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やきもちとヒーローがいっぱい

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「一緒といえば一緒だし、まったく違うといえば違うような……あーっ、地味にメンドクセェ! いいか、坊主。あの馬鹿どもみたいなこと、おまえは絶対にしねぇんだろ? 冨岡だってするわけないって思ってんよな? ならそれで納得しとけ! そのうち嫌でも嫉妬ぐらいするようになってくだろうよ」

 炭治郎の質問は煉獄や宇髄のことも困らせてしまったみたいだ。困らせるのは駄目だよな。よくわからないなりに炭治郎がうなずこうとしたとき、突然伸びてきた煉獄の手が、義勇の髪をなでた。
 当然、炭治郎もビックリしたけれど、義勇の驚きは炭治郎の比ではなかったようだ。ビクッと震えて目を大きく開くと、炭治郎を抱きかかえたまま義勇が素早く立ち上がった。

 義勇さんに小さい子みたいに抱っこされてる!

 膝の上で抱きしめられたことはあるけれど、こんなふうに抱っこされるのは初めてだ。なんだか恥ずかしくって、炭治郎は顔を真っ赤に染めた。
 うれしいけど小さい子みたいでちょっと恥ずかしい。そんなことを思ってしまう炭治郎だって、義勇たちから見れば、まだまだ小さい子供だろう。でも、物心ついたときから『お兄ちゃん』な炭治郎には、自分が小さい子だなんて自覚はない。
 義勇はといえば、よほど驚いたのか炭治郎が照れているのにすら気づいていないらしい。まばたきすらせず煉獄を凝視して固まっている。
「おまえ、いきなりなにやってんの?」
「いや冨岡が、俺が聞かれたのにと拗ねているように見えてな! 前に千寿郎が、近所の幼稚園児に対して同じことをしていたなと思ったら、なんだかかわいく見えたのだ!」
 呆れる宇髄に、煉獄はなんの衒いもなく笑って、そんなことを言う。
「まぁ、チビ助がもっとちっこいの相手に兄ちゃんぶってんのは、なんか微笑ましくはあるよな。でも、冨岡は俺らと同じ中三だぜ? かわいいはねぇだろうよ」
「そうだぞ! 義勇の兄ちゃんは俺なんだからな!」
「義勇をなでてあげられるのは、お兄ちゃんとお姉ちゃんな私たちだけなのっ!」

 俺も兄ちゃんだけど、義勇さんをなでたことないな。俺も義勇さんによしよししてあげたいけど……怒られちゃうかなぁ。でも、禰豆子も前に、義勇さんをなでたことあったよな。あのときは義勇さん怒らなかったし……。

 炭治郎が密かに悩んでいることなど、気づく者もなく。煉獄の闊達な声がなおもひびいた。
「冨岡が君たちの弟ならば、俺は千寿郎の兄だ。兄とは弟をかわいがるものだ! 俺にだって冨岡をなでる権利ぐらいあるだろう!」
「どういう理屈だよ……っていうか、どこ見てんの、おまえ。俺も弟はいるが、冨岡をなでたいとは思わねぇぞ」
 宇髄のげんなりとした声や錆兎たちの文句など、煉獄はこれっぽっちも気にならないらしい。仁王立ちで腕組みし堂々と言った煉獄は、クリンッとまた義勇に顔を向けてきた。その視線にビクンと義勇が肩を跳ね上げらせ、さらに強く炭治郎を抱きしめてくる。
 圧の強い眼差しで義勇を見据え、煉獄は笑顔のまままたもや義勇に手を伸ばしてきた。その手が触れるより早く、義勇は炭治郎を抱いたままじりっと後ずさる。顔は無表情のままなのに、泡を食っているのがめずらしくもはっきりとわかった。
 イヤイヤするように小さく首を振るのが、なんだかかわいい。炭治郎もますますなでてあげたくなってしまったけれど。

 煉獄がひょいと近づくたび、じりっと下がる義勇は、人馴れしてない子猫が怯えているみたいで、ちょっとかわいそうにも思うので。

「義勇さんが怖がってるから駄目です! よしよしするのは、もっと馴れてからにしてください!」

 助け船のつもりで言った炭治郎の言葉が、こだまするみたいに木立にひびいて。一瞬の沈黙のあと、宇髄の爆笑と義勇のなんとも言えない表情で、おかしな攻防劇はひとまず終わりを告げた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 途中まで道が一緒だと言う煉獄と、キメツ学園の寮生である宇髄も伴っての帰り道。ハチを送り届けるあいだも、その後も、義勇はずっとなにか考えているように見えた。
 煉獄が話しかけると一瞬ビクッと震えるものの、すぐにまた考えごとに戻ってしまうみたいで、炭治郎はちょっと不安になる。
 宇髄や煉獄はとてもいい人だ。二人が義勇のクラスメイトでよかったなと、炭治郎は思うのだけれど、義勇は嫌なんだろうか。まぁ、錆兎たちにされるのとは違って、同い年の煉獄になでられるのは、義勇だって困るだろうけれども。
 ついでに炭治郎だって、ちょっぴり胸がモヤモヤする。
 だって炭治郎はまだ、義勇の頭をなでたことなどないのだ。それなのに、禰豆子だけでなく煉獄まで義勇をなでるなんて、なんだかズルいと拗ねたくなってしまう。
 このモヤモヤがやきもちだということはわかったけれど、本当に自分は、やきもちを妬いてもいいんだろうか。
 いろいろとむずかしくて、炭治郎にはよくわからない。でも、義勇のことが大好きで一緒にいたいのなら、ちゃんと考えなくちゃいけないだろう。嫌われるようなことはしたくない。義勇が悲しむことは、もっとしたくない。だからいっぱい考えようと、炭治郎は決めた。

 義勇さんは、ヒーローでいたいからがんばるって言ってくれたもんな。俺だって義勇さんを悲しませないようにがんばんなきゃ!

 もう少しで家に着く。義勇たちとはそこでバイバイしなきゃいけない。寂しいなと思って隣を歩く義勇を見上げたら、義勇もようやく炭治郎に視線を向けてくれた。

「……好きだからだ」

 やっと声を聞かせてくれた思えば、義勇が口にしたのはそんな言葉だった。
 ポカンとしてしまった炭治郎とは裏腹に、義勇はちょっと満足そうだ。
「おまえ、こんなチビッ子相手になに言ってんだ?」
 宇髄に言われ、義勇も言葉が足りないと思ったんだろう。炭治郎を見つめながら、さらに言ってくれた。

「嫉妬は嫌いな相手にもする。やきもちは……好きだから、独り占めしたくてするんだと思う」

「おぉ、なるほど! たしかにそうだな。嫉妬は悪意でもあるが、やきもちだとかわいらしい気がするのは、そういうことなのかもしれん」
「っていうか、おまえ、ずっとそれ考えてたのかよ。派手にテンポ遅すぎだろ」
「義勇は一所懸命考えてたの!」
「そうだぞ、義勇はちゃんと炭治郎にわかるようにって考えたんだ。面倒だって投げだしたくせに、おまえが文句言うな」
「好きだとやきもちするの? じゃあ、禰豆子もお兄ちゃんや真菰ちゃんたちに、やきもちしてもいいの?」

 わいわいと騒がしい声がなんだか遠くに聞こえる。
 やきもちは、好きだから。独り占めしたいから。
 義勇の言葉が耳の奥で静かにリフレインする。

「……じゃあ俺、やきもち妬いてもいいんですか? 義勇さんを独り占めしたいなぁって思ってもいいですか? 義勇さんのことが大好きだから、やきもち妬いてもいいですか?」

 ドキドキしながら小さな声で聞いた炭治郎に、義勇は少し驚いた顔をしたけれど、小さくうなずいてくれた。
 ふわっと心が温かくなって義勇に手を伸ばせば、炭治郎の意を悟ったんだろう。義勇はすぐに背を屈めてくれた。

 近づいた義勇の顔。耳に顔を寄せてもっと小さな声で内緒話を。