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天空天河 四

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 手首を掴んでいた藺晨の手は、いつの間にか、長蘇と手を繋いでいた。
 藺晨は、子供の二人が、悪さをして逃げているみたいだ、と思った。
 いい歳をして、、、と、そう思ったが、何故かそれが楽しく、そして長蘇と手を繋ぐ自分を、周囲に人が居たならば、自慢したい程、誇らしく思った。

 気を使って走っていたのに、長蘇の足は縺れ、転倒しそうになる。
「危ない!。」
 藺晨が倒れる長蘇の体を、既(すんで)の所で抱きとめた。
「、、、はぁ、はぁ、、。
 あははは、、体は軽いと言うのに、、、何とももどかしい、、思う様に、、、動かぬ。」
 自嘲気味に長蘇が言った。
 そんな長蘇の様子が、気の毒にも思えた。
 息を切らしながら、それでも自分に向ける微笑みに、藺晨は胸の何かを、ギュッと握り掴まれた。
 長蘇の微笑みに、この男の本質を見た気がした。
 己の過酷な運命を、諦めでは無く、こうして笑って立ち向かうのだと。
 藺晨は、武人が命を賭し、国を思う心は、全くもって理解出来ず、愚かしいと思っていた。
 だが、目の前にいる、『魔』と、真っ向から立ち向かおうとしている、この男の心に触れると、痛々しくも尊く、抱き締めてしまいたくなる。
「ええぃ、、、こっちがもどかしい!。」
 藺晨は、長蘇の弱音も恨み言も、全部、引き受けてやりたくなった。
 息を切らす長蘇を抱き上げ、門に向かって走り出した。
「、、ぁぁっ、、、や、、止めろ、、藺晨、。
 ミンナミテルノニ、、、。」
「煩いっ、、、お前を配下達から、救ってやるのだ。
 静かにしろっ、、抵抗されたら、走りにくい、、、私に掴まっていろ。」
 長蘇は、藺晨がしようとしている事が分かり、おずおずと藺晨の首に腕を回した。
 藺晨の走る速度が上がる。
「あはははは、、、。」
 酷く恥づかしがる長蘇に、自然に藺晨に笑いが出た。
 藺晨の軽快な走りと、笑い。
 忽ち、蘇宅の門に辿り着いた。
 門は閉じて、門を守る従者はもう居ない

 藺晨は長蘇を抱えたまま、勢いよく飛び上がり、閉じた門の上を越える。

「飛流────!!。」
 門の上で、藺晨が一声、飛流の名を呼んだ。
 二人が着地する前に、黒い塊が二人に迫り、飲み込んだ。
 二人を飲み込んだ黒い塊は、上昇した。
 次第に闇は薄れ、藺晨と長蘇を乗せた、黒い龍が姿を現す。

「あはははは、、良いぞ、飛流!!。


 、、、、、だが、何なのだ?、飛流?。
 この私と長蘇との距離は!。」


 長蘇は黒い龍の、頭の角のすぐ後ろ。
 、、、、藺晨はというと、そこから遥か、下の方の、肩の辺りの鱗の上だった。


「あはははは、、、。」
 長蘇が、藺晨の方を向いて、笑っていた。


 長蘇の長い髪が、風に扇(あお)がれている。
 衣も然り。
 常に首に巻かれた絹布も、今は無く。
 顕(あらわ)れた白い胸元と、霹(はため)く衣。

 生来の、自由な長蘇を見ている様だ。

 これ迄の生き様や、金陵の者を攻めた謀を聞いて藺晨は、『こいつという人間は、相当、自由に生きてきた』そんな印象を持った。
 そして物事の根本を見抜き、形には囚われず、諸事、解決をしてきたのだ。
 その自由さと、長蘇の持つ輝に惹かれ、皆、集まってくる。


 今、藺晨の眼に映る長蘇の姿は、龍を繰る麗しい仙女の如し。
 まるで夢見心地。

 石柱で、繭から出てきた長蘇を見て、決して口には出さなかったが、藺晨は美しい者と思ったのだ。


 長蘇は黒い龍の頭に顔を埋めて、龍に何かを囁いている様。
 頭を起こし、顔にかかる髪を、手でかき上げる。
 白い指から溢れる長い黒髪が、頬や首筋から離れ、風に流れてゆく。

 そんな仕草さえ、藺晨は美しいと思い、目が離せない。

「飛流に、何を囁いたのだ?。」
 長蘇は微笑んで、答えはしなかった。

『藺晨を振り落とせ』、、、そんな事を囁いたのだろうか。
 こんな上空で振り落とされたら、たまったものではない。
「そうはいくか!。」
 藺晨に疎外感と悔しさが沸き起こり、龍の鰭(ひれ)を掴み、龍の体の鱗を、必死によじ登り、やっと長蘇の側へ。

「何を話していたんだ?。ん?。」

「石柱へ行こうと、飛流に言ったのだ。」

「石柱ぅ?、、、、、、、。
 、、ぅ?、、、ん、?、、、、、。」
 

 長蘇は、『魔』を根絶やしにする、別の方法を、探したくなったのだろうか、、、飛流を救おうと。
 それとも、あの天空の石窟で、朝日でも見たくなったのか。

「、、、あの場所へ、、、、、か?。」
 長蘇に、、自分の弱音は晒したくない、と藺晨は思っていたが。
 藺晨は身震いをする。
 藺晨は、あの石柱には、二度と近付きたくないと、あの場所を思い出しただけで、恐怖感すら覚えるのだが、、、。
 もしかすると、また、あの場所に囚われてしまうのでは無いか。死ぬ事すら出来ぬ藺晨の体が、今度は、腐ちて無くなって、魂の存在になっても、あの場を去る事を、許されぬのでは無いかという恐怖。

 だが、長蘇と飛流と一緒ならば、封じ込められ、身動きの取れなかったあの場所に、行けるような気がした。


 藺晨は、華奢な長蘇の背中を、包むように抱き締める。
 風に流れる長蘇の黒髪に、顔を埋めた。
 恐怖心は消えないが、花の香りが、藺晨の肺に満たされ、心地良い。

 長蘇は、藺晨の恐怖心を、理解した。
 長い歳月を、あの場所に封じ込められた恐怖。
 何の裏付けも無いのだが、長蘇には、もう藺晨は、あの場所に囚われたりはしないだろう、という確信があった。


 長蘇は、力強く抱き締める藺晨の手に、自分の手を重ねた。
 余程怖いのか、藺晨は指を絡めるように、長蘇と手を繋ぐ。長蘇の細い指は、力を入れれば、折れてしまいそうなのだが、それでもこの恐ろしさには、体が強ばり、つい力が入ってしまう。
 握り返す長蘇の指が、『大丈夫だ、私がいる』そう伝えている様だ。
 触れ合う互いの掌と、心。
 藺晨の掌に密着する、長蘇の掌は、温かく、藺晨を勇気付ける。




「、、、行こう。」

 藺晨が、長蘇の背中に、顔を埋めたまま、囁く。




 天空を航(わた)る漆黒の龍は、速度を上げた。








作品名:天空天河 四 作家名:古槍ノ標