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天空天河 五

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「、、、赤焔事案を覆す証拠というのは、本当に有るのか?。
 私は、時間を作っては駆け回り、探したというのに、、一つとして、確たる証拠を掴めなかったのだ。
 本当に、、証拠が、、、。」
「ええ、、有りますとも。
 どれ程、足跡を消そうとも、必ず軌跡は残るもの。
 江左盟では、当時の謝玉の配下を、確保している。
 謝玉の為に働いたというのに、消されかけた。
 江左盟は、虫の息だった彼を救い、命の保証をしている。
 彼は、謝玉を倒す為ならば、協力を惜しまぬと。」
 眼光鋭く、長蘇が答えた。
「ならば、、赤焔事案は覆るのだな。
 祁王兄上の汚名を濯ぎ、墓陵を建ててさしあげられる。
 良くして頂いたのに、私は何も出来ずに、兄上を死なせてしまったのだ。」
 靖王は涙ぐむ。
「そなたも林主帥の潔白を示せる。良かったな。」
 微笑みながら、静かに話す靖王に、急に長蘇の喉に熱いものが詰まり、何も言えなくなった。ここで無理に長蘇が話せば、涙声になってしまうだろう。


 なるべく、靖王に気取られぬ様、長蘇は少し、落ち着いてから、口を開いた。
「何故、私が?。確かに赤焔事案の真実が明かされれば、嬉しい事ではありますが。」
 そんな一言に、靖王は怪訝に眉を顰める。
 たが直ぐに、『そうだ、小殊は私の前でも、梅長蘇なのだ』と思い当たり、長蘇の胸の内の複雑さを察した。

「だが、表立って断罪をしても、謝玉は陛下の寵臣、否定されたり、証人を抹殺されてしまっては、こちらが逆賊になります。
 私は大勢の前で、謝玉に、罪の告白をさせたい。
 そこで、殿下にお願いしたい事は、飛流を差し向けますので、殿下の配下の皆さんで、寧国公府に押しかけて頂きたいのです。」
「は?、、何を言っている??。謝玉に罪の告白だと??。
 そんな事が可能ならば、赤焔事案はとうに、覆されている。
 一体、何をする気なのだ?。、、、また、無茶を、、、」
 更に深々と、靖王の眉間に皺が表れる。
──あはは、、、またか。心配性だな。
 私も、いい大人なのに、、。
 景琰の中では、何時までも、あの頃の子供のままなのだな。──
 長蘇は、江左盟という、江湖の一大勢力の惣領なのだが、靖王は、それを知っていて尚、長蘇の子供の頃が頭を離れず、眉間に皺を寄せて、心配をしている。

 長蘇には靖王の姿が、滑稽でもあり、、、嬉しくもあり、、、、。
 心が温かくなった。

「ご心配、無きよう。
 そう、無茶はしませんよ。
 謝玉の件で、終わりではありませんので。」
 長蘇は、にっこりと微笑んで言った。
「、、、、私が、蘇哲と共に行こう。
 そうすれば、謝玉もそなたに、手出しは出来ぬだろう。」
「殿下が?。
 それでは謝玉に、警戒をされてしまう。
 私の様な、虚弱な者が行くからこそ、謝玉に油断が生じるというもの。
 まさか私の様な弱者を、本気で叩きのめそうと??。流石の謝玉も捕らえて牢に入れる位でしょう?。命の危険は無い筈。
 捕らえられたなら、靖王殿下に、出してもらえば良いのです。」

「あはははは、、、。
 、、、、、蘇哲、冗談めかして、言うのは止せ。
 本気ではあるまい?。寧国公府に入って、無事で済むはずが、、、、。」
 靖王の言葉を遮るように、長蘇が言った。
「、、、、、我が蘇宅から、そちらに、ゴミが飛んでいきませんでしたか?。」

「は??、、何??。」
 靖王は突然、話を変えられ、困惑した。
「私の主治医が、描いた絵が、無くなったと騒いでいるのです。
 私も見ていないので、真偽は分からぬのですが。
 もしや、、風で靖王府に?、、と、、。」

 長蘇の問いに、どきりとした。
━━あの、長蘇の絵の事だ。━━

 靖王は考えに考えて、、、。
「、、、、、、、、、、、知らぬ。」

 その靖王の答えに、満足したのが、それとも別の事を考えているのか、長蘇はにっこりと笑い、冷静に言う。
「そうですか。それは失礼いたしました。」
「、、、、、。(汗)」
 靖王は何も言えなかった。
「では、靖王殿下、話を戻しますが。
 待機している、殿下の所に、飛流が連絡に行きます。
 飛流の連絡を待ち、突入してください。」
「、、、、、、(不承不承)分かった。」
「では、よろしくお願い致します。
 私はこれで失礼を。」
 長蘇はゆっくりと立ち上がる。
 普段、長蘇が立ち上がる時は、ふらついたりするのだが、今日、靖王府での滞在は、半刻にも満たない。今日は大丈夫だった。
 そして、靖王に拱手をした。
 靖王も挨拶を返した。

 長蘇は振り返りもせず、迷い無く真っ直ぐに、密道の扉の中へと消えていった。

 長蘇のすました背中が、靖王の心に焼き付いた。
━━小殊、、、、、、笑っている??。
 小殊は、私が持ち去った事を知っていて、私を揶揄ったのか?。━━

 『林殊ならば、やりそうだ』と思った。

━━ああ言われてしまっては、寧国公府へは共には行けない。
 小殊を守りたい、、ただ、そう思っただけなのに、、、小殊ときたら、、。
 考えがかあって、断ったのだろうが、、、、
、、、、、、、、、、心配だ。━━

 靖王に、悶々と沸き起こる不安。

━━それに、、私が絵を持ち去ったのを、どう思っただろうか。
 、、、、、、そして私は、小殊に嘘までついた。

 小殊は私に、呆れてしまっただろうか、、。
 信用を無くしたか?。

 、、いや、、小殊の背中は、笑っていたみたいだが、、


 、、、、どうなのだ?。(以下悶々)━━


 靖王殿下の悩みは尽きぬ。


 長蘇が寧国公府へ、顔を出すのは、まだ少し先の事。
     (靖王はその日まで悩み続ける)






作品名:天空天河 五 作家名:古槍ノ標