籠の中の鳥
「トイレはここ、向こうにあるのがお風呂」
ヒバリは一通り家の中を案内したが、一度に覚えられるものでもない。その都度聞けばいいかと思って適当に頷きながら聞く。
本当に子供部屋としての家なのだろう、部屋数はかなり少ない。今はもう全部片付けてしまったんだろうけど、きっとどの部屋にも遊具があったんじゃないかなとツナは思った。
何も無い部屋が多い中、勉強机と本がつまった本棚のある部屋をみつけて、ヒバリに聞く。
「あぁ、ここは勉強部屋だよ。たまに来るんだ。気分転換にもなるし、このへんは静かだから」
「ヒバリさんって、普段どこに住んでるんですか?」
「小さい頃はこの家のすぐ隣に母屋があってね、でも父親の仕事の関係で、今の中学の近くに引っ越したんだ」
「そうなんですか。俺、なんとなく一人暮らしだと思ってました」
「そうともいえるよ。親はいつもいないから」
「え」
「忙しい人でね。それで、引っ越す際ここも売ろうとしたんだけど、いつか独り立ちするときに使えるかもしれないから、とっといてもらってるんだ」
自分の家だから開放感があるのか、今日のヒバリはよくしゃべった。普段自分のことをあまり話さないヒバリだから、こんな風にいろいろ話してくれることがツナにはうれしい。
「あぁ、もう夕飯の時間だね」
まだ聞きたいことはたくさんあったけれど、ヒバリは話すのをやめ台所に入っていってしまった。一人暮らし用の小さな冷蔵庫から、コンビニ弁当を二つ取り出しテーブルに置く。
「どっちがいい?」
パスタとオムライス。どちらでもよかったが、ヒバリにはパスタのほうが似合うと勝手に考えて自分はオムライスを選んだ。
「俺、こっちにします」
「そう。温めるから、ちょっと待っててね」
四人がけのテーブルについて、二人で夕飯を食べる。背筋をのばして、くるくると器用にパスタをまいて食べるヒバリはやはりどこか気品が漂っている。
「ヒバリさんって、料理はしないんですか?」
「しないよ」
「そうですか。えっと、明日からのご飯は」
「あぁ、僕が買ってくるから。何か欲しいものがあったら言って」
じゃあこれから毎日(何日間になるかはわからないが)コンビニのお弁当なのか。ツナは思って、ため息を吐く。弁当は嫌いじゃない。だけど体に悪い。自分のことより、風邪をこじらせて入院していた、体の弱いヒバリが心配だった。
「……ごちそうさまでした」
その後は他愛もないことを話してから、促されるままお風呂に入った。着替えも全部用意してあって何不自由ない。ツナの後にヒバリがはいって、病院のときと同じ黒いパジャマを着てリビングに戻ってきた。自然乾燥していた濡れたままのツナの髪を見て、ヒバリは怒ってドライヤーを持ってくる。
「風邪引いたらどうするの」
「はぁ、ごめんなさい」
髪を乾かしてもらうのは気持ちがいい。髪を梳くヒバリの手の感触に、心地よさを覚えてうっとりと目を閉じる。自分が、なぜここにいなくてはならないのか、まだよくわからないし戸惑いもあるが、たまにはこういうのも悪くない。家族とか、友達といるときとは全く違った感情がここにはある。