掴めない距離感
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それから三ヶ月ほどが過ぎた、ある夜。
人気のない神社で討伐対象の鬼を片付けたことを報告し、作業を終えた隠たちの撤収を確認して帰路につこうというときだった。
鬼の気配を感じ、煉獄は刀の柄に手をやって周囲に視線を走らせる。
この気配は知っている。
一度、接触している鬼だ。
しかもこれは…
「いい反応だ、杏寿郎」
「…上弦の参!」
月明かりを背に、悠々と鳥居をくぐって歩く鬼の姿。
刀を握る手に力が入る。
肋骨と損傷した内臓は完治したし、体調は万全といってもいい。
しかし、視界を制限された中での戦闘はまだそこまで身体に馴染んではいない。
下弦にも満たない鬼ならばいざしらず、上弦の鬼と渡り合うことはできないだろう。
互いの間合いまであと三歩といったあたりで、猗窩座は立ち止まり深い溜息をついた。
「しかし鬼狩りどもにはがっかりだ」
「……?」
あからさまに不機嫌な様子の猗窩座。
出方を探っているこちらなど気にせず、彼は口を開いた。
「あの程度の鬼に、柱であるお前を遣わせるのか?そんなに鬼狩りは人手が足りんのか」
「……」
「炎の呼吸をひとつも使うことなく終わったじゃないか。こんなもの杏寿郎の無駄遣いだろう」
「……」
なんの、話だ…?
次第に相手の愚痴ともとれるぼやきに、煉獄から緊張感が抜けていく。
「お前はいつもこうして下級の鬼を倒してまわっているのか?」
「いや…、いつもではない」
現場で実戦を積むのは、どちらかというと新人隊士だ。
柱や実力のある者は、突然の鬼の情報に備えて巡回や待機をしていることのほうが多い。
つい返答をしてしまったが、そんなことよりも。
「きみは何をしにきた?」
相手は上弦の参。
どういうわけか隠たちが去るまで身を潜めていたところを見ると、襲撃にきたわけではないのか?
相手の空気に呑まれないよう、気を張り詰める。
こちらの問いに、猗窩座は金色の瞳を細めた。
「無論、お前と戦うためだ」
「もの好きな。いいだろう、今度こそ頸を斬ってやる」
日輪刀の刀身を月光に晒すが、猗窩座はかぶりを振った。
「先程の動きを見ていたが、その目のせいだろう。以前のキレがない」
青い指先を持ち上げ、眼帯に覆われたこちらの左目を指し示してくる。
その表情は一見無関心ともとれるが、見ようによっては憂いているようでもあって。