籠の中の鳥
目が覚めたら14時だった。だいぶ時間はつぶせたけど、ヒバリが帰ってくるにはまだ早い。
お昼はヒバリも失念していたのだろう、食べるものはなかったが、こんな中途半端な時間に食べる気はしないので、夕飯のことを考えた。
(目玉焼き、ヒバリさんすごく喜んでくれたな)
あんまり感情を表に出さない人だけど、朝は隠しきれてなかった。手料理がうれしいだなんて、普段の生活でも弁当ばかりなのだろうか、と考えるといたたまれなくなった。
(あんなに喜んでくれるなら、夕飯も作ってみようかな)
ふとそう思って。思いついてしまったらもう、実行したくてたまらなくなって。
まだ時間はある。だが材料がたらない。学校帰りだったため、かばんはあるので見ると、財布の中に2000円があった。おこずかいをちょうどもらった次の日だったから、これだけあれば足りる。一気に使ってしまうことになるけど、ツナにとってそんなことはどうでもよかった。
「近所にスーパーあるかな……。この辺の人に聞けばわかるよね」
それもまた楽しい。プチ冒険のようだ。財布だけ持って、玄関に向かう。ヒバリの喜ぶ顔を想像しながら、にこにこと微笑んで靴を履いた。
ツナは失念していた。別に逃げ出す気で家をでるわけでもないから余計に。
ここからでてはいけないと、念をおされたことを、ツナは全く思い出せずにいた。
「何をしてるのっ!?」
ドアを開いたらヒバリがいて、それこそツナは心臓がとびだしそうになった。ヒバリが本当に怖い顔をしていたからだ。
「あ、お、俺……」
今までと比べ物にならない集中力で早めに仕事を終わらせられたヒバリは、玄関を出ようとするツナを見て、頭に血が上るのを感じた。同時に血の気が引く感じもする。
「約束しただろ!逃げる気だったのかい、君は…っ」
ヒバリが怒っている理由は明らかにわかっていたから、ツナはただ、親に怒られた子供のようにびくびくと怯えた。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
思わず涙があふれてきたツナを見て、ヒバリはあわてて駆け寄ってそっと華奢な身体を抱き締めた。一瞬びくっとツナの身体がはねたが、振り払わずにおとなしくだきしめられている。
「怒鳴ってごめん。怖かったね」
「け、今朝、ヒバリさん、喜んでくれたから、俺の料理っ」
嗚咽しながら、小さな声でツナが言う。
「うん……」
「だから、今日はもっといいの作ろうと思って、でも俺が知ってるのハンバーグくらいで、でもそれには材料足らなくて」
「買い物にいこうとしたのかい?言ってくれれば、僕が買いに行ったのに」
「だって、驚かしたかったから……」
「ばかだね」
ヒバリは一際きつくだきしめた。なんにせよ、逃げようとしていたわけじゃないことに安堵しながら、ツナが落ち着くまでそのままでいる。
「……一緒に買いに行こうか」
嗚咽が収まってきたころを見計らって言うと、ツナはぱぁっと表情を明るくさせて、うれしそうに頷いた。