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やきもちとヒーローがいっぱい

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 初めて逢ったときには、そんなこと全然なかったのに。義勇と逢うたびどんどんと、そんな変な気持ちがするようになって、胸がちくんと痛くなったりもする。

 なんで義勇さんにだけこんなふうになっちゃうのかな。義勇さんが楽しかったりうれしかったりするのは、俺もすっごくうれしいのに……変だなぁ。

 炭治郎は、モヤモヤとするその気持ちをなんと呼ぶのか知らない。なんでそうなるのかも、わからない。
 でも、仲良くしているのを喜べないのは、きっと悪いことなんだろう。だから言えない。この気持ちがなんなのか、誰にも聞くことができなかった。

 悪い子は義勇さんだってきっと好きじゃないよな。俺が悪い子になったら、義勇さんに嫌われちゃうかもしれない。それは絶対に嫌だ。

 早くこの変な気持ちがなくなればいいな。思っていると、義勇を仰ぎ見た錆兎と真菰が、不意にそろって義勇の前に進み出た。
「これでいいだろ?」
「広がって歩いたらほかの人が通れなくなっちゃうもんね。ごめんね、義勇」
 義勇を振り返り見て言った二人に、炭治郎はキョトンとしてしまう。
 小さくうなずいた義勇が視線を前に向けると、その視線の先を目で追い、錆兎がうなずき返す。
「ああ、心配しなくても大丈夫だぞ? 俺も真菰もちゃんと注意して歩くから」
「ね? 義勇はやさしいでしょ?」
 今のやり取りはなんだろう。炭治郎にはさっぱりわからない。自慢げに笑う真菰に、また炭治郎の胸がちくんと痛んだ。

「えっと……」
「うん、禰豆子もぎゆさんってやさしいと思う! でも今なんにも言ってなかったよ? なんで真菰ちゃんたちはわかるの?」
 禰豆子の無邪気な問いかけに錆兎と真菰が顔を見合わせるのを、炭治郎はちょっとドキドキしながら見ていた。炭治郎だって、とっても知りたいことだったので。

「義勇の目を見てたらなんとなくわかるんだ」
「わかんないときもあるけどね。前はわかんないほうが多かったよ」
「義勇は元々口下手だったしな。でも今のはわかりやすかったぞ。遊歩道抜けるから、広がって歩いたら駄目だって言ってた」
「あと、自転車とかにぶつかったら私たちが怪我するかもしれないからって」

 言われて炭治郎も義勇の顔をじっと見上げてみた。視線に気づいた義勇が目を合わせてくれたけれど、炭治郎には義勇がなにを考えているのかやっぱりわからない。
 鼻が利く炭治郎は、うれしそうだったり悲しがったりしてる匂いがわかる。でも、義勇の匂いはとっても淡くて、わからないことのほうがずっと多かった。

 俺は義勇さんのことなんにも知らないし、ちょっとしかわからないんだなぁ。錆兎や真菰はいいな。義勇さんがなんにも言わなくてもお話しできるなんて。俺だってもっともっと義勇さんとお話ししたいのに。どうしたら錆兎たちみたいになれるのかな。

 うらやましいなと思った途端に、胸の奥がきゅうっと苦しくなって、炭治郎はなんだか悲しくなってきた。
 チクチクチクチク、胸が痛くて。モヤモヤモヤモヤ、胸が苦しくて。
 隣を歩く義勇は、ときどき炭治郎に視線を向けてくれる。それだけでも、わぁいと手を上げて大喜びしちゃうくらいうれしいのは確かなのに。
 錆兎や真菰は、やっぱり義勇の特別なんだな。そう思うたび急に悲しくなるし、胸のなかがモヤモヤとしてしまう。

 しょんぼりと炭治郎はうつむきかけた。すぐにふわりと炭治郎の鼻をくすぐったのは、心配する匂い。顔を上げてみれば、義勇がじっと炭治郎を見つめていた。
 義勇の表情は変わらない。きれいな瑠璃色の目を見ても、なにを考えているのか炭治郎にはわからない。その目はほかの人が見たら、もしかしたらとても冷たく感じるかもしれなかった。

 でも、心配してくれてる。俺だってなんにも言ってなかったのに。それなのに、俺がちょっと悲しくなっちゃったこと、義勇さんはちゃんとわかってくれたんだ。

 義勇さんは、やっぱりやさしい。

 うれしさと大好きな気持ちがあふれそうになって、炭治郎は、義勇を見上げてにっこり笑った。
『心配させちゃってごめんなさい。俺、元気ですよ! 義勇さんと一緒にいられてうれしいです!』
 義勇に伝わるようにと願いながら笑いかければ、義勇の瞳がやわらかく笑んだように見えた。
 それだけで、炭治郎はうれしくてたまらなくなる。悲しい気持ちが消えて、胸の奥があったかくなる。
 今はまだ、義勇についてはわからないことのほうが多い。それはしかたのないことだ。だってまだちょっとしか逢ったことがないんだもの。

 でもいつか絶対に、義勇さんのこといっぱいわかるようになろう。俺のこともいっぱいいっぱい知ってもらうんだ。そしたら、この変な気持ちも消えるかな。もっと義勇さんに好きになってもらえるかな。

 足取り軽く笑う炭治郎を、義勇から漂ってくるやさしい匂いが包んでいた。