甘求者
「頼みますからこんなところで変な気起こさないでくださいよ…?」
何やら危ない雰囲気になりつつある空間をどうしたものかと左近は思考を巡らせるが、宗矩は聞く耳を持たない。
「島殿はこっちはマメな方だと思ってたけど、案外サボってたのかなァ」
「…大きな、お世話ですよ」
「だってほら、こんなむさ苦しいおじさん相手に……ねェ?」
「っ……あんたが、変な触り方するから…でしょうがっ」
…まずい。
両手を拘束されて男に股間をいじられているこの絵面もまずいが、それ以上に与えられる刺激によりぴくぴくと震えながらいやらしく勃ちあがってしまった逸物が、着実に成長してしまっているのが非常にまずい。
「やっぱり、島殿くらい男前だと男との経験も豊富なのかなァ」
「ふっ……く、」
緩急や強弱をつけて着物越しに扱いてくる手が、的確に性器の弱い部分を責め立ててくる。人のものを弄ることに慣れているのだろうか。
それに加えてこの男の声…
気怠げな口調はそのままに、艶に濡れたような熱っぽさを孕んだ声は直接脳に響いて甘く体内に流れ込み危険だ。
「どんな顔で男を抱くのか興味あるけど……面白くないねェ」
言いながら宗矩の手が器用に腰紐を解きはじめたことに気付いて、左近は全身の血が引いていく感覚に眩暈を覚えかけた。
「ちょっとあの……ほんと、やめてもらえませんかね」
「たまには抱かれる側になるのかい?」
「そんな趣味ないんで…って、柳生さん!」
「なるほど、タチ専門かァ」
一人で納得する男の手が、こちらの袴の中に侵入し下穿きも平然とずらしてくる。
あまりに自然な動きに流されてしまいながら、左近がどうも噛み合っていない会話をどう収集つけたらと混乱を極めた頭で考えていると、おもむろに相手のごつい手が逸物に直接触れてきて。
かろうじて機能していた思考回路は吹き飛んでしまった。
「なに考えてんですか、あんた!」
「そんなに大声出すと……人が来て困るの、今はそっちでしょ?」
「…ッ」
悔しいが確かに宗矩の言うとおりだ。
誰のせいでそういう状況になったのかなど完全に棚の上にあげて言ってのけるあたりが非常に腹立たしいが、左近は言われるがままに口を突いて出ようとする抗議を飲み込んだ。
しかし、一向に宗矩は手を休める気配を見せず、こちらの逸物を掴むとそのまま扱きはじめる。
まったく遠慮のない刺激にびくりと腰が震え、逃げるように左近が尻をずらそうとするが親指を捉えられた両手を強く引き寄せられてしまい、机に足をぶつけただけで距離をとることはできない。
「っ……やめ、」
「もしかしてご無沙汰だったかな? …そそるねェ、そういうの」
「いい加減に……んっ!」
着物の中で蠢いていた手が勃ちあがった雄を外へと引きずり出す。
外気に触れたことで感覚がより鋭敏になったのか、それをきっかけにびくっと痙攣して先端の割れ目から先走りを滲ませた。
「結構使い込んでるみたいだけど、何人の男泣かせてきたのかなァ…」
「あんた、さっきから何を…」
どうも宗矩の言葉の端々には、俺が男を抱いたことがあるという見当違いの大前提が見え隠れしている。
無論男を抱いたことなどないし、そもそも男相手にこの繊細な息子が反応するとは――思えなかった、のだが。
「はあっ……ぅ、」
その繊細な息子は今、自分よりも体格のいい胡散臭い男にいじられて膨張し、苦しそうに涎を垂らしている。
このままイかされてしまっては堪らない。
そう思って親指の戒めから力任せに脱しようとするも、焦りが勝って空回りしうまくいかなくて。
焦燥が募るほど、呼吸が乱れ、息が上がる。
そんなこちらを愉しむように宗矩はくすりと小さく笑い、不意に上体を沈めると躊躇なく欲の先端を口に含んだ。