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やきもちとヒーローがいっぱい

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 それよりも、子供たちに危害を加えられるほうが、よっぽど怖い。それだけは阻止しなければ。義勇の頭のなかで、目まぐるしく状況打破の手立てが浮かんでは消える。

 木に繋がれて動けないあの犬。あの犬さえ逃がせば、ハチを子供たちに任せることができるか? 犬に一番近いやつがおそらくは主犯格。あいつを抑えられれば、残る二人はどうとでもなりそうではある。
 だが、どうやって近づく? 自分を犬の代わりに痛めつければいいとでも言えば……却下。そんな提案を子供たちが許すわけがない。下手したら事態が悪化する。
 なにか。なにか一つでいい、この状況を変える出来事があれば。あいつらがあの犬へと意識を向けないようにできたら。

 思いながらちらりと顔を犬に向けたとき。義勇を気遣うように振り返った炭治郎と目が合った。
 視線が交わったのはほんの一瞬。
 その一瞬で、炭治郎はなにかを決意したように息を吸い込んだ。

「義勇さんを馬鹿にするなっ!!」

 叫ぶなり少年たちに向かっていった炭治郎に、瞬時に義勇の頭にわきあがったのは怒りだ。
 馬鹿なことをと怒鳴りつけそうになった義勇は、けれどそのまま息を飲んだ。まっすぐに走っていた炭治郎の小さい体が、わずかに右にかしいだ。気づいた刹那、その意を悟る。
 なるほど。しかし無謀であることには違いないぞと眉を寄せ、義勇は、迷うことなくリードを錆兎に向けて放り投げた。竹刀を取り出しながら、任せたとだけ言い残し、義勇は駆ける。
 その言葉にハッとして、リードを握った錆兎と真菰がハチに飛びついて抑えた。ハフハフと息を切らせて追いついた禰豆子も、わけがわからないなりに一緒になってハチに抱き着いている。

「ハチ、動くなよ!」
「義勇の邪魔しちゃ駄目!」
「ハチ、おすわり!」

 口々に言う声を背に炭治郎を追った義勇は、炭治郎のシャツを掴み引き寄せ、すぐにその手を放した。ワッと声を上げて背後で尻もちをついた炭治郎をそのままに、跳ぶように踏み込みながら、鋭く竹刀を突き出す。
 炭治郎に気を取られていた少年は、突然の義勇の行動に反応さえできなかったのだろう。首を掠めてフードに突き入れられた竹刀に、ヒッと小さく悲鳴が上がった。
 それに頓着することなく、義勇はそのままフードをねじるように竹刀を返した。フードにくるまれた剣先を、迷うことなく下に向ける。さらに一歩大きく踏み込みながら体をひねり、義勇は少年の背後を取った。そのままの勢いで剣先をフードごと地面に突き立てる。

 それは義勇が駆けだしてから三十秒にも満たない間の出来事。

 うつぶせに倒れた少年は悲鳴を上げたが、おそらくは、自分の身になにが起こったのかすらわかっていないだろう。その背に片膝をつき動きを抑えると、義勇は、ゆっくりと炭治郎に視線を向けた。
「……こうした」
「え? えっと、なにがですか?」
 炭治郎が立ち上がりながらキョトンとした顔で聞くのに、無言で義勇は、錆兎たちに抱え込まれているハチにちらりと目をやった。そうしてまた、炭治郎をじっと見る。
「あ! ハチを抑えつけたときですね!」
 こくりとうなずけば、炭治郎の顔がパァッと輝いた。
「凄い! 凄いです、義勇さん! やっぱり義勇さんはすっごく強いやっ!」
 大興奮ではしゃぐ炭治郎と同じく、錆兎たちもハチと一緒に駆け寄りながら、凄い凄いと大喜びだ。

「ふ……ふざけんな! どけよ!」
「冨岡てめぇ、頭おかしいくせに生意気なんだよ!」

 怒鳴りながら仲間を抑えつける義勇を蹴りつけようとする少年たちに、ハチが思い切り吠え立てる。びくりと震えて足を下ろしたものの、少年たちは憤懣やるかたない様子で、口々に義勇を罵倒しだした。
「こんなことしてどうなるかわかってんだろうなぁ、冨岡ぁ!」
「てめぇがいきなり乱暴してきたって言いふらしてやるからな! てめぇみたいな頭おかしいやつは、鉄格子ついた病院にでも入ってりゃいいんだよ!」
「さっさとどけよ、痛ぇだろ! 絶対怪我したぞ、慰謝料よこせよな!」
 そんな言葉に激高したのも、義勇ではなく子供たちのほうだった。
「義勇さんになんてこと言うんだ! おまえらこそハチやその犬を苛めてたくせに!」
「ふざけてんのはどっちだ! 天網恢恢疎にして漏らさずっ、おまえらの悪行が許されると思うなよ!」
「義勇を馬鹿にするなんて、なにがあろうと絶対に許してやんないんだからね!」
「大嫌い! 馬鹿ぁ!!」
 ギャンギャンと喚きたてる子供たちに、義勇はちょっと困ってしまう。主犯格っぽいこいつを放すわけにはいかないが、このまま膠着状態というのもいただけない。子供らに危害を加えられるのだけはなんとしても防がなければならないが、どうしたものか。

 自分はまったく気にしてないのだから、そんなに怒ることはないのに。

 それなのに炭治郎たちは、絶対に許すものかと小さな全身に怒気を孕ませ、一歩も引く気がないようだ。禰豆子にいたっては、嫌い嫌いと泣き出してしまっている。ハチもそんな子供らにつられて吠え続けているうえ、石を投げられていた中型犬も少年たちの劣勢を感じ取ったのか吠えだす始末だ。
 途方に暮れていた義勇の思考を、少年らの言葉が引き戻した。

「うるせぇガキどもだなぁ。そうだ、こいつらも冨岡と一緒に犬に石投げてたことにしてやろうぜ」
「お、それいいな。注意した俺らに冨岡がいきなり襲いかかってきた、と」
「ガキや頭の狂ったやつの言うことなんか、誰も信じるわけねぇもんな。俺らのほうが被害者でーす、頭おかしいやつらに襲われて怖かったですーってな!」
 ニヤニヤ笑って子供たちに言う少年らに、義勇の体がカッと熱をおびた。

 自分のことなどどうでもいい。だが、この子たちに対しての悪意は絶対に許さない。

 義勇は、試合や鱗滝との打ち合い稽古以外、人に向かって竹刀を振るうことはない。ハチとの一件だって、首輪の隙間を狙って極力痛めつけぬようにしたぐらいだ。
 けれど、もしもこいつらが子供たちに手を上げようとしたら、きっと自分はこいつらを叩きのめしてしまうだろう。それで危険視されて本当に病院送りになったとしても。
 竹刀を持つ手に、ぐっと力がこもったそのとき。

「ふむ。だが、第三者の証人の言葉なら信じると思うぞ!」
「証拠もあるしな。派手にばら撒いてやってもいいぜぇ?」