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迷子のヒーロー

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「この道の先の竈門ベーカリーです! お兄ちゃん待って!」
「待って!」
 急いでおばさんに返事しつつ、禰豆子と一緒に少年を呼び止めたけれど、少年は振り返ってもくれない。
 現れたときにはとても大きいと思ったけれど、少年の背中は近所の中学生と比べたら、やっぱりかなり細い気がする。そんな少年が、あんなに大きな犬を一瞬で取り押さえたのだから、本当に凄い。
 考えている間にも、少年はどんどん遠ざかっていく。ちゃんとお礼をしないまま見失うわけにはいかない。

 絶対に追いつかなくっちゃ!

 炭治郎は禰豆子の手を引いて一所懸命に走った。
 と、突然少年が立ち止まった。歩みを止めたのは荷物を拾い上げるためだったようだが、そのまま立ち尽くしている。

 よかった、待っててくれてるんだ!

 ようやく追いついた炭治郎は、急いで少年の前に回り込んだ。
「助けてくれてありがとうございました! 俺は竈門炭治郎、キメツ小学校の一年生です! こっちは妹の禰豆子です!」
「ありがとうございましたっ」
 禰豆子と一緒にぺこりとお辞儀しても、少年は相変わらずちっとも炭治郎を見てくれやしない。待っててくれたと思ってうれしくなった気持ちがしぼんで、炭治郎は思わず眉を下げた。
 お礼の言葉すら聞こえてないような少年に、どうしたらいいのかわからない。よくよく見れば少年の学生服は膝の辺りにずいぶんと土ぼこりがついている。犬を取り押さえたときに汚れたんだろう。もしかしたら、それで怒ってるんだろうか。なにか言ってほしいと思っても、少年は黙り込んだまま、無表情で前を見据えているばかりだ。
 どうしようと禰豆子と顔を見合わせたら、唐突に少年が口を開いた。
「キメツ学園はどっちだ?」
 ようやく話しかけてくれたのはいいけれど、あんまり意外な言葉だったので、炭治郎は思わず目をしばたたかせた。
「えっと……」
 炭治郎が戸惑っていると、少年は答えを待たずまた歩きはじめた。
 キメツ学園とは、逆の方向に。

 あぁ、行っちゃう! 慌てて炭治郎は少年の袖を掴んだ。

「あの、俺知ってます、キメツ学園! 案内します!」
「……道だけ教えてくれればいい」
「そんなわけにはいきません! こっち来てください!」
 ぐいぐいと少年の手を引いて来た道を歩きだせば、禰豆子も「お兄ちゃん行こう」と少年に笑いかけた。
 少年から戸惑っている匂いがしてくる。炭治郎は、その匂いにちょっとだけうれしくなった。とっても鼻が利く炭治郎は、感情の匂いを嗅ぎ取ることができる。でも少年からは、さっきまで感情の匂いがほとんどしなかったのだ。
 ずっと水のような淡い匂いしかしなかったし、ひどく無表情なものだから、少年がなにを考えてるのかさっぱりわからなかった。そんな少年から伝わる感情は、戸惑いであってもなんだかドキドキする。やっと自分に向けられた関心に胸が弾んだ。
 繋いだ少年の手はひんやりとして、さらりと乾いていた。炭治郎の手よりも、ずっと大きくて固い手だ。
 戸惑いながらも、炭治郎たちの歩みに合わせてくれているのか、少年は先ほどよりもゆっくりと歩いてくれる。やっぱりこのお兄ちゃんはとってもやさしい人なんだ。うれしくなって改めて少年の顔を見た炭治郎は、少年がとてもきれいな顔をしているのに気がついた。

 格好良くて強いなんて、本当にヒーローみたいだ。

「お兄ちゃんのお名前はなんですか? 俺は竈門炭治郎です!」
「……義勇」
「義勇さん! 義勇さんはどうしてあそこにいたんですか?」
 キメツ学園に用があるのなら、義勇が向かおうとしていた方向とは逆だ。それに、義勇が着ているのはキメツ学園中等部の制服じゃないだろうか。

 変だなぁ。なんで義勇さんは、自分の学校の場所なんか聞いたんだろう。

 ちょっと不思議に思いながら炭治郎が言うと、義勇の眉が少し寄せられた。なんだかバツが悪そうにも見える。
 ふわりと漂う匂いも、義勇が困っていることを伝えてきて、炭治郎は思わず目をまばたかせた。
「えっと……もしかして道がわからなくなっちゃったんですか?」
「…………」
 たぶん、答えがないのが答えなんだろう。

 炭治郎と禰豆子を助けてくれたヒーローは、どうやら迷子だったらしい。

作品名:迷子のヒーロー 作家名:オバ/OBA