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やきもちとヒーローがいっぱい

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 心が迷子になっていた義勇は、長い間、食事をすることも満足に眠ることもできなかったらしい。だから当時をよく知る錆兎と真菰は、今でも義勇から目を離すのをとにかく嫌う。
 義勇を守ることを至上の命題としている節すらある二人だ。義勇が学校でもないのに一人で出かけようとするのを、見逃すわけがなかった。
 問題は錆兎たちばかりとも言えない。義勇自身も、そんな二人の過保護な行動を、完全に受け入れてしまっているのだ。
 そうして迎えた春休みの初日。炭治郎の家まで来てくれた義勇の両隣は、錆兎と真菰が陣取っていて、義勇からはちょっぴり申しわけなさそうな匂いがした。

 とはいえ。
 結果として、五人でのお出かけはとても楽しかった。

 義勇はまだぼんやりすることが多くて、あまり反応を返してはくれない。それでも自分から出かけようとする時点で、錆兎たちからしてみれば格段の進歩らしい。単独行動を許可するかどうかは、別問題らしいけれども。
 大人抜きでの一緒のお出かけが、うれしくてしかたなかったんだろう。墓参りのとき以上に、錆兎と真菰は上機嫌に見えた。そんな二人につられて、禰豆子もとても楽しそうにしていたものだ。
 唸り声をあげていたときにはとても恐ろしく見えた秋田犬のハチも、飼い主さんちの庭で逢ってみればかわいい犬だった。人懐こくて、お手やおすわりだって完璧な賢い子だ。炭治郎たちともすぐに仲良しになって、フサフサのしっぽをブンブンと振ってくれる。
 なによりうれしかったのは、義勇からもほんの少しとはいえ、楽しんでいる匂いがしたことだ。だから炭治郎も、二人きりじゃないのはちょっと残念ではあるけど、やっぱりみんなで来てよかったなと思ったのだ。

 そして、今日である。義勇とお出かけする三回目の今日は、またハチに逢いに行くのだ。
 当然のように、義勇を真ん中に左隣には炭治郎と禰豆子、右隣に錆兎と真菰の五人連れである。このままみんな一緒が定番になっちゃいそうな感じだけれども、しょうがない。錆兎たちとも炭治郎と禰豆子はすごく仲良くなったから、みんな一緒もちゃんと楽しい。
 新学期が始まってから二度目の日曜日。すっかり桜も散った昼下がりの遊歩道を、みんなでおしゃべりしながら歩く。
「でも本当にハチが元気になってよかったな。こないだは、人が来るとまだちょっと怯えるっておばさん言ってたから、心配してたんだ」
「うん。ひどいことする人がいるよねぇ。繋がれて逃げられないのに石を投げるなんて」
「ハチ、かわいそうだね、お兄ちゃん」
 眉を下げて禰豆子が言うのに、炭治郎もそうだなとうなずいて、思わず顔をしかめた。

 炭治郎と禰豆子を襲いそうになったあのとき、ハチは怪我をしていた。怒っているときには気がつかなかったけど、背中や頭、足にもいっぱい血が滲んでいたのだ。すごく痛そうだった。あれじゃ気が立ってもしょうがない。

『誰かに石を投げられたみたいなの。近ごろこの辺りで、犬が苛められる事件が起きてるらしくって……』

 不安そうに飼い主のおばさんが言う傍らでパタパタと尻尾を振っていたハチの体には、まだいくつか怪我が残っていた。だから遊んだのは庭でだけだ。お散歩に出るのをハチも怖がっていると、おばさんは言っていた。
 ハチが元気になったら、お散歩させてあげてもいいですかとみんなで聞いたら、おばさんはそのときには電話するねと約束してくれた。そうして、めでたく本日、みんなでハチを公園まで散歩につれていくことになったのである。

 犯人は、怒って鎖を引き千切ったハチに驚いて逃げてしまったらしく、まだ捕まっていない。石を投げられた犬のなかには、まだ怪我が治りきっていない子もいるそうだ。

 とても腹が立つし悲しい事件だけれど、でもちょっとだけ朗報もある。ハチに追いかけられて、犯人も懲りたのかもしれない。このところ犬が苛められたという話を聞かなくなったと、ハチをなでながらおばさんが教えてくれた。
 とは言っても、ほとぼりが冷めたらまたやるかもしれないし、今度は子供を狙うことだってあるかも。だからあなたたちも気をつけてねと、少し心配そうに。

 逃げられない犬に石を投げるなんて、どうしてそんなひどいことができるんだろう。そんなひどいことをする人は、一体どんな人なんだろう。

 ちょっとだけ怖くもなるけれど、すぐに炭治郎は、明るく笑って義勇を見上げた。
「ハチは本当はお散歩が大好きだって、おばさんも言ってましたよね! 今日はいっぱい散歩してあげたいですね、義勇さん!」
 炭治郎のヒーローである義勇はとっても強いから。だから大丈夫。なにも怖くない。
 義勇は今日も、竹刀の入った袋を肩にかけている。まだ炭治郎は、義勇が剣道をしているところを見たことはない。でもきっと、義勇は剣道だってすごく強いんだろう。だって炭治郎たちがハチに襲われそうになったときにも、義勇はあっという間にハチを取り押さえてくれた。
 だから絶対に、大丈夫。義勇と一緒なら、炭治郎は心から安心できる。

 義勇がちらりと視線だけで炭治郎を見下ろしてきたのと同時に、錆兎がくくくっと小さく笑った。
「今日はちゃんとハチをなでてやれるといいな、義勇!」
「ハチは降参ポーズしてるのに、義勇ったら怖がってなでてあげないんだもん」
「……怖くない」
 小さな声で言う義勇から、困っているような匂いがする。おや? と、炭治郎は目をしばたたかせた。
「義勇さん、犬が怖かったんですか?」
 思い返せば前回の訪問でも義勇だけは、ハチをなでてあげなかったような気もする。でも、犬が怖かったからだなんて、思いもしなかった。
 だって、初めて義勇に逢った日のハチはかなり怒っていて今にも噛みついてきそうだったけれど、義勇はちっとも怖がってるようには見えなかった。ハチに逢いに行こうと言ってくれたのだって、義勇からだ。

 それなのに、犬が怖い?

 信じられなくて炭治郎が聞けば、義勇はちょっとだけ強い声で言った。
「怖いわけじゃない」
「はいはい、怖いんじゃなくて苦手なんだよな。わかってるって」
「義勇はね、ちっちゃいときにお尻を犬に噛まれてから、動物が苦手なんだって。子猫もなでられないんだよ。でもすり寄ってくるのを追い払ったりしないの。やさしいんだぁ」
「義勇もハチの怪我の具合ずっと心配してたからな。怪我してるのに苦しい思いさせたからって。義勇が悪いんじゃないのにな」
 にこにこと笑いながら教えてくれる錆兎と真菰から、大好きの匂いがしてくる。義勇もちょっとだけ困ったような顔をしてはいるが、うっすらとやさしい匂いがしていた。二人を見る瑠璃の瞳も、なんだかほんのりと温かい気がする。

 炭治郎はそんな三人を見て、うれしいのにちょっとだけ寂しい気持ちがするのはなんでだろうと、小さく首をかしげた。
 学校の友だちが仲良くしているのを見るのは、自分が一緒じゃなくたって、炭治郎も楽しくてうれしい気持ちがする。
 けれど、義勇が錆兎や真菰と仲良しなのは、うれしいのと寂しいのが混じりあって、モヤモヤと変な気持ちになるのだ。