甘求者
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「は……ッ、」
息が、できない。
左近は酸素の足りない頭を必死に回転させ、現状の把握を試みた。
…試みたのだが。
「…ああっ、く……んっ」
「キツくて堪らないねェ……気抜いたら、すぐ持ってかれそうだ」
そんな余裕はなかった。
すぐに終わるという言から、左近はてっきり暴力に近い行為を想像していた。
力任せに突っ込んで、一人で達して放られるのだとばかり。
状況を考えて抗う術など存在しないので、その暴力を甘んじて受け入れるつもりだった。
行為に伴う痛みだって承知していたし、痔になる覚悟も固めた。
それなのに。
「ッ……まだ、痛むかい…?」
とうに限界を迎え、いつ達してもおかしくないところまできているくせに、この男は自身の快感よりもこちらの体を気にかけてくる。
じっくり解されたものの、はちきれんばかりに膨張した逸物を納めるのにはやはりというかなんというか、かなりの無理があって。
それでも丁寧に、慎重に扱われたおかげで、それほど痛みはなかった。
それどころかまったくの逆だ。
「柳生さん…」
「ん…?」
吐息混じりに呼ぶと、額に汗を滲ませた男が顔を上げる。
男ならそんな状態で耐え続けることがどれほど苦痛か嫌でも判る、ツラそうなのは明らかだ。
さっきまで強引に責め立ててきたくせに。
据え膳だとか苛めたくなるとか言っていたくせに。
どうしてこの段階になって欲を抑えつけてしまうのか。
おかげでこちらの体はもどかしさのあまりおかしくなりそうだ。
「平気、なんで…」
こんなことを口にするのは矜持が許さなかったが、この男になら、そんな部分を晒け出してもいいと思えて。
震えそうになる喉を叱咤しながら、掠れ気味の声で懇願した。
「さっきから……誰かさんのせいで体の奥が疼いてしょうがないんですよ…。もっと強く……突いてくれませんかね…」
「……」
途端、ゆるゆると動いていた宗矩の腰がぴたりと止まった。
あまりの羞恥に穴があったら入りたい気分になりつつ、左近が精一杯の逃げで顔を背けた直後、内におさめた楔が更に体積を増してびくりと痙攣する。
「う、わ…ちょ、」
まだでかくなる余地があったのかと青ざめる左近を呆然と見下ろしていた宗矩は、唐突に自身の口元に手をやって神妙な面持ちで「…危ない危ない」とぼやいた。
「…あんまり色っぽいこと言うから、危うくイきかけちゃったよ島殿ォ」
「知りませんよっ」
油断も隙もないんだからなどと溜め息をつくなり、宗矩はおもむろにこちらの足を抱え上げた。
「な、に…」
「いやね、もっと奥にいっぱい欲しいなんて言われたら火ついちゃうじゃない」
「ええと…俺そこまで言ってな……んっ、あ!」
「強めね…。承知した」
「っ、……ぁ、くっ」
人が変わったように貪欲に腰を振る宗矩。
先ほどよりも更に亀頭のくびれが如実に感じられて、ごりごりと狭く柔らかい肉壁が擦り上げられる。
指で押し上げられた弱い部分を突き上げられると、下腹部に強烈な射精感が収束していく。
「は、ァ……ぁあ! そ、こ…ッ」
「…いやらしいなァ」
びくびくと体が跳ねる度に、頭の上で縛られた不自由な腕が悲鳴を上げる。
触れてもらえない肉棒の先端からは白濁混じりの先走りが滴り、自身の腹に糸を引いて落ちた。
「……まずい。やっぱり…もちそうにないねェ」
「んんっ、や……ッ、ぁ…くっ」
弱いところをなじるように先端で抉られながら、放置されていた逸物を捉えられて一気に抜きあげられる。
前後からの強すぎる刺激にどうにかなりそうで、鍛え抜かれた相手の腰を挟む足に思わず力が入る。
それに応えるようにこちらの首筋に鼻先をすり寄せられると、なんだかすごく安心できて。
「やぎゅ……さんっ…」
もうイきたい、言外にそう告げる左近に了承の意を伝えるように、宗矩は首筋に口付けを落として逸物を追い上げる手の動きを早めた。
「ぅ、ああっ……はぁッ、や…ば、」
濡れそぼった赤黒い逸物から奏でられるぐちゅぐちゅという淫靡な水音が劣情を煽りたて、振り切れそうな感度を更に研磨する。
こうなればあとは絶頂を目指すことしか考えることができなくて、本能のままに快感を受け入れる。
「あ……く、ぅ…もうっ…!」
「……ッ、」
尿道を駆け上がってくる欲望をそのまま追いかけ、少しして左近は四肢を痙攣させて達した。
続けて、脱力する胎内を宗矩の楔が何度か大きく穿ち、奥の方で弾けると熱がじんわりと広がった。