵梨花が着用しているルームウェアはピーチジョンである。堀未央奈が着用しているブラウスはアプワイザーリッシェである。鈴木絢音が着用しているパーカーはサラダボールである。山崎怜奈が着用しているパーカーはニューエラワークアウトである。
与田祐希が着用しているブランドは、フィフィラパンである。向井葉月が着用しているパーカーはポロ・ラルフローレンである。佐藤楓が着用しているTシャツはメリージェニーである。賀喜遥香が着用しているブランドは、イングである。柴田柚菜が着用しているTシャツはイーハイフンワールドギャラリーである。
そして、北野日奈子が着用しているロングスリーブTシャツは、ミルクフェドであった。
乃木坂46ファン同盟の風秋夕と稲見瓶と磯野波平と姫野あたると駅前木葉と来栖栗鼠と御輿咲希と宮間兎亜が着用しているのは、はるやまのスーツであった。
「あんた、何でもうパジャマ?」飛鳥は絵梨花を一瞥してそう言うと、吹き出して小さく鼻を鳴らした。「しかも可愛いし……」
「えだって、もうすぐ寝るんだもん」絵梨花は微妙な笑みで返した。
「泊まり?」飛鳥はきく。
「泊まる」絵梨花は素直に頷いた。「も、お腹いっぱいで、動けない」
「じゃあ、波平っちの寝込みに気を付けないとですね」怜奈はくすりと笑った。
「何で俺なんだよれなち……」磯野は不満そうに口の先を尖らせる。「いくちゃん大好きな野郎がここにはもっといっぱいいるんだぜ?」
「波平君しかありえないもん」怜奈は磯野を見つめ、短く苦笑した。
「うっわー。眼の前に未央奈ちゃんがいるよー」来栖は可愛らしくそう言って、今はにこりともしていない未央奈に微笑んだ。「未央奈ちゃんオーラある~」
「え?」未央奈はその美形を器用に笑わせた。「コーラある、て言いました?」
「ううん絶対言ってない」来栖はにっこりと微笑む。「オーラがあるって言っただけー」
堀未央奈は笑う。「疲れてんのかなー」
「えひなこもコーラあるって聞こえた」日奈子は眼を見開いて言った。
「言ってはないけど、コーラもあるよ」来栖は微笑む。
「与田ちゃん、写真集、三度目の重版おめでとう」夕は祐希を見つめて言った。
「あー、ああ、ありがと」祐希ははにかんだ。「かっきー、写真集凄い事になってるよね?」
「いや、なってません」遥香は首を振る。
「かっきーはね、新潮社から出るかっきーの写真集が、初版十六万部という前代未聞の数字を叩き出してる」稲見は遥香を一瞥した。「新潮社百二十六年の歴史的にも写真集として最多部数らしい」
「まっさらな!」磯野は嬉しそうに遥香を見つめた。「かっきーと最初に会った時の印象っつうか、イメージがそうだったな。まっさら、つうか、真っ白、つうかな」
「そのイメージが変わってないってのが凄いわよね~」兎亜は半眼でそう言ってから、飛鳥の事を見つめた。「セクシーさなんかが、これを機についてくるのよね~」
「きいちゃん、卒業ですわね、ついに」咲希は日奈子を見つめて囁いた。
作品名:忘れないをポケットに。 作家名:タンポポ