甘求者
荒々しい二人分の息遣いが部屋の中を満たす。
顔の横に肘を突く形で体を重ねていた宗矩は、最後にもう一度こちらの首筋に吸い付いてからゆっくりと上体を起こした。
ちくりとした感触に、ぼんやりしていた左近の頭が働きだす。
「あんた……今、痕…」
言葉を続けるのもしんどくて単語だけで抗議するが、宗矩は意に介した風もなく弛緩した顔でへらりと笑ってみせる。
「大丈夫だよォ。見えない見えない」
「勝手な……ッ、…ん」
ようやくなりを潜めた逸物を後腔から引きずり出され、ぞくぞくと駄目押しのように甘い余韻が肌をかけずり回る。
次いで中に放たれた精液が肉壁を伝って流れてくる感覚に腰が微かに震えた。
…信じられない。中だぞ。
「しかし島殿……感じやすいんだねェ」
「……、はい…?」
「不殺が信条なのに二回も殺しちゃったよ。まあ、拙者も殺されたわけだけど」
「……さっきも言いましたけど、全然うまいこと言えてませんからね、ほんとに」
机の上にあったお絞りでこちらの尻から掻き出した精や腹、己の自身を拭く宗矩に疲労感たっぷりで切り返すが、やはり気にする様子はなくて。
「本当はもっと焦らして泣かせて、ねちっこくするはずだったんだけど……やっぱりネコも経験あるのかい?」
左近からしてみれば十分焦らされたし、十分ねちっこかったのだが、宗矩は長期戦を予定していたらしい。…危なかった。
そして、宣言どおり早く終わっちゃったよなどとどこか不貞腐れた様子で呟く相手に、行為の前から気になっていたことを思い出し左近はようやく訂正した。
「あの、俺男と寝たことありませんから」
「え? 寝たことないって……ああ、じゃあやっぱりタチ専門かァ」
「いや、タチとかネコとかじゃなくて、男とこういう行為をしたことがないって言ってるんです」
「……え?」
え?じゃねぇよ。
胸中で突っ込みつつも、ああやっぱり大きな勘違いをされていたんだなと納得した。
宗矩はお絞りで互いの体を清める手を止めて、なに言ってるのとばかりに目を瞬かせていたが、やがてぎこちなくこちらの全身に視線をやって恐る恐る口を開いた。
「自分で、言ってなかったっけ…?」
「言ってませんね」
「あー……それは…、」
こんな男でも人並みに罪悪感を覚えるのかと感心しかけた左近だったが、一秒後には綺麗に裏切られた。
「嬉しいねェ」
「……」
「後ろだけでも拙者が一番なら満足するつもりだったけど…男が初めてかァ」
「…ええ。ところでそろそろ手外してもらえません?」
「んー困った。殴られたくないんだけどなァ」
殺気だけは敏感に感じ取るあたりは流石大剣豪である。
その後殴らないことを約束して小太刀を抜いてもらい、手首を拘束する腰紐を解いてから着物を整え終わってすぐ。
左近の右拳が宗矩の腹部にめり込んだことは言うまでもない。