甘求者
指でなぞった傷痕を、渇いた厚めな唇が辿りぺろりと舐める。
どれも古い刀傷だし、痛くも痒くもなければ人に触られてどうということもなかったはずなのに、律儀に震える体は擽ったさに悦んでしまっているらしい。
次いでちゅ、と首筋に吸い付かれ、寸手のところで出かかった声を堪えて細く息を逃がす。
この店に来てから体の感度がどうもおかしい。
「元気だねェ島殿。もう復活するなんて」
くつくつと喉の奥で笑い、宗矩はそれとも、と言葉を続ける。
「…この状況に興奮してくれてるのかなァ」
「ッ…く、ぅ」
指先が肌を滑って下腹部を伝い、濃い茂みから再度主張しはじめている雄の薄い皮を撫でさする。
微弱な刺激がもどかしくて相手の手に擦り付けたい衝動に駆られるが、一度崩れ落ちた理性を総動員して欲求を堪えた。
しかしそんなこちらを嘲笑うように、宗矩の片手は屹立の更に奥。
双球も通過した先の窄まりを弄りはじめる。
「ちょ、どこ触って…」
「暴れない暴れない」
身をよじったところで逃げられるわけがなく。
腰を掴まれると呆気なく引きずり戻された。
先ほど塗り付けられた軟膏は体温に溶けて確かに馴染み気にならなくなっていたが、触れられるとぬるりと指が滑り鳥肌が立つ。…絶対つけすぎだろう。
「…抜いて終わり……ってわけにはいきませんかね」
「それ、冗談のつもりかい?」
「いえ……結構本気なんですけど」
「時には諦めも肝心だよォ。ほら、力抜いて」
まったく取り合ってもらえないまま、不埒な指は侵攻を開始してくる。
腕を拘束されたまま服を脱がされて、尻に指を突っ込まれるこんな事態、あれこれ思考を巡らせて事前策を立てる軍略家とていくらなんでも予測できない。
いや、寧ろ予測できていたらそれはそれでかなり恐ろしいが。
諦めも肝心。
その言葉に従ったわけではなかったが、どう抗っても切り抜けることなどできないことを認めて、左近は説得を放棄した。
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過去に尻を犯される経験などなかったが、きっとその行為には激痛が伴って、気持ちよさなど挿れる側しか感じないのだとばかり左近は思っていた。
挿れられて感じる男も中には存在するらしいが、あくまでもそれは男娼であったり回数を重ねて何かに目覚めてしまった場合だったりするはずで。
決して、こんな風に初めての男が辿り着ける域ではないはずで。
「ッ……は、」
熱く湿った吐息をこっそり吐き出すことができなくて、左近は不規則な呼気を苦しげに零す。
「ココが、いいのかな…?」
「あっ…、や、めっ」
乱暴に中を掻き回され、ぐりぐりと性器の裏側あたりを押されるときゅうと体中の筋肉が縮んで中心へ血流を促す。
一度達した逸物は二度目の絶頂を待ちわびて健気に震え、よだれを垂らして解放のときを待っていた。
「もしかして…後ろだけでイけそうかい?」
大きな声が出ないようにと必死に奥歯を噛み締めて抑制する左近の耳にそんな言葉が届く。
何をとち狂ったことを言っているんだこの男はと睨みつけてやると、宗矩は射殺さんばかりの視線をやり過ごすように首を竦めて冗談だよと笑った。
「ちゃんと気持ちよくしてあげるって。おじさん、嘘は吐かないからねェ」
そう言って、散々いじり倒した後腔から指をずるりと引き抜く。
が、当然それで終わりなどではなくて。
解されて新たな栓を求めてぱくつく後腔に、すぐに宗矩の熱が押し当てられた。
……見なくても判る。
先端が菊門に軽く押し込まれるだけで、その大きさが。質量が。
相当な規格外であることが。
「…島殿、緊張してるかい?」
「緊張、というか…」
入りますか、ソレ。
無事で済みますか、俺のケツ。
言葉にならないそんな不安を汲んでくれたのか、宗矩はふっと目尻を下げると困ったように笑った。
「大丈夫。…情けない話だけど、たぶんすぐ終わるから」
そうかじゃあ安心だなどとは到底思うことはできなかったけれど、今更引き返せそうにもない。
今日、きっと俺は痔になるのだろう。
そう割り切り意識して体の力を抜き、天井を仰いで身を委ねる左近に宗矩は笑みを深くすると、そのままゆっくり腰を進めた。