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やきもちとヒーローがいっぱい

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 絶対に義勇を守ろう。蔦子姉ちゃんの代わりに義勇を守ってやるんだ。
 泣くのはこれでおしまい。義勇がちゃんと泣いたり笑ったりできるようになるまで、もう泣かないようにしよう。蔦子お姉ちゃんは義勇に笑ってくれていたと聞いた。お父さんやお母さんが亡くなったときにも、義勇の前では絶対に泣いたりしないで笑ってくれていたって、義勇が言っていたから。
 だから、それまでは義勇に涙を見せちゃ駄目だって、約束したのだ。錆兎と。

 幼稚園児がなにを言ってるんだと大人は笑うのかもしれない。けれど、真菰も錆兎も真剣だった。
 だって、大事なのだ。義勇は二人にとって大事な大事な弟弟子で、大好きでたまらないやさしいお兄ちゃんだ。
 また義勇が二人に笑ってくれるまで、三人で前みたいに笑いあえるまで、絶対に義勇を守る。
 それは、真菰と錆兎にとってはなにを置いても果たさなければならない、大切な誓いだ。

 だから、ごめんね、炭治郎。

 心のなかで真菰はこっそりと、義勇の隣を歩く炭治郎に詫びる。
 炭治郎は義勇の心を引き戻してくれた大恩人だ。本当にうれしいし感謝もしている。
 でも少しだけ、自分や錆兎が義勇を戻したかったと、思ってしまうから。
 うれしいなぁと思う心のなかには、悔しいなぁと思う気持ちもある。義勇のことが大好きだという気持ちは、きっと炭治郎にだって負けてない。今はまだ、真菰や錆兎のほうが大きいと思ってもいる。
 だけどもしかしたら、いつか真菰と錆兎の好きを炭治郎の好きが追い越して。義勇も自分たちに向けてくれる好きよりも、ずっとおっきな好きを炭治郎にあげちゃうんじゃないかって気がした。
 その日のことを考えると、真菰は胸の奥がきゅっと痛くなる。義勇の瑠璃色の瞳が、炭治郎を映してやさしく光っているのを見たときも、待って、もう少し待ってと、泣きたくなったりもした。
 錆兎はなんにも言わないけれど、きっと真菰と同じ不安を抱えているだろう。
 うれしい、よかったと、喜ぶ気持ちには嘘なんてまったくない。けれども、どうして自分じゃ駄目だったんだろうと、悔しくて悲しい気持ちにもなるのだ。
 理由なんて決まっている。義勇のことが大好きだからだ。大好きだからうれしくて、大好きだから、悔しいのだ。
 たぶん、錆兎の悔しさは真菰以上だろう。錆兎は最初に逢ったときから、義勇は俺の特別と決めているみたいだった。だから真菰よりずっと、自分が義勇を助けられなかったことを悔しく思っているに違いない。

 だからこれは、やきもちだ。

 錆兎も、私も、ちょっとだけ炭治郎にやきもちを焼いてる。
 義勇から目を離すのが心配なのは本当。でもちょっぴり、義勇と炭治郎がふたりだけで逢うのが嫌っていう気持ちもある。錆兎だって絶対同じだ。錆兎のことなら、義勇のこと以上に、私にはわかるもの。
 こんなふうにみんなで過ごしていくうちに、義勇さんのことなら誰よりも知ってるって、炭治郎が言う日がくるんだろうな。私が錆兎のことならなんだって知ってるように。
 義勇だってそう。いつか、義勇の一番は炭治郎になっちゃうのかもしれない。でもそれは今じゃない。今はまだ。

 それまでは一緒にいさせてよと、並んで歩く義勇と炭治郎を横目で見ながら、真菰は願う。
 もう少しだけ。私と錆兎がもうちょっと大人になるまでだけ。それまでは、みんな一緒にいさせてほしい。
 もう少しだけ、お姉ちゃんやお兄ちゃん面でかまって、世話して、甘やかして。大好きって、抱きしめさせてほしい。

 願いながら真菰は、空を見上げた。そこには以前の義勇の瞳みたいな、澄んできれいな青が広がっていた。