二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

籠の中の鳥

INDEX|2ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 


「来たね」
学ランを肩にかけ、ベンチで本を読んでいたらしいヒバリが振り返った。
何の本を読んでいるのだろうと気になってこっそりのぞいたが、英語のタイトルだったのでわからない。ふと学校の順位表を思い出す。ヒバリは一番とまではいかなくてもなかなか頭が良かった。
「行こうか」
一言だけそう言うと、目的地も告げず、もともと買ってあったらしい切符をツナに渡し、ヒバリはさっさと改札を通る。
切符はちょうど5駅分くらいの金額のもので、あまり電車に乗らないツナは目的地の見当もつかない。
しかし「どこへ」とも「何をしに」とも聞かず、ただ自分の分の切符代を払う、とだけ言って財布を出そうとする。それをヒバリは「いいよ」と少し微笑んでやんわりと制した。その表情、ツナはとてもきれいだと思う。誰かを睨む時も、自分に向ける優しげな顔も、たまにほんとにきれいな表情をするよなぁ、とツナはしみじみ思った。
電車に揺られていると心地よくて、今日の体育のマラソンの疲れもあってか、いつの間にかヒバリの肩にもたれて眠ってしまっていた。目が覚めた時には外の景色はほんのり薄暗く、みたことのない外観に変わっていた。
「あ、ごめんなさいヒバリさん。肩重かったですよね」
「別に。眠いのなら、寝ててもいいよ。僕が起こしてあげるから」
寝ててもいいと言うぐらいなら、まだかかるのだろうか。おそるおそるもう一度肩に寄りかかっても、ヒバリは嫌な風を見せなかったので、安心して肩をかしてもらった。一度寝てすでにすっきりしていたから、ヒバリの読んでいる本をのぞく。タイトルだけでなく本文も英語だったことに驚いた。ツナはヒバリのことをあまり知らない。家がどこなのか、何人家族なのか。もしかしたら将来の夢は英語関係なのかもしれない。通訳とか、そういうの。外人に混じって綺麗な黒髪のヒバリがぺらぺらと英語を話す様を想像して、絶対かっこいい、とツナは思う。でも凶暴なヒバリさんだから、ちょっとでも気にくわないとこがあると外人殴っちゃいそうだな、そう思ってツナは笑った。その様子を不思議そうに見て「どうしたの?」とヒバリは聞く。それになんでもありません、と笑って返した。
電車を降りたのは、それから5分くらい経った頃だった。

見慣れない景色に、きょろきょろとあたりを見回していたら、ヒバリが立ち止まってツナを振り返っていた。いつのまにか距離が開いてしまっていたらしい。あわてて駆け寄ると、普通に手をつながれた。ツナはそれに少し驚いたが嫌な感じはしない。
「迷子にならないようにね」
「子供じゃないんだから、大丈夫ですよ」
「どうだか」
むくれるとヒバリがくすくすと笑う。それに気をよくしたツナも笑って、ここでやっと目的地について聞いた。
「今日、どこ行くんですか?」
「ここだよ」
言われて見てみると、住宅街からほんの少し離れて、こじんまりとした家が佇んでいた。
「ここ、ですか?」
白と言うよりクリーム色に近い壁に、出窓がいくつかある。玄関は両開き。レンガみたいなもので門扉から玄関にかけて道ができている。その周りには花はないがかろうじて草取りなどの手入れはされている花壇、芝生の小さな庭まであった。
かわいらしい家だが、なんとなく奇妙さを感じたのは、全ての窓にカーテンがかかっていたからだ。人が住んでいる感じがしない。
この家がなんなのか問う前に、白い門扉のカギを開けながらヒバリが口を開いた。
「ここはね、僕の家なんだ」
「ヒバリさんの?」
「とはいっても、今住んでいるんじゃない。僕の子供部屋として使っていたんだ」
一戸建てを子供部屋として使うのか。ツナは驚いたが、話の腰を折りたくないので、ヒバリの家の金持ち加減は後で聞くことにした。
「それで、なんで俺をここに?」
玄関を開けて中へ誘導されたので、少しためらいつつも入る。後から入ったヒバリが、鍵をがちゃりと閉めた。
「ヒバリさん」
「綱吉、ひとつ約束してもらいたいことがあるんだ」
「約束?」
リビングらしき部屋に案内されて、ソファに座らされる。
ツナはここにきて初めて恐怖感を感じた。ヒバリの思惑がわからない。
何者もいれず何年も生きてきたこの家が、なんだかすごく不気味に感じた。人が住んでる感じはしないけど、人外のものがいるような。もともと怖がりのツナは勝手に想像を膨らませて怖がる。
不気味だ。そして物怖じせず静かに紅茶を入れるヒバリも。
「僕の許しなしにここからでない。勝手に帰らない」
「え?」
意味をつかみかねて聞き返すが、ヒバリはかまうことなく続ける。
「本当は外から掛ければ内側から開かない鍵をつけたかったんだけどね、間に合わなかったから」
「あの」
「これだけ守ってくれればいいんだ。いいだろう?」
縋るように言われて、あやうく肯定してしまいそうになるが、ぐっとこらえて言葉をしぼった。
「でも、俺明日も学校だし、親も心配するから」
「そのへんは、心配しなくていいよ。僕が言っておいたから」
ヒバリなら確かに、無断欠席くらいどうとでもできそう。そこには少なからず安堵したが、でもここにいなければならないことの意味がわからなくて、不安になった。
「あの、でも、なんで俺」
「ただ一緒にいたいだけさ。地元では邪魔者が多いからね。二人きりで、しばらく過ごしたいだけ」
「ここで?」
「そう、ここで。大丈夫、生活に必要なものは一通りそろっている」
「で、でも」
「君は、知ってるよね?僕の気持ち。最後の我侭だよ。お願い」
「気持ち?」
ツナにはヒバリの言わんとしているところがわからなかった。知ってるよね?と言われたが、ツナは何もわかっていない。きょとんとするツナを、ヒバリは黙ってみつめていた。
「ヒバリさん、帰りましょう?」
ツナの瞳が不安げに揺れる。
「だめだよ、綱吉。ここにいるんだ」
「でも……」
目を伏せてツナは逡巡した。どうせ、帰り道なんてわからない。駅からも結構歩いたし、自分がちゃんと来た道を辿ることはできないだろう。だからといってヒバリを説得できるとも思わない。いつもはツナの意見を、こっそり尊重してくれるが、今回は有無をいわせない迫力があった。逆らうことはできない、と感じた。
ツナは困惑する。どうすればいいのかわからないが、帰ることができない以上、残された選択肢はヒバリの言うことに従うだけ。
「……わかりました」
だからツナは、ただうなずくしかできなかった。

作品名:籠の中の鳥 作家名:七瀬ひな