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本日はお日柄も良く、絶好のお葬式日和で

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 泣き笑いの顔を見あわせれば強くうなずいてくれる人がいる。あの冬の日に義勇の決断がもたらしてくれた出逢いと命が、ここにある。
 そして。
 みんなの声を、瞳を潤ませながらも笑いながら聞いていた炭治郎が、ぐっと天を見上げた。

「義勇さん、聞こえてますか! 義勇さんが繋いだ命が、新しい時代を作る命が、ここにあります! これからなにが起きても、絶対に義勇さんが繋いでくれた平和な世の中を守りますから! だから、いつかまた……みんなで作り上げた平和ないつかの未来で、また逢いましょうね!」

 大きな大きな声は、あの人の瞳のような青い空に吸い込まれていく。炭治郎の笑顔のように眩しいお日様がかがやく、青い青い空へ。

 寛三郎、錆兎、真菰、義勇さんのお姉さん。煉獄さんやしのぶさんたちも、みなさん義勇さんをよろしく。みんなで笑って待っていてくださいね。また逢う日まで、みなさんが繋いでくれたこの平和を、きっと守りますから!

 笑って言う炭治郎の言葉が、そうだそうだと唱和する声たちが、鴉たちの羽ばたきが、空に向かってひびきわたる。
 不意に風が強く吹いた。
 風はみなのあいだを吹き抜ける。強いけれども、まるで慣れない手で頭を撫でられているような、そんなぎこちないやさしさで風は吹く。
 クジラ幕をはためかせ竹林をゆらせた風が、禰豆子と善逸が抱く赤子の頬をふわりと撫でて、子供らが泣きやんだ。
 かわりに鳴りひびいたのは、潮騒のような音だ。寄せては返す波に似た葉擦れの音。ここを水屋敷と定めた人は、この音に海を見たのだろうか。
 腕のなかの勇治郎が、きょとりとした顔で炭治郎を見つめていた。炭義も同様で、まだ涙の残るあどけない目で、じっと炭治郎を見ている。いや、もしかしたら。
「……いるね、きっと」
「うん……きっと」
 風に髪をゆらせて幸せそうに微笑んでいる炭治郎を、禰豆子も善逸も見やった。
 義勇と寄り添いあっているときと同じ顔で、炭治郎は笑っている。きっとこれからも、笑って炭治郎は過ごすのだろう。義勇は、炭治郎の笑顔をことさら好いているようだったから、悲しい寂しいと泣くよりも、笑うことを炭治郎は選んだのだ。自分の命の終わりまで、きっと炭治郎は笑っている。

 ただ一人、なにも言わず空を見上げていた不死川の口元が、小さく動いた。声は聞き取れず、なにを言ったのかはわからない。口にした言葉は不死川なりの餞はなむけなのか、それとも常の憎まれ口なのか。それはわからないままでいいと思う。隣で輝利哉が小さく笑っているのが答えなのだろう。
 あー、と声を上げ、赤子たちが天に向かって小さな手を伸ばした。
「うん……さよならじゃなくて、またねって笑おうね、勇治郎、炭義。またね、義勇おじちゃんって笑おうね」
 キャッキャと楽しげに笑いだした子供らの声は、明るい未来を感じさせた。
「こいつらに義勇おじちゃんって呼ばれたときのお義兄さんの顔、見てみたかったなぁ」
 腕のなかの炭義の笑顔に温かな眼差しを落としつつ言う善逸に、禰豆子はクスリと笑った。
「お義兄さん、また泣いちゃうかも」
「目に浮かぶっ。ぐぅって唇噛みしめて男泣きすんだよ、きっと! 意外と泣き虫だったから!」
「そうそう。それでお兄ちゃんが笑いながら、よしよしって頭撫でてあげるの。うちと同じだよ。善逸さんも、この子たちに初めてお父さんって呼ばれたら、泣くでしょ?」
 喜びまくり大騒ぎして、そうしてきっと、夫は泣く。それを禰豆子は確信している。
 そんなことないよとさわぐ善逸を、はいはいとなだめて、禰豆子はまた空を見上げた。

 聞こえるのは波音。にぎやかな笑い声。空は青く青く澄み渡り、まばゆく光るお日様がみんなを照らしている。風は強くやさしく吹く。花に囲まれた写真のなかで笑う彼(か)の人のように、強くてやさしい風が吹いている。

 それじゃあまた、そう笑う日が、今日で良かった。
 今日は本当にお日柄も良く、絶好の、お葬式日和。